(写真右上:矢絣の古裂 右下:撚糸の道具 左:絣くくりの様子)
【結城縮復刻!レポート②】
つづいて絣くくりと撚糸の工程へ
2021年に始動した「現代に纏うプラチナボーイ『結城縮 復刻プロジェクト』」では、復刻柄の人気投票により女性柄は「剣花菱」、男性柄は「矢絣」が決定しました。小さな古裂を手がかりに、産地とともに、プラチナボーイの糸を用いて制作していく様子を随時レポートしてまいります。今回は「絣くくり」と「撚糸」の工程ついてご報告します。
結城縮の制作工程
1.糸つむぎ ⇒2.図案と色確認⇒3.絣くくりと撚糸⇒4.絣糸染め ⇒5.織り ⇒6.仕上げ
《工程3:絣くくり》
図案と染める糸の色確認を終えたら、次はその図案に合わせた絣糸づくりです。 絣糸は、染めない部分を防染する「絣くくり」をした後で染めて作ります。私たちが訪問した時には、ちょうど男性柄の「矢絣」の「絣くくり」を手作業で行っているところでした。
今回男性柄の「矢絣」は経糸だけで模様を織り出す「経絣」、なおかつ現在ではほとんど用いられなくなった「経モロ絣(たてもろかすり)」の技法で制作します。
結城縮の機。横から見ると上糸と下糸がわかる
経モロ絣では上下どちらの経糸も絣糸となるため、絣の柄を合わせるのに通常よりも高度な技術を要します。
結城紬で経モロ絣が大変珍しい理由・・・織機の基本の仕組みとして、経糸が上下に分かれ、その上糸と下糸の間に緯糸を渡らせて織り進めます。結城紬の製織で用いられる地機は、他の織機と異なり下糸だけが上下するのが特徴で、織るうちに上糸と下糸がずれてしまうので、絣は上糸だけに入れるのが産地では常識となっています。
経絣の絣糸をつくる際には通常「経枠(たてわく)」という道具を使用して絣模様をつくりますが、今回はそれを使用せず、古裂が製織された当時の技法に倣い絣くくりを行います。
「経枠」は昭和初期以降に発明されたものだそうで、今回の見本となった端切れが織られた頃にはまだなかった技法だそうです。
絣糸を作る道具「経枠(たてわく)」
この工程を担当くださった森肇さんは、「図案に向き合って、より正確に復元する方法を考えていたら、結果的に当時に近い技法を選ぶことになった」と、制作段階からのこだわりをお話しくださいました。
絣くくりをする森肇さん
絣くくりとは、染め残して柄を出したい箇所を水で濡らした木綿糸でぎゅっと括り、糸染めの際に染まらない様にする技法です。
今回は青系の地色に黒系の矢絣のため、先に糸全体を青で染めてから、黒の矢絣にしたいところ“以外”を全て染まらないようにくくるという、通常とは逆の方法で行ったそうです。
しかしそうすると括らねばならない範囲が広くなり、木綿糸だけではムラができてしまう可能性があります。
そこで森さんが考えたのが、テープと木綿糸を併用しての絣くくりです。
先にテープでくくり、
その後テープの両隅を木綿糸でくくります。 こうすることで、確実にくくった範囲が染まらないようにすることができます。
男性柄「矢絣」用の糸。地色を染めた糸(左)と、さらに絣くくりした糸(右)
絣くくりが完了した絣糸は、糸染めの職人さんのもとへ届けられます。
森さんご夫妻と記念に
《工程4:撚糸》
糸染めの工程を終えた糸は、撚糸の職人さんへ届けられます。現在結城縮の産地の撚糸屋さんは3件、うち専業で行っているのは今回担当くださった倉持さんのみだそうです。
私たちが訪問した時には、ちょうど女性柄「剣花菱」の撚糸を行っているところでした。
撚糸の道具
結城縮の糸は結城紬の糸以上に均質であることが求められます。糸に撚りをかけるため、太さが均質でないと細い部分に撚りが集中して切れてしまうからです。
糸には1メートルあたり2,000回転の撚りをかけます。
まず糸を小さなシャワーで湿らせてから下撚り1,000回、本撚り1,000回、と2段階に分けて真綿糸を撚り上げていきます。
「プラチナボーイの糸は(撚糸の際、)強くて切れにくいからとても扱いやすかったです」と倉持さん。
プラチナボーイの繭は蛹が羽化しないように生きたまま冷蔵保存している生繭(なままゆ)を使用しています。長期保存できるように熱風で完全に乾燥させた(乾繭)と比較すると、細くて強い糸ができあがるのです。
撚糸の倉持さんと記念写真
撚糸が終わると次はいよいよ織りの工程です。
