《最終回》一本の糸から 40年の歩み ~今こそ 繋がり~ 第10回

5月1日にスタートした連載企画も最終回を迎え、全63名の皆様からのメッセージがここに完結します。

作り手の皆様の深い思いに触れていただき、心の繋がりを感じていただけましたら幸いです。

第10回は、6名の皆様のメッセージをお届けします。

北村武資さん(羅・経錦)
松枝哲哉さん・小夜子さん(久留米絣)
こくたせいこさん(ろうけつ染)
村江菊絵さん(草木染織)
荒木節子さん(染色)


作り手の皆様のメッセージ

泉二さんとプラチナボーイ 

 京都では、月初めに染織関係の催事が開かれることもあって、泉二さんにお目にかかる機会が多くなった。
 いつも端然とした和服姿で、自らハンドルを握ってご来訪いただくので恐縮するばかりである。京都の入り込んだ街中に点在する商社や工房を廻り、品物の選別や物づくりの現場の様子を自身の眼で確かめる、それが経験に培われた泉二さんの信条である。
 ある日、突然プラチナボーイが話題となり、何の話かと不思議に思った。きものや帯の素材である絹糸は、繭から製糸、染色、整経などの工程を経て織物になるが、その技術は、太古の昔から多くの工人によって工夫改良が重ねられ、現代に繋がっている。
 泉二さんは常にオリジナリティを求め、物の良し悪しは素材で決まるという信念のもとに探究し、巡り合った究極の素材、それが雄蚕から生成されるプラチナボーイなのである。
 プラチナボーイを素材にした制作が、産地や作家の手によって進められているという。
 今日も銀座もとじさんでは、店内のメインテーブルに着物や反物が拡げられ、友禅の訪問着を試着する人も居て、お客様と作り手との会話が弾んでいることだろう。
 奄美大島と東京銀座、大島紬とプラチナボーイ、その間の道程に、泉二さんの語りつくせない御苦労があったと思う。

令和2年6月17日
北村武資

写真中央が北村武資さん。写真右は、2017年個展で「和織物語」を執筆された外舘和子さん。
40周年記念作品の袋帯「煌彩錦 笹」

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松枝哲哉さんからのメッセージ

藍の色に白く輝く光の点在・久留米絣である。泉二弘明氏から「絣の輝きはダイヤモンド」とお言葉を戴いたことで、伝統工芸の作り手と纏う人を繋ぐ「銀座もとじ」の存在が心強く感じられ、もとじ様ご一家(スタッフを含むファミリー)の誠意と信頼によって得られる出会いの喜びは大きい。伝統工芸久留米絣の「菊花文」や白絣「井筒」、絵絣「杉木立」や格調を意識した華やぎの「段熨斗目・藤文や鳳凰文」普遍的な「十字絣」等の作品を紹介いただき、お客様に纏っていただくことで、作り手は励まされます。繋いでくださる泉二様に深く感謝するものです。コロナ感染症拡大を受けて、より一層強い心で丹念に制作に挑み、皆様の心が和むと共に健康と幸福感を取り戻せますように希望をもって再会を信じています。

多摩美術大学教授・外舘和子先生の紹介文と率直な語りは、私にとって感動でありました。代々と繋がる仕事、作り続けてきた作品の数々はデザインから織までの緻密な工程のすべてをこなしていくことが当たり前と思っていた私にとって、大変稀なことで、自己完結することの意義を高く評価いただいたのです。正直なところ、手仕事がやっと認められて報われた思いです。

36工程の一つである「絵台」仕様による松枝家独創的「絵絣」の技法を次世代に託し、久留米絵絣の歴史と担う手が消えないことを願う。藍染は徳島の「(すくも)」(藍の葉を100日かけて発酵させる国の選定技術保持者製造のもの)を原料に純正天然藍灰汁建て自然発酵建てをする。我が家では1~3番木灰汁を3日かけて作る。藍甕に(すくも)と灰汁を入れて、2~3週間見守る中に水飴や酒の栄養分を入れ、貝灰を加えて㏗管理の手間と心を込めて藍を建てる。発酵屋の仕事である藍建てができて、初めて藍染めが可能となる。日本の染織史に於いて、天然藍は奥の深い藍文化として脈々と生き続けている。「藍甕に浸して絞るわたの糸 光にかざすとき匂ひたつ」2010年宮中歌会始の儀・預選者 自己完結する久留米絣の手技は長い歳月とその時折の想いを籠める心の結集である。

