■「日本刺繍 森康次 傘寿記念展」
会期:2025年10月24日(金) ~26日(日)
>>作品一覧
京都の刺繍業を営む家に生まれ、15歳から日本刺繍とともに歩んだ65年の道程。
「時代の風をかろやかに」、一針一針が形を成す意匠美からは、作家の創造力と覚悟、着る人を想う心の深さを感じます。
日本刺繍の可能性を追い求め、邁進し続けてこられた軌跡の証を一堂にご紹介いたします。
季節の帯、京袋帯、付下げ、訪問着、日本伝統工芸展出品作品を是非ご覧ください。
日本刺繍作家 森康次さんの九寸帯作品のご紹介です。
【作品についてのコメント】
九寸名古屋帯「菊日和」
「太鼓柄の中心からタレの方は黄色で、上部から前柄、手先までが緑にと染め分けました。大きな菊模様を3つ配置。この菊模様を「花火菊」と名付けました。ぬい切りという技法で刺繍しています。」
太鼓柄で大胆に黄ベージュと灰柳で染め分け、前帯は灰柳色のみであしらった、お締めいただくとドラマチックな帯姿を楽しめる配色が魅力的です。「花火菊」と名付けられたように、菊花はまるで花火のようで、美しい放射状にのび、大変華やかに。藤、黄、薄緑、橙、水色の多彩が透明感あふれる彩りで、楚々とした気品が感じられます。
素材は、小さな市松が浮かぶさらりとした紋意匠地で、単衣から袷に長く楽しめます。
名古屋帯ですが華やぎがあり、よそ行きシーンにもおすすめの雰囲気です。
コンサートやホテルでの会食、高級レストランへ。
デフォルメされているので季節問わず楽しんでいただけますが、「菊」に見立てれば、秋の帯として季節感豊かにも装っていただけます。
森康次さんにつきましてはぜひこちらをお読みください。
著者:田中敦子(工芸ライター)
>>【和織物語】「絹の光跡〜森康次 日本刺繡の世界〜」(2018年)
森康次さんについて
京都上賀茂に工房「アトリエ森繍」を構える森康次さん。1946年、京都市中京区に生まれ、刺繍を生業とする「ぬい屋」の長男として15歳で家業に従事。当時の刺繍の役割はあくまで友禅へのあしらい的なものでしたが、次第に刺繍を主役にした作品を創作したいという気持ちが大きくなり、写生や水彩画の勉強を始められます。「ものをよく見て、その命のありようを『形』にする」――よく口にされるこの言葉には、「五感で感じた、形になりにくいものを形にしたい」という想いが込められています。また、色についても同様に「何色と一言で言えないくらいの色が綺麗だと思う」と仰います。刺繍の色糸はすべて森さん自らが染められ、工房にある糸専用の引き出しには夢のように美しいグラデーションを描いて2500色以上の糸が整然と並んでいます。刺繍糸の色や明度を抑えた穏やかで優しいきものづくり。纏う人のことを一番に想い、決して目立ちすぎない上品なきものは時代に左右されない真の魅力があります。
>>【作家産地】「森康次」記事/作品一覧