久留米絣 松枝哲哉・小夜子~久留米絣工房「藍生庵」を訪ねて~

久留米絣 松枝哲哉・小夜子~久留米絣工房「藍生庵」を訪ねて~

2012年4月10日
松枝哲哉・小夜子 久留米絣工房「藍生庵」を訪ねて

2013年3月27日、銀座もとじの店主 泉二とスタッフ3名で、福岡県久留米市にある、松枝哲哉・小夜子ご夫妻の工房を訪ねました。豊かな筑後平野の自然に抱かれるようにして建つ「藍生庵」で、お二人のものづくりへの心意気をお伺いしました。

筑後平野の豊かな自然を望む工房で

松枝さんの工房「藍生庵」は、福岡県久留米市田主丸町竹野という、自然が美しく豊かで、水の綺麗な筑後平野に構えられています。

松枝さんの2階建ての工房の2階の部屋は、窓から筑後平野の眺めが一望できて、まるで大自然の中で寝食をして暮らしているかのような解放感が気持ち良い空間です。

工房「藍生庵」2階の窓からの眺め 筑後平野の豊かな自然を望む
工房「藍生庵」2階の窓からの眺め 筑後平野の豊かな自然を望む

このような自然に抱かれた場所では、日々の暮らしの中で目に触れるものすべてが、松枝哲哉さんと小夜子さんの五感を伝って心に響き渡り、心から手へ、そして作品となって生まれるのだと、実感することができます。

藍への情熱

哲哉さんは、久留米絣の人間国宝であった祖父の松枝玉記さん(1905-1989)のもとで、中学生のころから、藍に関わってきました。本格的に、染織の道を歩み始めたのは、22歳のころ。幼いころから、祖父 松枝玉記さんの久留米絣への想い、藍への情熱に触れてきた哲哉さんにとっては、家業を継ぐことは至って自然なことだったそうです。

妻の小夜子さんとともに、作品作りを手掛ける中で、藍染めは、哲哉さんが担当され、小夜子さんの作品の分も哲哉さんが藍染をされているそうです。

店主・泉二と松枝さん

祖父の玉記さんから、いつも「哲哉、藍は生きとるとぞ」と聞かされて育った哲哉さんは、藍は家族の一員のようなものだとおっしゃいます。

藍染めの釜
祖父に教えを受けた中学生のころから、毎日欠かさず藍の様子を確かめているので、混ぜた時の色で藍が調子が良いかどうか解るといいます。

「いい加減に藍と向き合っていたら、藍に伝わります。丁寧に手をかければかけるほど、藍はそれだけの美しい色で返してくれます。」

哲哉さんと小夜子さんが、「藍」について、「人が一生をかけるのにふさわしいもの」とおっしゃられていたことは、大変印象的でした。

二人の出会い、二人の作風

松枝小夜子さんは、「紬縞織・絣織」の人間国宝でいらした故 宗廣力三さんの作品に魅せられ、岐阜県の郡上の宗廣先生の元に出向き、2年ほど先生の元で学ばれました。

藍を学びたいと、宗廣先生にご相談したところ、松枝玉記さんを紹介されたのがきっかけで、哲哉さんと出会います。

店主・泉二と松枝小夜子さん

5年ほど哲哉さんとともに玉記さんから藍を学ばれたそうです。1985年には、哲哉さんとご結婚されて以来、二人三脚で久留米絣の作品作りに励まれています。

「筑後川の流れる、豊かな自然に恵まれたこの土地で、日々接する美しい水やまぶしい緑などの自然の情景に創作意欲をかき立てられます。」と哲哉さん。

自然や宇宙が好きで、樹木の光や影、鳥のさえずり、野風、星空などを、独特の感性でデザイン化することを好む哲哉さんの作風は、無限大に空間が広がっていくような、優しさに満ちた、ときにはロマンを感じさせる、夢のある世界観が表現されています。

小夜子さんは、不変的なものを追いかけてきた、と言います。幾何学的な模様を平面に収めるその奥に、三元的な空間を感じさせるような、奥行きのある世界観を表現したい、とおっしゃいます。

「その作風は大胆な幾何学模様を端正な織りの技術で展開していくものである。大きなパターンがもつ強さを、リズミカルな藍の諧調で力強く表現していく。(中略)絵画のように絵の具でイメージを表すのでなく、糸が築き上げていく織物ならではの強さ、確かさに惹かれたという松枝小夜子の実感は、それを見る人、まとう人々にも感じられるに違いない。」

詩情あふれる久留米絣の誕生と伝承

機で織られる久留米絣
普段着や労働着といった、至って庶民的な素朴な着物であった久留米絣を伝統の技術を守りながら、独自の研究と工夫を積み重ね、その豊かな感性で、詩情あふれる絣模様の世界を築き上げ、作品に芸術性と上質さを与えた松枝玉記さん。

その意志を受け継ぎ、200年に及ぶ久留米絣の歴史と伝統、また145年に渡る松枝家の絵絣の伝統・技術を伝承しながら、現代的な美しく品のある久留米絣を作り続ける哲哉さんと小夜子さん。久留米絣に生きる、夫婦二人三脚のこれからの歩みにも、期待が膨らみます。

歌心のある松枝玉記さんの影響を受け、哲哉さんも年に一度、宮中の歌会始めで詩を詠まれていらっしゃるそうです。

昨年の平成22年、『光』という題で詠まれた松枝哲哉さんの歌

藍甕に浸して
絞るわたの糸
光にかざす
とき匂い立つ