結城紬のふるさとに行ってきました

結城紬のふるさとに行ってきました

「目で見て、手で触れ、耳で聞く」。銀座もとじでは、作家や産地の作り手たちのもとへ赴き、 ものづくりへの想いや製作過程を学び、お客様に正しく伝えていくことを大切にしています。

今回は2008年12月6日(土)〜14日(日)に【銀座もとじ 男のきもの】で 開催される『結城紬展 〜縞・無地の粋〜』に向けて、結城紬のふるさとを訪ねました。

訪れた工房は4つ。今回は、銀座もとじオリジナルの結城紬をお願いしている工房の中でも、 「プラチナボーイ」の糸を使った結城紬を制作していただいた作り手たちに話を伺いました。

製織 上野みつこさん

「東京からこんなに多くの人が来て、本当にびっくりだねぇ」
総勢20名あまり。柿がぽってりとした橙色に実るのどかな秋の畑道をきた私たちを、 上野みつこさんは満面の笑みで迎えてくれました。
製織 上野みつこさんの工房

18歳から機に向かってこの道約60年。お舅さんの代まで3代続く病院だった築200年の家の ちょうど玄関先だったところが明るくて、 上野さんは毎日そこで、トントンカラリと結城紬を織っています。 使っている機は娘さんが18歳の時に作った、38年の歴史が刻まれたもの。 ケヤキの皮で作った腰板はもう自分の腰にぴったりと貼り付き、 カシの木で作った杼は、使い込まれてとてもいい艶がほこらしげに光を放ちます。

製織 上野みつこさん 機織
「プラチナボーイの糸にはね、本当に驚いたんだよ。 光沢があって強くてきれい。指が痛くなるほど強いから思い切って強く打ち込みを入れられる。 “平ら”で美しい生地が出来てとっても嬉しかった。」 「この年になると、子供も育っちゃったし、お金よりも良いものを作りたくなってくる。 立派な糸を扱わせてもらえて光栄です。」
「プラチナボーイ」の作品は“履歴のわかる純国産品”として、種の飼育者から染織人まで 工程におけるすべての作り手たちの名前を作品に記しています。もちろん「上野みつこ」さんの名前も。 それを知った上野さんは大喜び。 「すごいねぇ。嬉しいねぇ。私も真心を込めて織っています。
製織 上野みつこさん

着る人に楽しんでほしいって本当に心から思ってね。 お父ちゃん(ご主人)もそう思って織った方がいいって、ずっと隣で言ってはげましてくれてきたの。 この想いが少しでも届いたら、こんなに楽しいことはないです。」 隣でニコニコ聞いているご主人。趣味のカメラを手に記念撮影のチャンスをずっとうかがっている様子。 「私たちひとまわり歳が違うから、全然けんかにならないの。ずっと楽しい気持ちで織ってこられた ことを、感謝しています。」 上野さんの織物からはひだまりのあたたかな優しいにおいがしました。

糸取り・絣括り 浜野一英・タミさん

「ようきましたねぇ。」 目を細めたくなるほど、陽射しがまぶしい軒先で、 浜野一英さん、タミさんご夫婦がにっこり仲良く出迎えてくださいました。 タミさんが「糸取り」した糸を、一英さんが「絣括り」する。 あうんの呼吸以上の、相手を気遣った仕事の運び。
糸取り・絣括り 浜野一英・タミさん
糸引き
「糸引き」は、竹棒にもろこしをいくつか巻いたまわりに、綿帽子をかけて、綿を指で引いて糸を作ります。 ひと引っ張りするごとに、ギュ、ギュ、と深雪を踏みしめるよりも鈍く深い、なんともいえない良い音がします。 私たちも体験させていただいたのですが、綿はキシキシとして引きにくくて大変。 しかも均一に引かないときれいな糸は取れません。

見た目以上に結構な力のいる作業なのです。 織る時の糸はたて糸の方がよこ糸より太いのですが、その違いはこの糸取りの時から。 きちんと太細を変えて作っているそうです。