二つの手で今日も手括りし、染め織りと制作に向き合う。久留米絣の布の力に希望を籠めて明日へと繋がることを願い、皆様の安全と幸せを祈るものです。

令和2年5月吉日
松枝哲哉


松枝小夜子さんからのメッセージ

40年もの長い間にお客様とのご縁を温め、繋ぎ歩まれる銀座もとじ様

皆様とお会いできることに期待と希望に胸ふくらませた矢先にコロナ感染症拡大によって会の延期となり無念でございました。コロナウイルスは、地球上にはるか昔から存在していたのではないかと思うようになりました。今日を生きていることは、ぎりぎりセーフの奇跡の命が繋がっている。

今日という日は、私の人生の最初で最後の日かもしれない。そんな今を感謝する祈りの時間をもちました。ここに記す一文字は糸を操り生かされる私にとっての一本の糸の重なりで表現するメッセージです。

作品で伝達する思想家は、思想を持つのではなく今に活かすことを考えて働きたいと願っています。再会の日には、夢を分かち合う繋がりを取り戻す機会となることを信じています。

私を育んで下さった人、心寄せて下さった人、作品を身にまとってくださる人、生きる仕事に向き合い働くすべての人々に敬意と慈しみを以て、心より感謝します。

令和2年5月25日
松枝小夜子

写真右より、ご子息・崇弘さん、松枝哲哉さん、外舘和子さん、松枝小夜子さん、店主・泉二。2016年開催の個展より。
40周年記念作品 松枝哲哉作「かすりの径」。白を基調とし、藍の絣が道標となり大きなリズムを作る。

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長い付き合いである。和織が開店して間もなくの頃、現在の「男のきもの」の店舗に客として訪れてから付き合いは始まった。本店は一丁目にあった。社長はまだ50歳の手前だったように記憶している。

作り手としては25年、母の死によって「着る人」にもなろうとしていた絶妙のタイミングでの出会いであった。しかもギャラリーを探していた。探しあぐねてどこかないかと相談をしたところ、「もとじでやればいいよ」という返事。いい加減な話である。

20年以上が経った。目の肥えたたくさんのきもの好きに出会い、たくさんの優れた作品と作家に出会い、そうしてわたしは育てていただいた。誰かを想定して着物を染めることはないが、あたかもそうしたように劇的に似合う人の元にいく。それもこの20年で得た確信だろうか。そここそが面白さなのかもしれない。付き合いはもう少し続きそうだ。

令和2年5月1日
こくたせいこ

プラチナボーイの生地に染めた40周年記念作品の小紋。
同じくプラチナボーイの生地染めた40周年記念作品の九寸名古屋帯。

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2014年秋、太田和のギャラリー「小華舎」で作品展を開いて頂きました。初日、最初にいらしてくださったのが銀座もとじの社長様でした。

着物5点帯15点の小さな会でしたがお気に召して頂き、翌年1月に銀座のお店で個展を開いて下さいました。ぎゃらりートークには30人程のお客様が熱心に耳を傾けて下さいました。偶然にもお客様の中に海外旅行でご一緒した方がいらっしゃり、着物「夏木立」をお求め下さいました。人生の巡り合い、本当に嬉しかったです。

また、帯をお求め下さったお客様が写真を送って下さり、どのお着物にも寄り添い、とても素敵でした。その後、国展に帯を締めてご来場下さり感激いたしました。

一本の細い糸から生まれた作品が、もとじ様を通じて作り手からお客様へと繋がり、40数年この仕事を続けてこられた幸せを感じます。

私がモットーにしてきた「糸を染め、心を織る」の気持を大切に、これからも心静かに機に向かいたいと思います。

令和2年5月
村江菊絵

40周年記念展で特別出品していただいた絵羽紬「弥生の季」。第90回記念国展入選作品。
草木染の澄んだ色彩と、平織りの中に可憐に浮かぶ花織模様。

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銀座もとじではじめて個展を開かせていただいたのが2005年、それから年月を経て昨年再び会をさせていただくことになりました。その折に大変嬉しい出会いがありました。

