紅花餅づくり
山岸さん独自の技法、「紅花寒染」。真冬に赤崩れの極寒の地で行われる紅花染めです。 今回はその寒染のために夏に行う、”紅餅”づくりを見学・体験させていただきました。 山形県での紅花栽培の歴史は古く、中世末期、今から400年も前に遡るといいます。 紅花は4月頃種を撒き、7月初旬に花を咲かせます。AM 5:00

山岸さんの工房では朝4時に紅花畑へ向かいます。花の咲く7月の約1ヶ月間、棘が朝露でしなっている早朝に紅花摘みが行われます。 花が咲きこぼれた状態が摘み頃。 花びらを指先でねじるように引き抜くのがコツです。
AM 6:50

紅花摘みを行なった後の手は写真(左)のように色づき、そして少しピリピリと痒くなります。 これは紅花の力で、触れることで血行が非常に良くなるために起こるのだそう。 自然の命をいただいてものづくりをしていることを実感する瞬間です。
AM 7:00

花摘みが終われば、次は花洗いです。 摘んだ花びらをザルへとうつし、それを抱え工房脇に流れる川へ。最上川の源流のそばの、この清らかな水を求めて赤崩の地を選んだという山岸さんにとって、川は全工程の命ともいえる存在。 ザルを川に浸した状態でザブザブと洗い持ち上げると、黄色の色素が落ちていきます。 山岸さんの作品の特徴のひとつである強い生命力を感じさせる紅色は花洗いの段階で黄色の色素を十分に洗い流すことで生まれるといいます。
AM8:30

洗い終えた花びらは一度しっかりと水分を絞り、直径70㎝ほどの桶にうつします。 桶の中に人ひとりが入り、少量の水を回しかけ、踏んでゆきます。これを「花踏み」といいます。踏みはじめの桶内はまだ黄色味が多い状態です。 ※普段山岸さんが行うときは裸足で行いますが、今回は私たちも体験させていただくということでご配慮くださり、みなビニール袋を靴に履かせて花踏みを行いました。

AM9:30
30分ほど踏み続けると、このように桶内は鮮やかな紅色に変化します。AM9:40

黄から紅色に変化したら、再び水気を取るために絞ります。
AM10:00

花踏み後、ゴザに広げて陰干しをします。 途中霧吹き、花を揉むように切り返す「花蒸し」という作業を行い、これを十分に繰り返すことによって花を発酵させます。
AM14:00

十分に発酵させたら、次は臼と杵でまんべんなく、粘り気が出るまでついていきます。 通常の餅つきと同様、粘り気が出てくると杵を持ち上げるのも結構な力を要します。
AM14:30

しっとりと粘り気が出たら、直径4㎝、薄さ2mmほどに形づくっていきます 巨峰ぐらいの大きさを手にとって丸く整え、両手でぎゅっと挟み、水分を絞り出します。 手のひらで煎餅状になったらそれをザルの上に並べ、数日陰干ししたものが「紅餅」。山岸さんの紅花寒染の作品に色の命を宿す染料となります。

完成した紅餅は、工房室内で壺の中に入れ、寒染の季節まで大切に寝かせます。
山岸さんはもともと家業の織物業に就いていたそうです。米沢市中心部にあった工場で機械織りを行なっていたある日、手織りに挑戦したところ、その風合いの良さに感動したといいます。 「やはり人というものは一度いいものを知ってしまうと戻れないものですねえ」
