京都・西陣の伝統をもとに、現代の装いを提案する機屋「織楽浅野」。 2011年10月、銀座もとじでは『織楽浅野展「創発」』と題して、新作展を開催させていただきます。
新作展をさせていただく度、浅野裕尚さんは私たちスタッフにものづくりへの想いを大切に伝えてくださいます。 今回も9月、織楽浅野の工房へお伺いさせていただきました。

『創発』にかける想い
今回、代表の浅野裕尚さんが選んだテーマは『創発』。 その言葉について、以下のように記してくださいました。
日々、創造的でありたいと願う私の今回のタイトルは「創発」。
経糸を上下させ、選んだ素材を緯糸として織りこむ構造的な紋織物の中に、
計り知ることのできない美しさを創り出す。それはまさしく「創発」の言葉に重なります。
そしてモチーフは正倉院から現代まで、
仏・英・伊・韓の美術館で撮影した資料など…様々な思いを形に。 ― 浅野裕尚
『創発』とはあまり聞きなれない言葉ですが、辞書で調べるとこのようになるのだそう。
創発【そうはつ】・・・生物学的には細部の性質の単純な合計にとどまらない性質が全体として表れ予測できないようなものが発現されること。
浅野さんらしい独特の世界観。「科学的だけど文化的」と仰るその言葉は、ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、 浅野さんの美意識は、工房を巡らせていただく中で、体感として心を刺激し、脳に響き、理解に近づくものでした。 それほどに、浅野さんの工房は独自の完成された世界観に満ちていたのです。
美意識が随所にあふれる工房の「資料室」

通されたのはいくつもの「資料室」。棚に美しく整頓された膨大な資料たち。
そのひとつひとつを手に取り、 私たちに触れさせてくださり、「これが織楽浅野です。」
「ここを目指しているのが織楽浅野です。」と、前述した“難しい言葉”たちをひとつひとつ紐解くようにお話くださいました。 何よりもその熱意は「織楽浅野の世界観を理解してほしい」という浅野さんのものづくりへの真摯さが創りだすもの。 それが随所に感じられ、こちらも思わず織楽浅野の世界へと引き込まれていきました。
デザインは様々なものから、色は自分の中から

筆、タイル、紙、ポスターなど、
デザインのヒントがたくさん
「今はインターネットの時代。“調べる”ということに対して、いかにそこに早く、正確に到達できるかが 重要とされます。でも寄り道からヒントを得ることも大切。資料を探していく中で、 他のいいものに出会うこともある。実はもう3枚隣にもっといいデザインがあったりする。 束でバラバラっと出した時のデザインの組み合わせにはっとしたりする。いつも創造的でありたい。 だからいつもいろんなヒントが目に入るように生きていたいんです。」

素材へのこだわりを伺いました
その違い、その素材感を布という、糸と糸の交わりの変化によって表現されるのです。 そのために、浅野さんは本来は一色の白糸で織ればすむところを、白糸2種で織りこんでみたり、 同じ白糸でも織りの変化によって生地に凹凸を与えて陰影を表現するなど、 独特の表現方法を創り上げています。 「デザインよりも、ベースの違いを表現仕分ける。ベースが変化できると幅が広くなる。 レオナール・フジタのキャンパスはつるつるだった。これがあったからあの絵が生まれた。 僕も“この生地があるから、この帯ができる”そういうものを作りたい。」
織楽浅野の独特の世界観。たくさんの資料を手に触れ、体感すると理解ができる。 今回は正倉院から現代まで、また仏・英・伊・韓の美術館からインスピレーションを受けた作品が発表されます。 ぜひ美意識の詰まった独自の世界観へ浸りにいらしてください。
織楽浅野の工房の様子
他にも、こちらでは紹介しきれないほど本当にたくさんの“デザインのヒント”を見せてくださいました。 多様な鳥の羽根で作られた筆や、多様な木の素材で作られた箸など、大変貴重なものばかりです。そしてそこから 生み出された織楽浅野の帯やきものたち。そのひとつひとつに、浅野裕尚さんの想いがこめられています。