私は「海・空・風・光」などを故郷の風景に託して染めることが多いのですが、その御方は私の海の色ブルーが好きですと御母上様共々、帯をお買い求めくださいました。その後、ご丁寧なお手紙を頂戴いたしました。

彼女にとって丁度仕事の節目にあたり、新たな気持ちでリセットの時、一人旅で出会った明け方の海の色のことや今やりたいことに気付いたことなど、率直に綴られてありました。

その中で私の帯のことを「私が私に戻れる帯」と書いてくださっており。はっと心を打たれ、作り手の私に力を与えてくれる忘れられない言葉になりました。

令和2年4月19日
荒木節子

写真中央が荒木節子さん。2019年の個展より。
40周年記念作品の染九寸名古屋帯。

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これまでに届いたメッセージはこちら

それぞれの作り手のお名前をクリックしていただくと、メッセージをご覧いただけます。

第9回
しらたか天蚕の会(白鷹天蚕紬)>>
山崎和樹さん(草木染)>>
丹波布技術保存会技術者協会(丹波布)>>
久保原由佳理さん(草木染紬織)>>
香月美穂子さん(草木染浮織)>>
西山英子さん(草木染浮織)>>

第8回
切畑健さん(京都国立博物館名誉館員)>>
福本潮子さん(藍染)>>
上原美智子さん(あけずば織)>>
築城則子さん(小倉織)>>
樹田紅陽さん(京繍
)>>
坂田康太郎さん(オペラサロン講師)>>

第7回
岡本隆志さん(型絵染)>>
服部綴工房さん(綴れ織)>>
四ツ井健さん(友禅)>>
滋賀喜織物さん(西陣織)>>
下井伸彦さん(下井紬)>>

第6回
吉村紅花さん(文化学園大学)>>
菊池宏美さん(江戸小紋)>>
益田勇吉さん(大島紬)>>
石川浩さん、谷田部尅詮さん、増田康治さん(養蚕農家)>>
碓氷製糸株式会社・蚕絲館・南久ちりめん株式会社(製糸・製織)>>
田中敦子さん(工芸ライター)>>

第5回
髙橋寛さん(東京友禅)>>             
平山八重子さん(草木染紬織)>> 
生駒暉夫さん(友禅)>> 
松原伸生さん(長板中形)>> 
大髙美由紀さん(紬織)>>       
藍田愛郎さん(江戸小紋)>> 

第4回
森康次さん(日本刺繍)>>
湯本エリ子さん(友禅)>>
矢野まり子さん(草木染紬織)>>
犬飼千賀子さん(友禅)>>
前田紬工芸さん(大島紬)>>
奥順株式会社さん(結城紬)>>

第3回
荒川眞理子さん(型絵染)>>
松浦弘美さん(ほら絽織)>>
須賀恭子さん(草木染紬織)>>
澤田麻衣子さん(型絵染)>>
中野史朗さん(和更紗)>>
和小物さくらさん(小物)>>
清水晶子さん(帽子デザイナー) >>

第2回
五代 田畑喜八さん(友禅)>>
海老ヶ瀬順子さん(穀織)>>
織楽浅野 浅野裕尚さん(西陣織)>>
藤山千春さん・藤山優子さん(吉野間道)>>
ATENARI角元弥子さん(蒔絵) >>

第1回
外舘和子さん(多摩美術大学教授)>>
小倉淳史さん(絞り染め/辻が花)>>
山岸幸一さん(草木染紬織)>>
久米島紬事業協同組合さん(久米島紬)>>
伊藤裕子さん(組紐師)>>

第9回目までのメッセージ一覧はこちら

メッセージを寄せていただいた作り手の皆様の作品はこちらから