第8回は「国内外でご活躍の作家」特集
ジャパン・ブルーを世界へ発信される藍染の福本潮子さん、
絹糸の命の輝きを思想的な作品に込め注目を集める上原美智子さん、
小倉織を復元されVictoria and Albert Museamにも作品が収蔵される築城則子さん、
京都祇園祭・保昌山胴掛類の刺繍を復元されている樹田紅陽さん、
長年、日本の染織史研究に従事しながら着物の和様美を考察し続け、樹田さんの仕事を見守ってこられた、京都国立博物館名誉館員長の切畑健さん、
オペラの招へい等に携わり、銀座もとじでは2010年より「きものでオペラへ」で講師を務められる坂田康太郎さん。
国内外でご活躍される皆様からの言葉に、着物は「身に纏う芸術」であると、あらためて気づかされます。
貴重なメッセージをぜひご一読ください。
切畑健さん(京都国立博物館名誉館員)
福本潮子さん(藍染)
上原美智子さん(あけずば織)
築城則子さん(小倉織)
樹田紅陽さん(京繍)
坂田康太郎さん(オペラサロン講師)
作り手の皆様からのメッセージ
銀座もとじの使命
いま、すばらしい美しさとその個性で魅了する女性モデルがいます。
来日した彼女の行動に又々魅了されました。
その一つに彼女がキモノを着たことがあります。キモノを現代のファッションとして、彼女の世界として扱い表現するのに大いに感動しました。
しかし、ここからがザンネンの思いです。
先ず着方が色町風であることです。そう感じさせてしまうのは大変損です。
又、キモノの命ともいえる、帯や小物などとの取り合わせは、キモノ美の本格が理解されていません。それらを彼女に求めるのは無理です。
ですから周囲に居て手助けした者の能力が問われることになります。
こんな時に是非とも「銀座もとじ」が相談にのれるような仕組みが出来てほしいものです。
すばらしいキモノを制作・販売するのはもちろん、さらに日本の文化、キモノに関する文化の本格を、一般の方々に届ける場でこそあってほしい。
イヤもうそうなのかも知れませんが。
そして厄介な時には、どうぞ我々を利用して下さい。
折角の「繋がり」がすでに存在しているのですから。
令和2年5月7日
切畑健
良い着物とは、伝統に裏づけられた新しい時代センスにあると考えます。
売り手が技術を理解し、買い手の求めを予測して着物を作り上げてゆく、職人や作家をバックボーンにして、売り手と買い手がせめぎ合い、新しい時代センスを作り上げてゆくのが理想です。
私が美大生の頃、京都の着物業界で、染めのアルバイトをしている学生がけっこういて、染めれば売れるといった時代で大変潤っていました。私も勧められて、アートワークと並行して着物も染めるようになり40年余り、問屋の注文に追われるように着物制作に身をすり減らすような日々もあり、京都の着物業界の変貌ぶりを見つめてきました。
そんな頃に着物業界の在り方に疑問を感じることもありました。安易に売れるがゆえに儲け主義が横行する。たとえば生産価格を抑えるために韓国や中国に発注するようになり、京都の職人が仕事を奪われ、後継者も育たなくなりました。バブル崩壊によって多量の在庫を抱えていた問屋があえなく倒産し、千年の都に培われた高度な伝統技術がこの数十年で次々と絶えてしまいました。
このような困難な着物の時代にもかかわらず「銀座もとじ」が業績を伸ばして40周年を迎えられたのは、着物の作家や職人の仕事を大切に、それを買い手に誠意をもって伝え、買い手のニーズに応えた新しい着物を作り上げてきたからだと思います。
新しい時代センスを生みながら成長してきた着物は、今やファッション界において単なる民族衣装ではなくなってきています。
「銀座もとじ」が今後も次の時代を見据えて発展してゆくことを期待しています。
令和2年4月17日
福本潮子
生きることを いとおしむ
生活を いとおしむ
暮らしを いとおしむ
日々を いとおしむ
一瞬を いとおしむ
あるいはサティの音楽のように
人生の一番のごちそうは自由
ささやかだけれど 大切なもの
小さいけれど 積み重なると大きくなるもの
少ないけれど 豊かなもの
今ほどこれらのことに思いを巡らす
時を持てたことはありません
令和2年4月21日
上原美智子
銀座もとじ様とのお付き合いの中では、トークイベントでの聞き手の方とのキャッチボール、お客様の思いがけない質問や反応などが思い出されます。
