[カンタ・デロシュ×銀座もとじ]
生命体のような街「銀座」を表現した
オリジナル長襦袢シリーズ「Réflexions de Ginza」
2020年に、銀座もとじ創業40周年を記念して制作いただいた、グラフィック・アーティストのカンタ・デロシュさんとのダブルネームによるオリジナル風呂敷「繋がり」に続き、今回、“銀座の今”を表現したオリジナル長襦袢「Réflexions de Ginza」(リフレクション・ドゥ・ギンザ)を制作いただきました。
フランス人のお父様、日本人のお母様を持ち、フランス・パリ生まれのカンタ・デロシュさん。現在は、パリと東京を拠点に、フランス×日本を体現したような表現で、モダンな、暖かみのあるビジュアルを描き続けています。ポンピドゥーセンター・メッスのビジュアルや、三越伊勢丹のキャンペーンなど、グラフィックだけでなく、ブランドディレクションなどでも幅広くご活躍されています。
FIGARO本誌、ELLE本誌などの誌面のデザインにも携わり、私たちの身近なところにもその作品が展開されています。そんなカンタ・デロシュさんに長襦袢制作について伺いました。
「まず一緒に銀座を歩きましょう」
からスタートした、
銀座をテーマにしたものづくり。
泉二啓太 以下 啓)こんにちは。
KANTA 以下 K)こんにちは。
啓)前回の風呂敷に続き、今回はオリジナル長襦袢を制作いただきありがとうございます。
もともと、弊社には「銀座のものがたり」や「銀座の柳」などをモチーフにした銀座ならではの長襦袢があるのですが、銀座は伝統を大切にしながら、新しい物事も柔軟に取り入れるなど、新旧入り混じり、常にアップデートし続けています。そんな「銀座の今」を表現した新しい長襦袢制作を思ったときに、寛太さんの顔が頭に浮かんだのです。
K)ありがとうございます。お話をいただいた時点で何か具体的なイメージはありましたか。
啓)以前、寛太さんがディレクションされたFIGAROさんの誌面で、パリの地図を限られた配色でグラフィカルに表現していたのがとても印象的で、そんなお洒落で洗練された地図を「銀座版」で作れないかと、ふと思ったのです。
K)銀座もとじさんでは「銀座の古地図」をモチーフにした長襦袢もありますね。
啓)はい。地図をきっかけにして、そこから「銀座の今」をグラフィカルに表現した今までにないモダンな長襦袢を制作したいと思い、今回寛太さんに制作を依頼させていただきました。
K)ご依頼ありがとうございました!
啓)2020年の12月に、まずは銀座を知っていただくために、一緒に銀座を歩いてみませんかとお誘いしましたね。
K)ブランドショップが並ぶメイン通りから、銀座にかつてあった川跡地の向こうまで、エリアごとにご案内いただきました。
銀座の街は多面的で変化し続ける
まるでひとつの生命体のよう。
啓)その時の印象はいかがでしたか。
(銀座の街風景 ©Kanta Desroches)
K)川跡地を境にして、時代さえ変わったかのような雰囲気の違いに驚きました。百貨店の銀座、泰明小学校がある銀座。銀座は通りが1本違うだけで、異なる表情があり面白いです。今までは落ち着いた「静」のイメージでしたが、印象が変わりました。
啓)たしかに今の銀座は、成熟したイメージが強いかもしれませんね。戦前まではモダニズム文化の中心でしたし、もとはベンチャー気質の「動」の街だとは思うのですが。
K)そうですね。今回は啓太さんと一緒に巡ることで、銀座が通り一本挟んで、大きく4つのエリアに分かれていることを強く意識しました。接待などが盛んな、いわゆる政治の新橋エリア、夜の繁華街の並木通りエリア、下町のような歴史を感じる東銀座エリア、整然と店舗が並ぶ銀座通りエリアなど。様々なエリアを巡ることで、動的な、銀座の街が内包するダイナミズムを感じました。
銀座は、時代に沿って様々に変化し、再考と再構築を繰り返してきた、生きた街です。
「静と動」「新と旧」「朝と夜」のように、対極の顔を持つ多面的な街であり、私たちの思考を刺激し、さまざまな行動に駆り立てる街だなと。
つるつるとした銀座。ざらざらとした銀座。そびえたつ建築物の物質的な質感にも興味を引かれました。
(銀座の街風景 ©Kanta Desroches)
(銀座の街風景 ©Kanta Desroches)
(銀座の街風景 ©Kanta Desroches)
「Réflexions」は「反射・共鳴」を表す言葉。
歴史的記憶とマテリアルが響きあう
今の銀座を表現。
啓)今回の長襦袢のデザインには、銀座といえばの「ガス灯」を始め、有名百貨店から最新の商業ビルまで、銀座の建造物がモチーフとして選ばれていますね。これらを選んだ理由などありますか。
K)啓太さんとのそぞろ歩きで「動」の街、銀座を感じるなか、フラッツ・ラング監督による1927年の映画『メトロポリス』から派生して1982年の『ブレードランナー』や2010年の『インセプション』などの映像が頭に浮かんで、街を描く際のインスピレーション源となりました。誰もが目にして忘れない、銀座にそびえ立つ特徴的な建物に改めて焦点を当て、それらを並置することで、生き物のように今にも動き出しそうな、能動的な街を表現できたと思います。古い建物も、近代建築も全ての建造物が分け隔てなく「銀座の今」を形作っています。それら全てが、私たちを新たな行動に駆り立てる、という強い「動」のイメージです。この長襦袢をお召しになる方にも、銀座の街の強いエネルギーをまとっていただきたい、という気持ちで描きました。
