(写真:絣くくりした糸をほどいた様子)
【結城縮復刻!レポート③】
つづいて絣糸染めの工程へ
2021年に始動した「現代に纏うプラチナボーイ『結城縮 復刻プロジェクト』」では、復刻柄の人気投票により女性柄は「剣花菱」、男性柄は「矢絣」が決定しました。小さな古裂を手がかりに、産地とともに、プラチナボーイの糸を用いて制作していく様子を随時レポートしてまいります。今回は「絣糸染め」の工程についてご報告します。
結城縮の制作工程
1.糸つむぎ ⇒2.図案と色確認⇒3.絣くくりと撚糸 ⇒4.絣糸染め⇒5.織り ⇒6.仕上げ
《工程4:絣糸染め》
絣くくりを終えた糸束は、糸染めの坂入染織店さんのもとへ。今回は代表の坂入則明さんに絣糸染めをご担当いただきました。
坂入染織店さんでは現在、絣くくり、糸染め、地機織りまで、多くの工程を一軒で行っています。
糸染めを行う則明さん
坂入さんは機屋の家に生まれ、機の音を聴いて育ちました。ご両親のすすめがあり、結城紬の重要無形文化財指定への尽力でも名を馳せる野村半平さんの工房で修業。野村半平さんのご子息であり、本場夏結城の開発者としても知られる福一さんのもとで絣くくりを習得しました。そして家業に入った後、今度は紺屋(染屋)で糸染めを覚え、7年後には紺屋としても独立されたそうです。
分業が基本である結城の産地で、機屋と紺屋をどちらも手がけていらっしゃる、極めて稀な職人さんです。
坂入さんの染めへのこだわりは自他ともに認めるもので、今回は古裂の色を忠実に再現できるまで、何度も試験染めを繰り返してくれました。
復刻する古裂と試験染の糸
「試験染めは無駄な労力のように言われがちだけど、依頼者との意思疎通がしっかりとできるので、今回のような仕事には必要な過程だと思います。何よりお互いに気持ちよく仕事ができる。これが大切なことだと思っています。」
坂入さんはそうお話しくださいました。
1994年に結城紬の染色部門にて伝統工芸士に認定されている坂入さん。同じく製織部門で伝統工芸士に認定されている奥様の幸子さんとともに、後継者育成にも力を入れておられます。
煮染めの準備を行う坂入さん
たたき染め
絣糸を染める際、「たたき染め」という技法で行います。
染める前の糸束
たたき染めの流れ
①染料に浸す
②染料がしっかりと入るように叩く
③くくり糸を一部ほどいて染料の入り具合を確認し、また括り直す
①~③を数回これらを繰り返したのち、
④煮染めを行う
⑤すすぎ、脱水を行う
糸束を浸し絞る様子
たたき染めの様子
たたき染めは糸を叩くのではなく、棒を叩きつけることで、糸束を揉むのと同じ動きを糸に与える工程です。
糸束を括っている部分同士の間隔が狭いため、これを行わないと染まるのが表面だけで、糸束の内側に色が入らず絣が出なくなってしまうのです。
煮染めの様子
染めを終えた糸束
くくり糸をほどくと、
括った箇所は染まらず、くっきりと白く残っています。
坂入さんの高度な技術により、見本帳の端切れに忠実な色に染め上がりました。
バトンは次の工程「織り」へ。
当時の技法を紐解きながら、当時は存在しなかった「プラチナボーイ」という蚕品種の特別な糸で作る結城縮はどんな布に織り上がるのでしょうか。
今まで誰も見たことのない、初めて出会う布の完成をぜひ楽しみにお待ちください。
坂入染織店 坂入則明さんと記念写真
現代に纏うプラチナボーイ
「結城縮 復刻プロジェクト」について
二代目の泉二啓太は、『奥順』の見本裂帳を見た時に昔の結城縮のおおらかで大胆な絣柄に感銘を受けました。 その小さな裂地は、ものづくりへの職人魂が詰まっており エネルギーに満ち溢れていました。
“柄の復刻を通じて、先人の英知を学び、現代に活かしたい”
