2025年9月12日(金)〜15日(月・祝)に開催される「鈴木典子の織ー絣の可能性を求めて」展に向けて、都内にある鈴木典子さんの工房を訪ね、制作現場と日々の仕事についてお話を伺いました。
「鈴木典子の織-絣の可能性を求めて」
9/14(日)ぎゃらりートーク【残席わずか】
9/13(土)15(月・祝)作品解説【受付中】
鈴木典子さんをお招きし、これまでの道のりやものづくりのお話を伺います。ぜひご参加ください。
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整理整頓が要となる
都心でのものづくり
鈴木典子さんは、幼少期から過ごされてきた街、東京・渋谷の閑静な住宅街にある住まい兼工房で、デザイン・設計から糸染め、織りまでのすべての工程を一人で行っています。
「隣には日本画家が住んでおり、少女時代から絵画の魅力に親しんだという。また、叔母が日本刺繍の職人をしており、折につけ、叔母の刺繍を見ては、絹の色糸の美しさに魅せられて育った(『和織物語』より)」
そのような幼少期を想像できるような、都心にありながらも穏やかな空気が流れる場所。生活空間と制作の場はきちんと区切られながらも、日常と創作が自然に結びついているのが印象的です。
全ての作品が生み出される大きな機(はた)は、40年以上愛用されているとのこと。伺った時には組織織に用いる綜絖(そうこう)が複数枚仕掛けられていました。空間を有効活用する工夫が随所に見られ、例えば資料収納には二段ベッドを活用したり、柄のバランスを確認する際には襖に着物型の紙を貼って全体を俯瞰したりと、空間を立体的に使いこなしています。
構想から設計、糸染め
織りまでの工程を一人で行う
制作は平織りによる絵絣を中心に、作品によって組織織りを組み合わせます。まずスケッチブックやアイデア帳にラフに色鉛筆等で構想を描きとめ、それを着物の寸法に合わせた図案に起こします。型紙を使って種糸を染め、経糸本数を計算して設計。経糸・緯糸それぞれ数千本単位の括りや染め分けを経て織りに進みます。設計段階では各部位に10枚~20枚もの図案を描き起こすこともあるとのことです。
※店舗では実際の図案をご覧いただけます。
糸染めも工房内で行います。鈴木さんは藍色が好きだそうで、色味にすっきりとした抜け感の出るインド藍を好んで使用されていますが、作品によっては他の藍、時には藍染専門の職人さんへ依頼されることもあるそうです。
媒染や重ね染めを工夫し、遠目には無地に見える部分も複数の色を重ねて奥行きを生み出します。計算されて色を重ねるにあたり、余り糸も色ごとに棚にまとめるなど、ここでも丁寧な整理整頓が徹底されていました。
佐々木苑子先生との出会い
東京クラフトデザイン研究所で染織を学んだ後、人間国宝・佐々木苑子先生に師事し、染めから織りまで一貫して学ばれました。先生からは技術のみならず、ものづくりに向き合う姿勢や、身体が資本であるために暮らしを丁寧に整えることの重要性を学んだといいます。自分を律し、生活を整えることが、そのまま織りの仕事につながるという学びは、現在の制作の基盤にもなっています。
すべては「絵を織る」ために
「織り続けること」が何より大切だと語る鈴木典子さん。作品制作であれ自作の小品であれ、手を止めないことを心がけてきたそうです。
最も大変なのは図案を決める段階で、そこが定まれば後は染めや織りといった作業の積み重ね。一番嬉しい瞬間は「織り始めて、思った通りの絣模様が現れたとき」だそうです。
根底には「絵を織る」という発想があり、技術や組織はすべて絵柄を生かすための手段だといいます。
紬織着物「そして風が」/第63回日本伝統工芸展(平成28年度) 入選作
「麦畑の穂が風に一斉に揺れる美しさを見て」着想した絵絣模様
自然、音楽、文学、美術・・
インスピレーションの源と作品名
制作は生活と地続きにあります。音楽を聴きながら作業することが多く、集中したいときは無音で、雑念を消したいときは音楽を流すとのこと。旦那様がジャズサックス奏者であったため、作業スペースの棚にはCDやメトロノームが置かれていました。読書も日常の一部であり、小説から刺激を受けて作品が生まれることもあるそうです。