銀座の街から着想を得たモチーフデザイン
啓)今回、タイトルは「Réflexions de Ginza」(レフレクション・ドゥ・ギンザ)ですが、どのような意味があるのでしょうか。
K)フランス語のレフレクションは「思考する、思いを巡らす」という意味と「光の反射・音の共鳴」という意味を持ちます。豊かな歴史的記憶を持つ銀座と、視覚を通して感じる物質としての銀座の2つの側面に焦点を当てたタイトルにしました。
啓)確かに、高層ビルが立ち並ぶ銀座は、窓ガラスも多いので、光を反射するイメージもありますね。また、配色も印象的ですが、どんな意味が込められていますか。
K)「Rouge écarlate」(ルージュ・エカルラット)は「ギンザ・トリコロール」をイメージしています。赤は日本とフランスを繋ぐ、ダイナミックな色。緑は自然や水を。桃色は香しい花の様な繊細さを表現しています。
啓)日本とフランスを表現した「赤」はパッと目を引くので、着物の下からチラリと見えるとアクセントとなりますね。長襦袢としてだけではなく、ガウンの様に羽織って着るのも素敵ですね。
K)そうですね。洋服として着るのもお洒落ですね。世界中の方に好まれそうですし、装いの幅が広がりますね。
啓)「Blue minéral」(ブルー・ミネラル」には、どういった思いが込められているのですか。
K)水晶の結晶や黄鉄鉱の塊のような、キラキラとした銀座の質感を感じる配色にしました。
啓)この配色も絶妙ですよね。僕はこれを仕立てて着ようかな。
モノクロ映画のような「フィルム・ノワール」、やわらかな印象の「ピエール・ド・タイユ」、スイーツのような「ドゥセール」。配色を変化させた5つのバリエそれぞれにストーリーと個性があって、色違いで揃えたくなりますね。今回、デザインする上で難しかったことはありますか。
K)長襦袢は反物なので、柄を繰り返す必要があったので、その柄の繋がりを考えながら描くことです。ただ、こういった制約は、むしろダイナミックな新しい表現が生まれるきっかけにもなります。
「ドゥセール」は銀座のカフェで体験するシックなスイーツをイメージ
啓)そうですね。今回、シルクスクリーンで制作したので、巾38×長さ62cmの型を使っていて、その範囲内でのデザインと、天地の変わらない繰り返しの柄なので、柄の繋がりが不自然にならない様にする必要がありましたね。
K)はい。あとは、配色ですね。今回、一点に使用できるのは3色という限られた配色なので、銀座を表現する理想の色を探すために、沢山のカラーバリエーションを出してみて、壁に貼って離れて見て、色々と試してみました。
啓)沢山のカラーサンプルありがとうございました。 配色が決まった後も、実際に布に捺染したサンプルの色は、紙で見るのとは印象が違い、今度は布の色チップから色を選ぶのもなかなか根気がいりましたね。
K)そうですね。紙と布の発色の違いには苦戦しました。天然素材の質感や光沢、シルクの「生きた色」を感じながらの作業でした。そういった配色で、最終的に着用される反物は、まさに動的な「生きた街」として立ち上がってくるのだと思います。
啓)寛太さんの妥協の無いものづくりで最終的に、良い色合いの反物ができました。自分には持っていない視点や感性に学ばせていただくことが多いので、是非これからも「銀座」を掘り下げながら一緒にものづくりをしていきたいです。ありがとうございました。
銀座をイメージした5配色
10月1日(火)販売開始
ルージュ・エカルラット
「ギンザ・トリコロール」をイメージ。赤は日本とフランスを繋ぐ、ダイナミックな色。緑は皇居周辺や屋上庭園など、銀座で感じる自然や水を。桃色は香しい花の様な繊細さを表現しています。
ブルー ・ ミネラル
水晶の結晶や黄鉄鉱の塊のような、キラキラとした銀座の質感を感じる配色 。かつて鈍い輝きを放つ銀貨の鋳造を担った特別な場としての銀座の記憶と、今日の銀座で過ごす特別な時間がまるで交差するかのような、独特な輝きを感じる色合いです 。
フィルム ・ ノワール
1930年代のモノクロ映画で観られるような世界観。昼間の喧騒とは打って変わって、人気のない静寂な夜の銀座を表現した配色 です。物語が始まる前の舞台のような、みるものを吸い込むダークな色彩は、私たちの想像力を無限に掻き立てます。
ピエール ・ ド ・ タイユ
パリのハウスマン様式の建築で使用される、トラディッショナルな石をインスピレーション源とする色 。ポール ・ グリモー監督のアニメーション映画『 王と鳥 』 1952 年 ・ フランス を彷彿させる色使いです。石畳が敷かれ、新旧様々な建造物で磨き上げられた多様な石材が私たちを楽しませてくれる銀座の街らしい 、やわらかな配色です 。
ドゥセール
昼下がりの銀座のカフェで体験する 、シックなスイーツをイメージした配色 。クラシカルな世界観とモダンなスタイルが共存する銀座らしい、目の覚めるような色合いです 。
商品詳細はこちら
カンタ・デロシュ × 銀座もとじ
オリジナル風呂敷 「繋がり」
対談《前編》カンタ・デロシュ × 泉二啓太
〈お問い合わせ〉
銀座もとじ和織・和染 03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472