その思いを胸に、熟練した職人たちの手技の全てを注ぎ込み、 最高の着心地を味わえる「究極の単衣・プラチナボーイの結城縮」を1年かけてつくり上げます。
◆なぜ今、復刻が必要なのか
かつて「結城縮」は「結城紬」よりも人気があった
「紬の王様」とも呼ばれる「結城紬(ゆうきつむぎ)」は、空気を含んだ手つむぎの真綿糸をほぼ無撚糸の状態で織り上げて作られ、軽くて暖かい極上の着心地が魅力です。昭和31年に「越後上布」に続き2番目に国の重要無形文化財に指定され、多くの着物ファンを魅了する憧れの織物として知られています。
「結城紬」が知名度と存在感を増し続けているその陰で、同じように魅力あふれる織物でありながら、技術の伝承が危機的状況にある織物、それが「結城縮(ゆうきちぢみ)」です。
「縮(ちぢみ)」とは、その名の通り布を縮ませる加工をしている織物のこと。結城紬とは違い「(手つむぎした糸を)撚糸する」という工程があり、強く撚りをかけた糸が元に戻ろうとする性質を利用することで、生地の表面に「シボ」と呼ばれる細かな凹凸が生まれ、単衣の季節に心地よいさらりとした地風に仕上がります。
結城紬自体は2000年以上の歴史がありますが、結城縮は明治35年頃から織られ始め、布地の持つシャリ感と絣のデザイン性が人気を博し、昭和に入ってからは結城紬産地の全生産量の約8割が結城縮という時代もあったといいます。しかし、結城縮の人気に押され結城紬の生産数が減少してきたこともあり、文化財保護の動きの中で、昭和31年に結城紬が国の重要無形文化財に指定され市場の需要が逆転。結城縮は生産数が激減し、今や全生産量の1割に満たないほどの希少な織物となっています。
◆「プラチナボーイ×結城縮」
希少×希少の組み合わせによる、夢の復刻プロジェクト
本プロジェクトでは、銀座もとじがプロデュースする純国産絹「プラチナボーイ」を用いて、結城縮が人気を博した当時の見本裂帳から、人気投票により選ばれた男女各1柄ずつを制作。
明治期には世界一の絹輸出国であった、着物の国、絹の国、日本。しかし現在は海外産の絹が台頭し、国内で養蚕から純粋に生産される純国産絹は1パーセントにも満たないほどになっています。
プラチナボーイは、日本の大沼昭夫博士が37年をかけ世界に先駆けて発明した夢の蚕品種であり、白く輝く絹糸の美しさから「プラチナ」の名がつけられました。
結城縮が席巻した当時には存在しなかった、現代に輝く絹糸で、今のお洒落を知る方々に選ばれたデザインを織り出す-夢の復刻プロジェクトの模様を、完成まで追いかけて随時レポートしてまいります。ぜひご期待ください。
男性柄 第1位は…
「矢絣」経モロ絣
(産地コメント)結城紬の製織で用いられる地機は、他の織機と異なり下糸だけが上下するのが特徴です。織るうちに上糸と下糸がずれてしまうので、絣は上糸だけに入れるのが産地では常識となっています。この端切れの図案は「モロ絣」といって、上糸にも下糸にも絣が入っており、現在ではほとんどできない絣の作り方です。
女性柄 第1位は…
「剣花菱」緯絣
(産地コメント)結城縮を織るには、手つむぎ糸に右撚りと左撚りをかけ、緯糸に交互に織り込む必要があります。一方、絣糸とよばれる模様の入った糸には撚りをかけません。この端切れのような緯絣では、右撚りの糸、絣糸、左撚りの糸、絣糸、と順番に織り込んでいます。絣が多く、織る手間もかかるため、現在では数少ない作り方です。
【銀座もとじ公式YouTube】二代目 泉二啓太が語る結城縮
【現代に纏うプラチナボーイ「結城縮 復刻プロジェクト」】
〈お問い合わせ〉
銀座もとじ女性のきもの 03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472