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草木染織作家・平山八重子さん工房レポート

2019年2月8日(金)から2月11日(祝・月)まで、待望の「平山八重子展」が開催されます。作品展に先立ち、東京都内にある平山八重子さんの工房を訪問。豊かな織表情をつくる特徴的な「糸」へのこだわり、作品を通じて表現されたいことなどを伺ってきました。 訪れたのは、おだやかな日差しが注ぐ冬晴れの日。踏み石を辿っていくと、寒椿をはじめたくさんの草木と、ご主人(陶芸家の平山源一さん)が作られたという和やかな表情の陶器のお地蔵様、そして愛犬・コタローくんが元気に迎えてくれました。リビングには三人のお孫さんの可愛い写真も飾られて、ほんわかとあたたかな家庭の雰囲気が漂うご自宅兼工房です。 

4000デニールを超える緯糸を板杼で織り込む

工房として使われている部屋には織り機が3台並び、中央の機には今まさに個展に向けて織られている角帯がかけられていました。平山八重子さんの作品は、色も太さも多様な糸が経緯に重なり合い、重層的な美しさを醸します。例えば、織り上がった表面にはほとんど経糸しか見えなくても、経糸と経糸の隙間に、全く違う糸がチラリと覗く。そのわずかな一つの色、一本の糸の存在が、作品全体の雰囲気を司るといいます。

 「糸一本で表情が変わるのが楽しいの」 楽しそうに仰いながら、(企業秘密かもしれない)緯糸を巻きつけた「杼」を見せてくださいました。制作中の角帯には3つの杼が使われており、そのうちの2つは太い緯糸を巻きつけた大きな「板杼」です。平山八重子さんの帯作品ではとても太い糸が使われることも多く、角帯であれば太い経糸は1000〜3000デニール、緯糸は数種の糸束を緩やかに撚り合わせ1本にした4000デニールを超えるものもあるそうです。 太い糸は織り出されたときに「面」を作り、光を受け煌めきが生まれます。また、細い緯糸が続く中に太い緯糸が入ることで、表面に凹凸と陰影ができ新しいリズムが生まれます。糸の色、太さ、光、リズム、それらを織りの中にどう配合していくかは、全て平山八重子さんの中にあり、織り始めの「試織(ししょく)」の段階で、イメージと一体化するベストバランスを見つけるといいます。 「結構、感覚的に織っているんです」 と仰ってニコッと微笑まれますが、その「感覚」こそが、誰も真似できない平山八重子さんの「非凡な」作品世界を作っているのです。経糸と緯糸が淡々と交互していく「平織り」ではありますが、これほどに豊かで美しい存在感を讃えた平織りがあるでしょうか。「平凡を非凡に」——平山八重子さんが故・宗廣力三先生の門下生だった頃に教えを受けたと仰っていた言葉が、形となってここにあると思いました。

宗廣力三先生から頂いた「超」という言葉

 工房の壁には「超」という書が飾られていました。師である郡上紬を復興させた人間国宝・宗廣力三先生は折に触れ、生涯心に抱き続けたい織哲学ともいえる言葉をくださったそうで、この「超」という書もそのひとつとのこと。 宗廣力三先生との出会いは20代前半の頃。装飾のレースの会社でデザイナーとして働きながら染織を志し、ラジオから流れた宗廣先生の「織りは人なり、人は心なり」という言葉に感銘を受け両親を説得して郡上へ。厳しい二年間の修行の後、宗廣先生が静岡県・網代に開校した研究所ではさらに一年間、研修生に技術を教える立場として宗廣先生のお手伝いをしていました。 「とにかく100反織りなさい」と、宗廣先生はよく言われていたそうです。紬の着物は工芸、つまり「用の美」であるのだから、着る方の立場に立ったものを作るためには、まず数多く織ることが大切である。そして、圧倒的な数をこなし染織の技術やデザイン力が完全に自分の中に取り込まれた先には、意のまま、自由自在に作品表現が可能となる「超」えた世界がある、と。「100反」の教えを守り毎日どれくらい織れたかを記録しながら、門下生であった3年間で総絣の着物や帯なども含めて約30反、その後数年かけて100反を達成したそうです。 デザインを考え、糸を括って絣糸を用意し、草木を煮出して糸を染め、機に糸をかけてひたすらに織り、時には反物を仮絵羽状に縫い上げる、その全工程を一人で行います。縞格子、経緯絣、花織、吉野格子などの種々の技法は、どんなに難しいものであってもあくまで作品を表現する課程で必要な一技術に過ぎず、最終的には惹きつけられる魅力的な織物である、それだけが印象に残ることを理想とされているのだそうです。 いつもほがらかで優しく、気さくな雰囲気を漂わせる平山八重子さんは、創作の苦労を伺っても「織りたいものを自由に織っています」と仰います。しかしその「自由」の意味するところは、膨大な時間と情熱を織りに捧げ、言い訳のできない「数」という自己との戦いを重ねた先にある境地なのだと感じました。  2002年の初個展から6回目を数える今催事では、ほとんどの作品がプラチナボーイの糸を使って作られています。プラチナボーイの特徴である光沢感を生かし、草木で染めた糸色の煌めきが幾重にも織り込まれた名古屋帯、角帯、絵羽着物、着尺と個性豊かな作品群が揃いました。 糸の一本一本に平山八重子さんの感性の全てが注がれた、素晴らしい作品をぜひ直接ご覧になりにいらしてください。そして、平山八重子さんの言葉に触れ、個々の作品の物語に耳を傾けていただけたらと思います。

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