2013年4月10日、銀座もとじの店主 泉二とスタッフ3名で、福岡県久留米市にある、松枝哲哉・小夜子ご夫妻の工房を訪ねました。豊かな筑後平野の自然に抱かれるようにして建つ「藍生庵」で、お二人のものづくりへの心意気をお伺いしました。
筑後平野の豊かな自然を望む工房で
松枝さんの工房「藍生庵」は、福岡県久留米市田主丸町竹野という、自然が美しく豊かで、水の綺麗な筑後平野に構えられています。 松枝さんの2階建ての工房の2階の部屋は、窓から筑後平野の眺めが一望できて、まるで大自然の中で寝食をして暮らしているかのような解放感が気持ち良い空間です。

工房「藍生庵」2階の窓からの眺め 筑後平野の豊かな自然を望む
このような自然に抱かれた場所では、日々の暮らしの中で目に触れるものすべてが、松枝哲哉さんと小夜子さんの五感を伝って心に響き渡り、心から手へ、そして作品となって生まれるのだと、実感することができます。
藍への情熱

祖父の玉記さんから、いつも「哲哉、藍は生きとるとぞ」と聞かされて育った哲哉さんは、藍は家族の一員のようなものだとおっしゃいます。

哲哉さんと小夜子さんが、「藍」について、「人が一生をかけるのにふさわしいもの」とおっしゃられていたことは、大変印象的でした。
二人の出会い、二人の作風

5年ほど哲哉さんとともに玉記さんから藍を学ばれたそうです。1985年には、哲哉さんとご結婚されて以来、二人三脚で久留米絣の作品作りに励まれています。 「筑後川の流れる、豊かな自然に恵まれたこの土地で、日々接する美しい水やまぶしい緑などの自然の情景に創作意欲をかき立てられます。」と哲哉さん。 自然や宇宙が好きで、樹木の光や影、鳥のさえずり、野風、星空などを、独特の感性でデザイン化することを好む哲哉さんの作風は、無限大に空間が広がっていくような、優しさに満ちた、ときにはロマンを感じさせる、夢のある世界観が表現されています。 小夜子さんは、不変的なものを追いかけてきた、と言います。幾何学的な模様を平面に収めるその奥に、三元的な空間を感じさせるような、奥行きのある世界観を表現したい、とおっしゃいます。 「その作風は大胆な幾何学模様を端正な織りの技術で展開していくものである。大きなパターンがもつ強さを、リズミカルな藍の諧調で力強く表現していく。(中略)絵画のように絵の具でイメージを表すのでなく、糸が築き上げていく織物ならではの強さ、確かさに惹かれたという松枝小夜子の実感は、それを見る人、まとう人々にも感じられるに違いない。」
詩情あふれる久留米絣の誕生と伝承

歌心のある松枝玉記さんの影響を受け、哲哉さんも年に一度、宮中の歌会始めで詩を詠まれていらっしゃるそうです。 昨年の平成22年、『光』という題で詠まれた松枝哲哉さんの歌