店主 泉二弘明のおすすめの逸品 白鷹総天蚕糸 紬綾織着尺 「変わり市松模様」
今月の泉二弘明のおすすめの逸品は、6年がかりで誕生した、白鷹総天蚕糸 紬綾織着尺のご紹介です。 山形県西置賜郡白鷹町深山地区では、1989年から天蚕の飼育を始め、約24年。現在では山形県内で本格的に天蚕飼育をしているのはこの白鷹町のみとなりました。そして白鷹町でも飼育場はこの1ヶ所のみ。
繭の採取は、年1回のみですが、なかなか1年で着尺1反分を織り上げられる天蚕を採ることは難しくございました。大変飼育の難しい希少な繭ですが、なんとか1年で一反分の天蚕を育て上げるべく、「しらたか天蚕の会」の皆さんが、情熱をもって、夢を追い続け約6年がかりで研究を重ね、その思いを成し遂げたのです。
木々の葉とおなじ色をなして、 外敵から身を守ろうとする天蚕の繭
絹のダイヤモンド
繰糸(糸の繰り方)の講習を行う 「しらたか天蚕の会」の方々
【天蚕糸】の繭は、育てるのに大変な手間暇がかかります。希少性高く、一反の着物に仕上げられるだけの天蚕の繭を揃えるのは容易なことではございませんでした。白鷹で採れる繭だけでは、1年に半反分しかそろえることができず、白鷹産100%の繭で一反分を織り上げる、ということがなかなか叶わずにおりました。それを実現させたい、という夢と情熱をもって、「しらたか天蚕の会」の方々は、研究を重ねました。
天蚕は、大変繊細な繭で、また、サルやタヌキやカラスの好物であるため、それらから希少な天蚕の繭を守りながら、質の良いものに育つように丁寧に管理をしていかなければなりません。どのようにしたら、1年で一反分の天蚕の収穫が叶えられるかを白鷹の天蚕に関わる人々皆で研究を重ね、土壌の改善、木の殺菌、種を繭にしていくための改良改善などを約6年がかりで行ってまいりました。
白鷹の天蚕は、クヌギを食べて育つ、野蚕です。一番苦労するのは幼虫の時、蟻や蜘蛛、鳥、タヌキに食べられないようにすることで、そのためにこのようにクヌギ畑にネットを張りめぐらせて、天蚕を守ります。
繭から機織りまで、100%白鷹産が実現。
「6年前に、白鷹へ出向き、夢を語り合ったのが、『白鷹で育てた天蚕で最終工程の織りまで白鷹の機で完成させる。100%白鷹産の天蚕のきものを作り出す』ことでした。」と店主泉二は語ります。
普段は農業(主に果物、葡萄・リンゴ・カシスなど)で生計をたてており、天蚕は副業にもならず時給にすると200円にも満たないのです。夢は語り合いましたが、今年できた天蚕の繭を全て買っていただきたい。というのが6年前の白鷹の方々との出会いでした。それから、1年に1反分の着物を織ることができるように、改良改善を続けその夢が叶った日には、銀座もとじでお客様にご紹介ができるときがくる、ということを白鷹の方々も楽しみにされて、今年やっとその夢が叶ったのです。
「しらたか天蚕の会」の方々と、織り上がった100%白鷹産の反物。
羽織を羽織って、パーティーシーンにも
今回ご紹介の天蚕の作品は、光にかざすと浮かび上がる小さな変わり市松模様。綾織ならではのふんわりとやわらかい織の質感と天然の色素による見事な美しい光沢感、また空気をたっぷり含んだしなやかで柔らかい紬の風合いはお召になられる人の肌にもすっと溶け込むような、極上の着心地を味わっていただけます。 紬と言えば、普段着にお召いただくお着物ですが、こちらは無地のおきものですので、角帯を締め、(女性でしたら袋帯)お召などの羽織を羽織って、パーティーシーンなどにもぜひお出かけください。 きっと、お人目にも喜ばれる特別なお着物の装いをお楽しみいただけることと思います。 希少な天蚕糸の自然そのままの命によって織りなされた、木漏れ日のようなやわらかさのきものをぜひご堪能いただけたらと思います。
「銀座もとじ 和織・和染」店舗前にて、「しらたか天蚕の会」の方々と店主泉二 見学に訪れる地元の小学生たち。自分たちの町の希少な天蚕についてのお話しに目を輝かせながら耳を傾けています。