音楽や文学、美術など異分野から着想を得た題名が多く、武満徹の楽曲から生まれた《そして風が》や、小説の題から名付けた《光射す》などが代表的です。印象的な言葉や旋律に出会うとスケッチブックに書きとめ、それがやがて布の上に姿を現します。
「ある小説を読んで見えない光、影を表現したくて」制作した作品
紬織着物「光差す」/第64回日本伝統工芸展(平成29年度) 入選作
鈴木典子さんの作品は、色彩の美しさとリズミカルな絵絣模様、さらに組織織が軽やかなアクセントを添えています。複雑で手の込んだ設計や制作工程をまるで感じさせない、心がふわりと軽くなるような楽しげで柔らかな雰囲気をまとっています。
「織に集中できる人間性を生活習慣の中から築いていく(『和織物語』より」)ということが、鈴木典子さんにとってはもはや日常となっており、精緻で緻密であることと柔らかく楽し気であることが、何の矛盾もなく一枚の美しい布に表現されています。ぜひ多くの方に実物をご覧いただき、あるいは纏っていただいて、布が奏でる旋律や詩情を味わっていただきたいと思いました。
鈴木典子の織-絣の可能性を求めて|9月催事
会期:2025年9月12日(金)~15日(月・祝)
場所:銀座もとじ 和織、男のきもの、オンラインショップ
〈お問い合わせ〉
銀座もとじ 和織・和染(女性のきもの) 03-3538-7878
銀座もとじ 男のきもの 03-5524-7472
(電話受付時間 11:00~19:00)
ぎゃらりートーク
日 時:9月14日(日)10時~11時
登壇者:鈴木典子氏、外館和子先生(多摩美術大学教授・工芸史家)
会 場:銀座もとじ 和織
定 員:40名様(無料・要予約)
作品解説
日 時:9月13日(土)/15日(月・祝)各日14時~14時半
会 場:銀座もとじ 和織
定 員:10名様(無料・要予約)
在廊
9月12日(金)13時~18時
9月13日(土)~15日(月・祝)11時~18時
鈴木典子(すずき のりこ)さんについて
絣の可能性を求め、組織織と組み合わせた
絣文様の創造と新たな挑戦
1953年東京都生まれ。幼少の頃より日本画や日本刺繍に触れ、東京クラフトデザイン研究所にて織を専攻し黒沢信雄氏に師事。卒業後は同研究所の助手を務めたのち、重要無形文化財「紬織」保持者・佐々木苑子氏の工房で研鑽を積まれます。
植物染料による糸染めを行い、絣と組織織を組み合わせた独自の織表現を探求。
その作品は、自然の風景や音楽、文学などから着想を得た詩情あふれる構成と、やわらかな色彩に特徴があります。日本伝統工芸展、日本伝統工芸染織展、東日本伝統工芸展などに多数入選。2020年「紬織着物『遥か』」で奨励賞・京都新聞賞受賞。現在は日本工芸会正会員として、東京・渋谷の自宅兼アトリエにて制作を続けていらっしゃいます。
銀座もとじ和染 2025年9月 個展開催予定
鈴木典子さん年譜
1953年 東京都生まれ
1976年 東京クラフトデザイン研究所織専攻科卒
1976年~79年 同研究所 織科助手として勤務
1978年~80年 佐々木苑子氏に師事(現重要無形文化財保持者)
1981年~83年 伝統工芸武蔵野展 入選
1983年~ 黒沢信雄工房展に参加数回(渋谷西武デパート他)
1984年 第24回伝統工芸新作展 (現東日本伝統工芸展)入選1985年~86年 佐々木苑子氏の工房に通う
1988年 京都新人染織展 入選
1989年 「染織四人展」銀座渚画廊
2008年 第20回 全国染織作品展 奨励賞
2010年 第50回 日本伝統工芸展 和楽賞
2011年 第45回 日本伝統工芸染織展 初出品 初入選
2012年 第59回 日本伝統工芸展 初出品 初入選
2015年~ 佐々木苑子 重要無形文化財「紬織」伝承者育成研修会 助手を務める
2016年 (公社)日本工芸会 正会員認定
2018年 第58回 東日本伝統工芸展 根津美術館館長賞
2020年 第54回 日本伝統工芸染織展 奨励賞 京都新聞賞
2025年現在 渋谷区自宅にて制作
鈴木典子の織―絣の可能性を求めて|和織物語
多摩美術大学教授の外舘和子先生に取材執筆いただきました。全文公開しておりますので、ぜひご覧ください。