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天蚕の会の皆さまからのメッセージを添えて〜白鷹天蚕ものがたりトーク会レポート

2018年11月17日(土)、“白鷹天蚕ものがたり”トーク会を開催し、白鷹町より副町長様、天蚕の会会長様はじめ作り手の皆様、白鷹町商工観光課の皆様がお越しくださいました。
お客様へ感謝の思いを伝えたいと、10名そろって白鷹町を朝6時に出発されて銀座へ。飼育、繰糸、織り、行政、それぞれの立場から溢れる思いを語っていただきました。
この秋に完成した吉野織の反物は3作目ですが、会場にはなんと、以前にお買い求めくださったお客様が天蚕の着物をお召しになってご来場くださいました。
白鷹町の皆様にとって着装の姿をご覧になるのは初めてのこと。自分たちが育てた繭、繰った糸、織り上げた反物は、こんなにも美しい着物となり、笑顔で素敵に着こなしてくださっている。お客様の着姿にお目にかかれたことが「何よりも一番の感動」とトーク会後も皆様しきりに仰っていました。

天蚕を白鷹町の「DNA」として未来へ繋いでいきたい

副町長の横澤浩さんは、天蚕は白鷹町にとって繋いでいかなければならない重要な取り組みだと話されます。

「日本古来の品種である天蚕の技術と伝統を繋いでいきたい。これからの町づくりはモノづくりだけでなくコトづくりが大切です。天蚕は、白鷹町の『DNA』であり、町の歴史文化の『骨格』として残していかなければいけないと考えています」

代々「お蚕様」に支えられてきた白鷹町も時代の流れで養蚕業は衰退の一途を辿り、より希少価値のある天蚕を生産しようという取り組みが始まったのが約30年前のこと。しかし、家蚕と違い天蚕は飼育が難しく、県や町の補助金がなくなってからは、いよいよ継続が困難に。初めは、その年に採れた繭だけを銀座もとじで買い取らせていただきましたが、白鷹町の皆さんが集まり天蚕の取り組みを続ける意味を問い直した際、白鷹町の宝として技術と文化を残していこう、「オール白鷹の一反を作るべ!」と一致団結。とはいえ、なんとか数年後に一反が完成したとしても買い取ってもらえる保証はなく、ただ働きになる可能性もある。
天蚕」は天然の淡いグリーンの繭
澄んだ緑色の天蚕の繭。約3×6cmと大きい。

作る大変さを知っている、決してそんなことはできない・・・苦悩の末、商工観光課の芳賀敦子さんから銀座もとじへお話をいただいたのはその頃のことです。

「100%白鷹産の反物をつくろうと、その年の天蚕の卵づけをしたばかりでした。繭さえできあがっていないのに『反物が完成したら買っていただけませんか』と相談したら、言い終わらないうちに泉二さんから『買いましょう!いいものをつくってください』と言っていただいたんです。買っていただくことで技術が残り、作り手は生きていく役割を担って取り組んでいける。それをすべてわかった上での『買いましょう』なのだと思い、嬉しくて泣きそうでした。1億人の中から欲しい方と巡り会わせてくださるのがもとじさんです」

一反分の繭を育てるのに2〜3年。天蚕の飼育は大変

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紙に付着させた卵を、クヌギの葉の上に置いて孵化。山形県内で唯一の飼育場。

白鷹町にとって本当に大切なものは何か、守るべきものは何かを考える行政の熱い気持ちは、作り手一人一人の心をつなぎ、数年がかりのものづくりのリレーがはじまります。
最初のバトンは、天蚕を元気に育て綺麗な繭をつくる飼育担当。新野孝一さんは、天蚕の繭をつくることの難しさをわかりやすく説明くださいました。

「天蚕は飼いにくくて糸がとりにくいので効率が悪いんですね。通常の約二倍、一着つくるのに約5000~6000粒の蚕が必要です。普通の蚕は約95%が上族する(繭を作る)のに対して、天蚕は卵から75%しか孵化せず、クヌギの葉につき繭をつくるのはそのさらに半分。幼虫期間が長くて、通常の蚕が25日くらいで繭をつくるのに対して、50~60日もかかります。蜘蛛、鳥、蛙、ハクビシン、天敵も多いですしね。また出来上がった繭の糸が切れやすく、自動繰糸器が使えず手回しか低速モーターで行いますから、糸をとるのも大変なんです」

美しく、けれど繊細で切れやすい天蚕糸

繰糸の方の苦労を思いやりながら、マイクは繰糸担当の高橋敏子さんへ。高橋さんの目の前にはちょうど、100%白鷹産、オール白鷹の天蚕の着物をお召しのお客様が座っていらっしゃいました。

「自分の手でとった糸がここに!と、とても感激しています。天蚕の着物をお召しの方を前にすると、あらためて、素敵だなあと涙が出てきますね。母親が糸取りをしているのを見て育ちましたが、家蚕は糸口さえ見つかればすーっと取れるんですね。天蚕は途中で切れやすいので、温度や糸を引くスピードなどもとても気を使います。そんな糸ですから、織るのもきっと大変だったと思います。」