日頃、独りで仕事をする私にとって、突然、別の光が射しこんでくるような、刺激的なひと時です。
店内で、貴重な体験をさせていただきました。
森口邦(※)彦先生の作品展の時のことです。お父様の華弘先生のお着物をご持参されたお客様と邦彦先生が着物を見ながら懐かしそうにお話をなさっていらっしゃいました。遠くから、それを垣間見させていただき、感激し、私も又、このように技も心もつないでいく仕事をしたいな、と思いました。
「繋ぐ」には、ちゃんと糸が在りますもの。
令和2年5月14日
築城則子
※ 「邦」は正しくは旧字体で、「邦」の縦の払いが上に突き出ません。
刺繍の造形は色彩、形象につづいて素材の組合せによるテクスチュアーの表現が重要な要素です。染や織に比べて技術的な制限が少なく手加減で自由に表現でき、また抑制することも考えながら表現できるところが特徴であり魅力であります。
小生は祇園祭の胴掛など懸装品の調査、復元等の仕事にも関わって参りました。何度も見ています懸装品ですが、毎年のお祭りに各山鉾を見て回りますと、やはり記憶にある以上の感動を受けます。
大きなエネルギーを受けるというのが実感です。
実物に触れることの大切さを知ります。
五感に触れることが魅力です。
私共の刺繍工芸をみましても、様々な素材の成り立つ過程に、様々な下加工に、伝承されてきた技術に 多くの人々の知恵や手技があって作品は完成いたします。そして作品の在り方、使われ方もまた多くの人々のお力を得て作品はその機能意義を完結することができます。お客様が装われることで新たに人々との繋がりが深まり開かれることと存じます。
今日のウイルス感染症禍の状況にあっても変わらない人間の営みと思います。
水や空気、火、自然と繋がって生きている私達、ひとつひとつを大切に歩んでまいりたく願っています。
またお目にかかりたく存じます。
令和2年5月19日
樹田紅陽
2020年は試練の年となりました。
『元祖きものでオペラへ』を日本に定着させた、もとじさんの功績とご参加くださったお客様のお力があれば、きっと、コロナウィルスも打倒できると思います。
今では、クラシック音楽業界、オペラ業界で、お着物で鑑賞されるお客様がいらっしゃると、『もとじさんのお客様がいらっしゃっていますよ!』と各ホールやオペラハウスの支配人からお声がかかります。本当にうれしい限りです。
より高く飛び立つ為に、今はより小さくしゃがみましょう。
そして、晴れて時期が来たら皆様で、もとじ恒例五本締めで再会したいと思います。
“ONE TEAM MOTOJI! FOREVER”
令和2年4月19日
オペラサロン講師:坂田康太郎
これまでに届いたメッセージはこちら
それぞれの作り手のお名前をクリックしていただくと、メッセージをご覧いただけます。
第1回
外舘和子さん(多摩美術大学教授)>>
小倉淳史さん(絞り染め/辻が花)>>
山岸幸一さん(草木染紬織)>>
久米島紬事業協同組合さん(久米島紬)>>
伊藤裕子さん(組紐師)>>
第2回
五代 田畑喜八さん(友禅)>>
海老ヶ瀬順子さん(穀織)>>
織楽浅野 浅野裕尚さん(西陣織)>>
藤山千春さん・藤山優子さん(吉野間道)>>
ATENARI角元弥子さん(蒔絵) >>
第3回
荒川眞理子さん(型絵染)>>
松浦弘美さん(ほら絽織)>>
須賀恭子さん(草木染紬織)>>
澤田麻衣子さん(型絵染)>>
中野史朗さん(和更紗)>>
和小物さくらさん(小物)>>
清水晶子さん(帽子デザイナー) >>
第4回
森康次さん(日本刺繍)>>
湯本エリ子さん(友禅)>>
矢野まり子さん(草木染紬織)>>
犬飼千賀子さん(友禅)>>
前田紬工芸さん(大島紬)>>
奥順株式会社さん(結城紬)>>
第5回
髙橋寛さん(東京友禅)>>
平山八重子さん(草木染紬織)>>
生駒暉夫さん(友禅)>>
松原伸生さん(長板中形)>>
大髙美由紀さん(紬織)>>
藍田愛郎さん(江戸小紋)>>
第6回
吉村紅花さん(文化学園大学)>>
菊池宏美さん(江戸小紋)>>
益田勇吉さん(大島紬)>>
石川浩さん、谷田部尅詮さん、増田康治さん(養蚕農家)>>
碓氷製糸株式会社・蚕絲館・南久ちりめん株式会社(製糸・製織)>>
田中敦子さん(工芸ライター)>>
第7回
岡本隆志さん(型絵染)>>
服部綴工房さん(綴れ織)>>
四ツ井健さん(友禅)>>
滋賀喜織物さん(西陣織)>>
下井伸彦さん(下井紬)>>