絣括り
その糸を、今度は柄を作るために「絣括り」をします。 墨で印が付けられた糸の上を、綿糸でギュッと括る。 左肩から綿糸をたらして、口でくわえて括る姿は真剣そのもの。 「絣の大きさによって巻回数も違う。ほどきやすいように結び目の一片を長く仕上げるんですよ。」 正確な仕事が求められる緻密な作業。

軒先のこもれびに包まれて仕事をするお二人の姿はずっと見て いたくなる素敵な光景でした。

製織 添野重子さん

少し高い床の入り口を上がると、みな一斉に「わーっ!」と驚きました。 二間つづくたて長の部屋の隅から隅までいっぱいに絣糸が張り巡らされていたのです。 「これは一反分の長さの絣糸。普通は庭でするんだけど、夜糊付けした方がしっとりとするから、 私は部屋の中でしているの。」 そう教えてくれた添野重子さんは、お嫁入りしてからこの道に入り、織歴50年。
製織 添野重子さんの工房

工房には今となっては大変貴重な竹筬もありました。 「今はステンレスの筬になってね。それはそれで丈夫で使いやすいんだけど、竹筬は なんといっても音が良くて。生地の仕上がりもふっくらとなる。やっぱり違うね。」 何十年も昔からの道具たち。現在では道具の作り手がいないものもあります。 「いつまで持つかわからないけれど、まだ仕事に耐えられる内はきちんと使ってあげたい。 今しかできないものを大切にしないとね。」

製織 添野重子さん
また、今回は添野さんが織ってくださったプラチナボーイの結城紬を持っていて、 名前が記された証紙も見ていただきました。 「織 添野重子」という文字を見られて、とても驚かれたご様子。 「こんなことになっているなんて知らなかった!ますます頑張らないといけないねぇ。」

本当に嬉しそうな添野さんの笑顔は、私たちに手仕事の作品たちをしっかりと伝えていかなければという使命を 改めて感じさせました。

染色 大久保雅道さん

「工房 思川桜」を運営している大久保雅道さん。 ここは紺屋、つまり染色をしています。 大久保さんはとても意欲的。数年前にリニューアルした工房は広く、とてもきれい。そして設備もかなり 充実していました。
染色 大久保雅道さん

さらにここには結城で唯一の藍甕もありました。 甕がうまる床の下にはすきまがあって、冬はそこに薪をくべて火をたいて藍を温めるのだそう。 また、藍染めは時に糸をたたいて染液を入れ込むことがあります。 木の棒の先に糸を括り付けて、御影石に勢い良く叩きつけるのですが、 作業中は染料がまわりに飛び散るので、その場所はきちんと囲まれていて、 壁には藍の染料の跡がくっきりと残っていました。多い時は2000回も叩くこともあるというので驚きです。 「絣括りの強さは人によって違うからね。ひとつひとつ、 この糸は何回染めたら浸透するか見分けることが大切なんだよ。これはもう経験と勘だね。」

染色 大久保雅道さんの工房
また、結城紬は堅牢度の高さも求められています。 結城紬は、絶対的な規定ではないものの、産地の目標値として、「40時間照らしても変色しない」 「15時間水に浸ける、又は、60℃の湯に20分浸けても色が流れない」といったレベルを掲げています。 そんな中、大久保さんは様々な新しいチャレンジに取り組んでいます。その一つは、銀座もとじが10年以上前から 取り組んでいる「銀座の柳染め」。

毎年、大久保さんへも「銀座の柳」を送り多様な色の作品へ 仕上がって戻ってきます。 「化学染料でしかできないものももちろんある。でも、やっぱりストーリーのある天然染料の作品はおもしろい。 これからも、着る方たちがストーリーを感じてより楽しく着てもらえるものを作っていきたい。」

▲「銀座の柳染め」についてはこちらから

すべての織物にたくさんの人々の真剣な想いが詰まっています。これは産地や見学に行く度に、 私たちも実感することです。

ふっくらとした手触り。体がつつみこまれるような優しいぬくもり。 着るほどに肌になじむ結城紬の醍醐味は、何度もお召しになり、 そして洗い張りをして仕立て替えること。 その味わいの変化を存分にお楽しみいただける一生ものの結城紬に出逢ってください。