白鷹の風土と、飼育・繰糸のみんなの想いを織り込んで

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平成30年秋に織り上がった吉野織の天蚕着尺

バトンはしらたか天蚕の会のアンカーである織りの小松トモさんへ。

「糸をいただいたときに、どれだけ苦労したかがわかります。織り進めればひとつひとつの節に皆さんの顔や思いが浮かんできます。一反で緯糸を織り入れるのが2万回。気候の変化や日々の気持ち、いろいろなものを織り込んで2ヶ月かけて織りあがった反物は愛おしくて、一晩抱いて寝る人もいるほどです」

ここで小松さんが一遍の詩を諳んじられました。詩の先生に、天蚕の織りの仕事をしていると伝えた時にいただいた手紙の中に並んでいた言葉。ずっと心に大切にされているのだそうです。

「暮らしの中に 夢を求めた 手作りの技 手にすれば 土の息吹 風の香り 人のぬくもり」

会場中が息をひそめ、その一言一言に涙を浮かべて聞き入るひとときでした。 小松さんはその小さな手紙が嬉しくて、何度も何度も繰り返し読まれ、元気づけられていたといいます。

「言葉にしてもらうと気持ちが豊かになり、豊かな仕事ができる。種(卵)を作る人、糸を取る人、詩の先生のように手紙をくれる人、皆のつながりが、豊かな仕事と幸せな反物を作ります」

最後には、天蚕の着物をお召しのお客様が、着心地についての感想を仰ってくださいました。

「音楽会で客席の照明が暗いときにも、『あなただけ光っていたわよ』と言われました」

「何も手が加えられていない自然のままの、神々しい美しさを身に纏える幸せを感じています。人の手のぬくもり、想い、豊かな自然のエネルギーをいただいて、身に纏うことで天蚕の素晴らしさをたくさんの人に知っていただこうと思います。いつか故郷(白鷹町)にも行きたいですね」

作り手の皆さんにとって、着物をお召しのお客様からの「言葉」ほど、今後の活力になり生きる糧になるものはないに違いありません。この日の出会い、あたたかな時間が人から人へ伝わり、白鷹天蚕の会のみならず、白鷹の町全体が発展していくことを願っています。

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(しらたか天蚕の会・白鷹町副町長・商工観光課の皆様、後列左端は店主・泉二、右端は二代目・啓太)

トーク会のその後のお話

トーク会の後、作り手の皆さまにお話を伺う時間がありました。当日トーク会にご参加のお客さまもぜひご覧くださいませ。

新野孝一さん(飼育担当)

買ってくださった方の着姿にいちばん感動しました。また頑張ろうと思えました。実は平成27年と28年は不作が続いていたんです。天蚕の餌になるクヌギの芽吹きが悪い年があったり、幼虫がクヌギの葉をよく食べて育ちすぎ葉がなくなってしまったりと、飼育に苦労しました。無事に仕上がり、ご縁をいただいたのが本当に嬉しいです。

守谷英一さん(飼育担当)

もともと国語の教師で、宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」の中に、「緑色の繭」という言葉があり気になっていました。江戸初期からある天蚕が布になるのを見ることができとても感激しています。作った人、着てくださる人、その両者の顔が見えるということで、今日はとにかく来てみたかったんです。

大瀧勇祐さん(商工観光課観光係長)

芳賀さんと一緒に仕事をしていく中で天蚕について勉強していきました。お客様とこんなに近い距離でお話させていただき、行政の立場から町の宝物を後世に残すために支援をしていかなくてはとより強く思いました。

芳賀敦子さん(商工観光課観光交流推進係長)

ここ数年現場は沈んでいましたので、今回のトーク会は念願でした。今日、この場に立ち会えたことが感無量です。常に勉強ですが、白鷹天蚕の会の取り組みは少しずつ形になっています。銀座もとじさんとは何度かやり取りをさせていただいていますが、慣れることはなくいつも緊張します。つくっているのはモノではなくコトという社長の言葉が心に響いています。

トーク会にご参加くださった白鷹町の皆様

白鷹町副町長: 横澤 浩さん しらたか天蚕の会: 須田 信一さん(会長・飼育担当) 新野 孝一さん(飼育担当) 守谷 英一さん(飼育担当) 高橋 敏子さん(繰糸担当) 新野 良子さん(繰糸担当) 鈴木 やのさん(繰糸担当) 小松 トモさん(織り担当) 商工観光課観光係長: 大瀧 勇祐さん 商工観光課交流推進係長: 芳賀 敦子さん

銀座もとじと白鷹町との取り組みは、ぜひこちらもご覧ください

2013年 「しらたか天蚕の会」の皆さんを迎えてのぎゃらりートーク、天蚕と家蚕の違いもご紹介

2013年 一反目が織り上がった時の様子はこちら

2009年 白鷹町の天蚕飼育場の様子はこちら

2015年 白鷹中学校の生徒さんが自主研修にご来店くださいました

白鷹町のホームページでも取り組みが紹介されています

「白鷹天蚕ものがたり 」

第2章 白鷹天蚕紬ができるまで

第1章 しらたか天蚕の会の再挑戦 泉二社長との出会い

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