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染織作家・久保原由佳理~生命の色を宿した美しい織物~(2017年公開)

※こちらは2017年に公開した記事です。

2017年9月8日より、二回目となる待望の個展が「銀座もとじ和織」にて開催されます。

希少なプラチナボーイを託し、2年の歳月をかけて銀座もとじのお客様の為だけに染め織られた限定品です。心を揺り動かす、渾身の作品をぜひご覧ください。

ふっくらとした風合いとあたたかく澄んだ色彩、艶やかに光を受ける織模様。久保原由佳理さんにより織り上げられた布はどうしてこうも優しく、柔らかく、心地よいのでしょう。

「紬は、着るほどに柔らかくなるものも多いけれど、私は最初から柔らかな着心地を楽しんで欲しくて」

とおっしゃる久保原さん。糸選びから精練、糸染め、織り、全てを手がけられた珠玉の作品が4年ぶりに銀座もとじに集まります。久保原由佳理さんは長野県松本市に生まれ、現在は安曇野市の自宅兼工房で作品を制作されています。銀座もとじでの初個展は今からちょうど4年前の2013年9月。当時も今も、清々しい大自然に抱かれた工房で草木の生きた色を絹糸へ移しとり、ご主人で染織作家の大月俊幸さんと一緒に機を並べて、こつこつと誠実なものづくりを続けられています。 工房での染色風景
初個展のときに一緒に来てくれたお子さんは今はもう8歳と6歳、すっかりお姉さん、お兄さんになりました。久保原さんが幼少の頃、隣家の本郷孝文さんの手仕事を見て大きな影響を受けたように、お子さんも日々の暮らしの中でお父さん、お母さんの後姿を見て、心の中で何かが芽生えているのかもしれません。 幼少の頃より、久保原さんにとって草木で糸を染め機を織る「染織」の仕事は身近な存在でした。というのも、ご実家の隣が染織作家・本郷孝文さんの工房だったのです。 国画会会員であり長野県松本市で活躍される本郷孝文さんのお宅に出入りし、時にはお手伝いなどをしながら、幼心に本郷さんの手の爪が草木染で真っ青になっているのを「格好いいな」と思っていたそうです。
ガスでなく火力の強い薪を使い染色をする
本郷さんは様々な運命的な出会いを作ってくださった特別な存在だといいます。染織の世界を知るきっかけになったことにはじまり、大学卒業後に初めて弟子入りされた師・柳悦博さんと崇さんをご紹介くださったり、店主 泉二が初めて作品を拝見する機会を作ってくださったのも本郷さんでした。そしてご主人と出会ったのも、本郷さんの工房で修業していた時のことだということです。

本郷孝文さんとは、銀座もとじも長くお付き合いをさせていただいております。「民藝運動の父」と呼ばれる柳宗悦氏の甥である柳悦博氏を師と仰ぎ、氏の教えから「着物は実用」と考え、新しい仕立ておろしの着物でも袖を通したその時から着た人の体に馴染むように、糸の撚りの回数まで研究され妥協のないものづくりをされています。その理念や思想は、本郷孝文さんの作品に表現され、また久保原由佳理さんにも引き継がれています。

※柳悦博氏・崇氏・・・ともに染織作家。悦博氏は、日本の芸術運動の推進者である柳宗悦氏の甥。

崇氏は悦博氏のご子息 久保原さんはものづくりの仕事に興味を抱きつつも、大学は美術系へは進まず東京の大学の人文学部へ。卒業後の進路を考える中で、コツコツと何かを手仕事で作っていける染織の道へ進むことを決意します。

そのことを本郷孝文さんへ相談したところ、本郷さんの師であり東京で活躍されていた柳悦博さん・柳崇さん父子を紹介してくださり、3年間の修行期間を過ごします。

その後地元の松本へ戻りますが独立にはまだ早いと感じ、本郷孝文さんの工房でさらに6年間の修行。ちょうど30歳で独立し、発表の場もないまま作品制作を続けていたとき、銀座もとじとの出会いが訪れました。

師・本郷さんより店主泉二を「岡谷の宮坂製糸さんへ案内するよう」言付かった久保原さんに、泉二は作品を見せて欲しいと話します。

その作品を見た一瞬で、泉二は技術の確かさと色彩の感性の豊かさを感じ、 「できあがったものはすべて銀座もとじでいいただきます」 と伝えました。

作品の魅力と久保原さんの将来性に確信を持ち、染織作家・久保原由佳理さんを支持させていただくことを決めるのに時間はかかりませんでした。

銀座もとじではこれまで、久保原さんに天蚕(てんさん)の着物の制作もお願いしてきました。年間生産量が1反分にも満たない希少な野生の蚕、天蚕は、その希少性だけでなく野生種のため織りの扱いも大変難しい糸です。

代表的な産地として知られる山形県白鷹町とのご縁があり天蚕糸を買い取らせていただいていますが、その大切な糸をすべて久保原さんに託して精練から織りまでをお願いしています。
久保原さんの作品
今回は全作品を「プラチナボーイ」を用いて制作いただきました。帯も着尺も、ふんわりとした風合いにプラチナボーイならではの艶やかさとしなやかさが加わって、紬でありながらどこか女性らしい品が漂います。

また、作品はすべて草木染料で染められています。染料は信州や全国各地から届いた枝を工房の庭先で煮出して作ったもの。薪を割り火をくべて大きな鍋でじっくりと時間をかけて、手間を惜しまずに澄んだ美しい色を抽出していきます。
銀座の柳の染料

独特のふっくらとしたあたたかい白茶色は渋木から、桜の枝からは朱や淡い赤茶色を。柳から染め出す色は、銀座もとじから「銀座の柳」をお送りし染めていただいたのをきっかけに、久保原さんご自身のお気に入りの色のひとつになったそうです。今回の帯の中では、黄グレーや緑グレーの色に染められています。
久保原さんの染色した糸
ぬくもりにあふれながらも洗練された独特の色彩は、どこからやってくるのでしょうか。工房を包み込む緑の木々、遠くの山並み、広い空、信州の自然の中にある質感や色との日々の出会いが作品づくりに活かされていると久保原さんはおっしゃいます。

そして今回の作品には、4年前の初個展でお客様と会話し過ごされた時間、久保原さんがあの日に心で感じたものすべてが糧となりそっと潜んでいるのです。糸そのものの白さが際立つ「プラチナボーイ」を澄んだ草木の色で染め出したこの上なくピュアな美しさ、心揺り動かされる作品たちに、ぜひ会いにいらしてください。

久保原由佳理さんの作品・詳細情報

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