日本刺繍作家 森康次さんの九寸帯作品のご紹介です。
【作品についてのコメント】
九寸名古屋帯「春宵」
「左右から中心に向けて薄くなるように染めぼかしをして斜め四角形を配置し、筋ごとに色も変えました。技法は菅ぬいの変形です。ざっくりした厚手の紬帯で、ちょっと珍しいです。」
薄茶ベージュ系のざっくりとした紬素材に、やわらかな彩りのグラデーションが心地よいデザイン。「春宵(しゅんしょう)」=春の夕方のおだやかな気配を感じる、心癒される作品です。紬地×刺繍の珍しい一品。幾何学柄で季節は問わず楽しめます。
森康次さんにつきましてはぜひこちらをお読みください。
著者:田中敦子(工芸ライター)
>>【和織物語】「絹の光跡〜森康次 日本刺繡の世界〜」(2018年)
森康次さんについて
京都上賀茂に工房「アトリエ森繍」を構える森康次さん。1946年、京都市中京区に生まれ、刺繍を生業とする「ぬい屋」の長男として15歳で家業に従事。当時の刺繍の役割はあくまで友禅へのあしらい的なものでしたが、次第に刺繍を主役にした作品を創作したいという気持ちが大きくなり、写生や水彩画の勉強を始められます。「ものをよく見て、その命のありようを『形』にする」――よく口にされるこの言葉には、「五感で感じた、形になりにくいものを形にしたい」という想いが込められています。また、色についても同様に「何色と一言で言えないくらいの色が綺麗だと思う」と仰います。刺繍の色糸はすべて森さん自らが染められ、工房にある糸専用の引き出しには夢のように美しいグラデーションを描いて2500色以上の糸が整然と並んでいます。刺繍糸の色や明度を抑えた穏やかで優しいきものづくり。纏う人のことを一番に想い、決して目立ちすぎない上品なきものは時代に左右されない真の魅力があります。
>>【作家産地】「森康次」記事/作品一覧