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久留米絣 松枝哲哉・小夜子~松枝家の藍を纏う~

久留米絣の作家 松枝哲哉・小夜子ご夫妻の工房は、福岡県中南部の久留米市田主丸町にあり、「藍生庵(らんせいあん)」という名前が付いています。その名前は、松枝哲哉さんの祖父であり久留米絣の人間国宝であった松枝玉記さんの雅号「藍生」を冠しています。 「哲哉、藍は生きとるとぞ」 松枝哲哉さんは、祖父の玉記さんから、いつもそう聞かされて育ちました。まさにその玉記さんの言葉が工房の名称として息づき、今に受け継がれています。 

久留米絣(くるめかすり)とは、天然の藍で木綿の糸を染めた、丈夫で肌触りの良い絣織物として、200年ほど前に誕生しました。江戸時代後期、まだ12歳の少女であった井上伝(いのうえでん 1788~1869年)が、自分の藍染めの古着の色あせた部分が模様のように見えることに興味を持ち、その布をほどいたところ、糸が斑状に白くなっていたことにヒントを得て、藍が染まっていない箇所と染まった箇所と組み合わせてみたら面白い模様ができるのではないか、と研究を重ねたところから、やがて幾何学文様の久留米絣の考案に至ったと考えられています。 また、江戸時代後期に大塚太蔵氏(1806~1843年)により、絵や文字を自在に織物に表現しようと研究が重ねられ、「絵台」という絵絣のための道具が考案されました。それをきっかけに、絵絣の技法は、久留米のみならず、周辺地域にまで広まっていきました。この絵台の考案により、幾何学的な紋様から絵的な絣模様としての表現の幅が広がり、久留米絣の発展につながっていったのです。

工房「藍生庵」のある筑後平野の周辺は、葡萄畑・柿畑と特に果樹には恵まれた豊かな自然があり、一つ山向こうは八女(やめ)市、日本の名茶でもある八女茶の茶畑があります。それぞれの土地ごとに絣柄に違いがあり、松枝夫妻の工房のある筑後平野では、中柄から大柄な絵絣が、八女市では、小柄の横絣、男絣が盛んでした。

久留米絣

絵絣の発展のきっかけとなった「絵台」は、3年前に銀座もとじで初めて開催された「松枝哲哉・小夜子展」の際に、松枝ご夫妻が、実際の道具をお持ちくださいました。この絵台によって、織巾に糸を並べてキャンバスを作り、そこに自分の発想を自由に描けることが『久留米絣』の特長だと教えてくださいました。

松枝家が久留米絣を家業としたのが、約130年前の明治時代。松枝哲哉さんは、5代目当主となります。人間国宝であった、3代目の松枝玉記(1905~1989年)さんは、それまでのパターン化された幾何学的な絣模様から、ひとつひとつ柄に思いを込めたテーマ性のある絵絣をさまざまに考案しました。草花や生き物、吉祥文様、景色や海やお城や文字、音のリズムを模様にするなど、あらゆるものを絣に織り込めようと、創意と技巧が凝らされて、作家としての個性が反映された芸術性あふれる新たな久留米絣が誕生したのです。

杼と機

また、絣文様だけでなく、染色においても、玉記氏の作家としての久留米絣への情熱が花を開きます。藍につけて染め重ねる回数によって、濃い紺から淡い空色まで、藍の濃淡に染め分ける技術を編み出し、絣の表現に大きな広がりを持たせることに成功しました。

工房「藍生庵」には、12個もの藍甕があります。この藍の発色には、水の質が大きく左右します。より美しい発色のための水を求めて、1990年に生まれ育った地である福岡県三潴(みつま)郡大木町から、現在の福岡県久留米市田主丸町に移り住みました。 中学生の頃より玉記さんから藍染めを学びはじめて、毎日欠かさず藍の様子を確かめてきた哲哉さんにとって、藍は“家族の一員のような”存在なのだそうです。混ぜた時の色で藍が調子が良いかどうか解るといいます。「手をかけてあげれば、それだけの美しい色で返してくれる。いつも『いい色を出してくれたね』と藍に感謝します。本当にかわいいですよ。」

久留米絣を染める藍

藍は、人類最古の染料といわれる歴史のある色であり、また世界中に分布する、藍を含有する植物から得られる特別な色です。松枝ご夫妻が、「人が一生をかけるのにふさわしいもの」と思いを込める「藍」と、日々向き合って、語り掛けるようにしながら手を掛け続けることによって、世界中で他にはどこにもない、松枝家の「藍」となり、着物となって、その豊かな表情を見せてくれるのです。

松枝哲哉さんは、藍の色のことを「重みのある深い色」と表現されます。植物染料である藍は、赤、黄、青などを含み、いろいろな色が複合された色の深みがあり、それに大変な魅力を感じられるそうです。 その境地は、藍と共存して日々手を掛けているからこそ、感じ取れるものなのではないでしょうか。その藍の持つ色の深みは、多くのインスピレーションや創造性の源ともなることでしょう。松枝哲哉さん、小夜子さんが静かに丁寧に染め、織り上げた久留米絣を纏うことは、松枝家の「藍」を纏うこと。そして、藍の力を伴いながら、お二人がそれぞれに込めた物語や願いや夢を纏うこと。また、おふたりの人柄に触れるほどに、「藍」と「愛」が同義的な意味を帯びていると、確かに思えてくるのです。

工房内の藍染の様子

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