当時の技法を紐解きながら、当時は存在しなかった極上の絹で作る結城縮はどんな布に織り上がるのでしょうか。
今まで誰も見たことのない、初めて出会う布の完成をぜひ楽しみにお待ちください。
現代に纏うプラチナボーイ
「結城縮 復刻プロジェクト」について
二代目の泉二啓太は、『奥順』の見本裂帳を見た時に昔の結城縮のおおらかで大胆な絣柄に感銘を受けました。 その小さな裂地は、ものづくりへの職人魂が詰まっており エネルギーに満ち溢れていました。
“柄の復刻を通じて、先人の英知を学び、現代に活かしたい”
その思いを胸に、熟練した職人たちの手技の全てを注ぎ込み、 最高の着心地を味わえる「究極の単衣・プラチナボーイの結城縮」を1年かけてつくり上げます。
◆なぜ今、復刻が必要なのか
かつて「結城縮」は「結城紬」よりも人気があった
「紬の王様」とも呼ばれる「結城紬(ゆうきつむぎ)」は、空気を含んだ手つむぎの真綿糸をほぼ無撚糸の状態で織り上げて作られ、軽くて暖かい極上の着心地が魅力です。昭和31年に「越後上布」に続き2番目に国の重要無形文化財に指定され、多くの着物ファンを魅了する憧れの織物として知られています。
「結城紬」が知名度と存在感を増し続けているその陰で、同じように魅力あふれる織物でありながら、技術の伝承が危機的状況にある織物、それが「結城縮(ゆうきちぢみ)」です。
「縮(ちぢみ)」とは、その名の通り布を縮ませる加工をしている織物のこと。結城紬とは違い「(手つむぎした糸を)撚糸する」という工程があり、強く撚りをかけた糸が元に戻ろうとする性質を利用することで、生地の表面に「シボ」と呼ばれる細かな凹凸が生まれ、単衣の季節に心地よいさらりとした地風に仕上がります。
結城紬自体は2000年以上の歴史がありますが、結城縮は明治35年頃から織られ始め、布地の持つシャリ感と絣のデザイン性が人気を博し、昭和に入ってからは結城紬産地の全生産量の約8割が結城縮という時代もあったといいます。しかし、結城縮の人気に押され結城紬の生産数が減少してきたこともあり、文化財保護の動きの中で、昭和31年に結城紬が国の重要無形文化財に指定され市場の需要が逆転。結城縮は生産数が激減し、今や全生産量の1割に満たないほどの希少な織物となっています。
◆「プラチナボーイ×結城縮」
希少×希少の組み合わせによる、夢の復刻プロジェクト
本プロジェクトでは、銀座もとじがプロデュースする純国産絹「プラチナボーイ」を用いて、結城縮が人気を博した当時の見本裂帳から、人気投票により選ばれた男女各1柄ずつを制作。
明治期には世界一の絹輸出国であった、着物の国、絹の国、日本。しかし現在は海外産の絹が台頭し、国内で養蚕から純粋に生産される純国産絹は1パーセントにも満たないほどになっています。
プラチナボーイは、日本の大沼昭夫博士が37年をかけ世界に先駆けて発明した夢の蚕品種であり、白く輝く絹糸の美しさから「プラチナ」の名がつけられました。
結城縮が席巻した当時には存在しなかった、現代に輝く絹糸で、今のお洒落を知る方々に選ばれたデザインを織り出す-夢の復刻プロジェクトの模様を、完成まで追いかけて随時レポートしてまいります。ぜひご期待ください。
男性柄 第1位は…
「矢絣」経モロ絣
(産地コメント)結城紬の製織で用いられる地機は、他の織機と異なり下糸だけが上下するのが特徴です。織るうちに上糸と下糸がずれてしまうので、絣は上糸だけに入れるのが産地では常識となっています。この端切れの図案は「モロ絣」といって、上糸にも下糸にも絣が入っており、現在ではほとんどできない絣の作り方です。
女性柄 第1位は…
「剣花菱」緯絣
(産地コメント)結城縮を織るには、手つむぎ糸に右撚りと左撚りをかけ、緯糸に交互に織り込む必要があります。一方、絣糸とよばれる模様の入った糸には撚りをかけません。この端切れのような緯絣では、右撚りの糸、絣糸、左撚りの糸、絣糸、と順番に織り込んでいます。絣が多く、織る手間もかかるため、現在では数少ない作り方です。
【銀座もとじ公式YouTube】二代目 泉二啓太が語る結城縮
【現代に纏うプラチナボーイ「結城縮 復刻プロジェクト」】
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銀座もとじ女性のきもの 03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472