やわらかく上品で、しかも艶やかな紅色。山岸幸一さんの紅花染めは多くのきものファンを虜にしています。
「山岸さんのお着物を纏うと体の奥底から、力が漲ってくる」
やさしく丁寧に、素材のもつ性質に逆らわず染められ織られた布は、纏う人の体をあたたかく包み、生命力を与えてくれます。2枚、3枚と持たれている方も多いという事実が、山岸さんの作品が宿す力の強大さをものがたっています。
2018年7月中旬、私たちは一泊二日で山形県米沢市赤崩でものづくりを行う山岸さんの工房「赤崩草木染研究所」を訪問しました。
この2日間の赤崩は気温35℃。じっと立っているだけで汗が吹き出るような暑さでしたが、それを吹き飛ばすような爽やかな笑顔で山岸さんは私たちを迎え入れてくださいました。
自然の流れに合わせて生きることを選択した山岸さんの笑顔には、万物に対する感謝の心と、愛情があらわれています。
さまざまな便利なものがあふれ、すぐに手に入る現代。山岸さんの仕事を拝見して、本当の豊かさとは何かを考えさせられました。
紅花餅づくり
山岸さん独自の技法、「紅花寒染」。真冬に赤崩れの極寒の地で行われる紅花染めです。
寒染工程レポートはこちら↓
/report_yamagishikouichi_koubou_2012/
今回はその寒染のために夏に行う、”紅餅”づくりを見学・体験させていただきました。
山形県での紅花栽培の歴史は古く、中世末期、今から400年も前に遡るといいます。
紅花は4月頃種を撒き、7月初旬に花を咲かせます。
AM 5:00

花が咲きこぼれた状態が摘み頃。
花びらを指先でねじるように引き抜くのがコツです。
AM 6:50

これは紅花の力で、触れることで血行が非常に良くなるために起こるのだそう。
自然の命をいただいてものづくりをしていることを実感する瞬間です。
AM 7:00

摘んだ花びらをザルへとうつし、それを抱え工房脇に流れる川へ。最上川の源流のそばの、この清らかな水を求めて赤崩の地を選んだという山岸さんにとって、川は全工程の命ともいえる存在。
ザルを川に浸した状態でザブザブと洗い持ち上げると、黄色の色素が落ちていきます。
山岸さんの作品の特徴のひとつである強い生命力を感じさせる紅色は花洗いの段階で黄色の色素を十分に洗い流すことで生まれるといいます。
AM8:30

桶の中に人ひとりが入り、少量の水を回しかけ、踏んでゆきます。これを「花踏み」といいます。踏みはじめの桶内はまだ黄色味が多い状態です。
※普段山岸さんが行うときは裸足で行いますが、今回は私たちも体験させていただくということでご配慮くださり、みなビニール袋を靴に履かせて花踏みを行いました。

AM9:30
30分ほど踏み続けると、このように桶内は鮮やかな紅色に変化します。
AM9:40

AM10:00

途中霧吹き、花を揉むように切り返す「花蒸し」という作業を行い、これを十分に繰り返すことによって花を発酵させます。
AM14:00

通常の餅つきと同様、粘り気が出てくると杵を持ち上げるのも結構な力を要します。
AM14:30

巨峰ぐらいの大きさを手にとって丸く整え、両手でぎゅっと挟み、水分を絞り出します。
手のひらで煎餅状になったらそれをザルの上に並べ、数日陰干ししたものが「紅餅」。山岸さんの紅花寒染の作品に色の命を宿す染料となります。

「やはり人というものは一度いいものを知ってしまうと戻れないものですねえ」

高層ビルが立ち並ぶ都市で生活しているとどうしても忘れがちな ”自然” という当たり前の恵みを、山岸さんは思い起こさせてくださいました。
米沢市赤崩の地で、黙々と紅花染めの深奥を追求される山岸幸一さん。太陽と水と風を慈しみ、自然の恩恵に感謝し作品を創り出すその姿に、私たちは心を洗われ、今年もまた清らかなパワーをいただきました。