色彩の架け橋~吉岡幸雄展~ | 和織物語

2019年5月27日

和織物語 吉岡幸雄
吉岡幸雄作 (左) プラチナボーイ 広巾着尺 壺糊縮緬 「鈍色」、
(右) プラチナボーイ 着尺 壺糊縮緬 「香色」

著者:田中敦子(工芸ライター)

 2016年10月、吉岡幸雄さんはロンドンに向かった。4年前に、英国のヴィクトリア&アルバート博物館(以後V&A)から「日本の色を染めてもらえないか」と依頼を受け、ようやく染め上がった70色を携えての、感無量の旅だった。
 1色につき幅40センチ、長さ3メートル。絹地を中心に、それぞれの天然染料が最良の発色を見せる材質を選んだ。「生地選びは大切です。糸一本から気を抜けない」伝統的な技法により生まれる和の色名を冠した70色。冴え冴えと澄んだ色を生み出す染料は、すべて自然の恵みで、その多彩さに目を瞠る。
 極東の島国を彩る四季の色を写し取ろうと、日本人は染めに工夫を凝らしてきた。もっとも高貴な色、紫系。これは紫草の根である紫根で染める。太陽、血潮と、人の命の色である赤系は、キク科の紅花の花弁、茜草の根、蘇芳の樹の芯材、ラックと呼ばれる昆虫からの色素、と4種を選んだ。空や海の色を思わせる青系は、蓼藍の葉。黄金のごとき黄系は、ススキに似た苅安の葉、黄檗きはだ楊梅やまももの樹皮、安石榴ざくろの実の皮、梔子くちなしの実。植物の色を象徴する緑系の色素は自然界になく、青と黄色を掛け合わせる。蓼藍で濃淡様々に染めたら、そこに黄色の染料を重ね染めるのだ。大地や夜を彷彿とさせる茶や黒の系統は、胡桃の樹皮や果皮、訶梨勒かりろく檳榔子びんろうじなど南国の木の実、松ぼっくりに似た矢車の実……。
 吉岡さんは、京都伏見にある『染司よしおか』の五代目当主であり、古法による染色技法を今に伝える。染織史家としても高名である。江戸時代より約200年続く工房を、先代の吉岡常雄さんから受け継いだのは40歳を過ぎてからと遅いが、V&Aの永久コレクションとして染司よしおかの染める「日本の色」が選ばれたことは、吉岡さんの来し方を総括するような出来事であった・・・


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