「春の白大島~白を極め、よりしなやかに~」ぎゃらりートーク開催レポート

鹿児島県で大島紬を作られている作家、益田勇吉さん。 薩摩焼に使われる白泥で糸を染める“白大島”を得意とされる益田勇吉さんに、 今回は、すべてプラチナボーイの生繭の糸で“春の白大島”と題して新作を制作していただきました。 白色がきれいでしなやかで艶があると評判のプラチナボーイを 白泥で染めることによって、さらに真珠のようなまろやかな美しい輝きをもつ大島紬が出来上がりました。 益田勇吉さんには、プラチナボーイでの製品化が世界で初めて<銀座もとじ>でスタートした3年前から、プラチナボーイのものづくりに 取り組んでいただいています。また益田さんは、30以上の工程を分業でするのが基本の大島紬の世界の中で、 図案から織りまでほぼすべての工程を自らが行っている、ちょっと珍しい貴重な存在です。

大島紬作家 益田勇吉さん

白泥大島紬
益田勇吉さんは奄美大島の左に位置する喜界島生まれ。現在は鹿児島県の本土で制作をされています。 そしてなんと、益田さんは“白大島”の発案者でもあるのです。 白泥染めを生み出したきっかけは、大島紬作りの糧のためにと始めたあることでした。

「21歳からこの道に入りました。若く、精進を重ねていた頃、『着物をするなら、日本画と焼き物をしなさい。』 と言われてね。それで昼は大島紬、夜は日本画と焼き物を勉強する生活が始まりました。」 そんなある日、焼き物の先生から投げかけられた「なぜ大島紬は黒しかないのか」という問い。 焼き物は黒も白も緑もある。同じように“土”を使うものとして、黒だけなのはなぜなのか。 薩摩焼の白土を渡された益田さんは、それから9年の歳月をかけて“白大島”を生み出すことになります。

この白土は鹿児島県入来鉱山のもの。大島紬を染めるにはここから不純物を取り除かなければいけません。 水の中に溶かして時間を置くと、液が三層になります。この一番下に沈殿するのが不純物=鉄分。 上にくるのが水。そして白大島に必要なのはその真ん中の部分=カオリンという粘土質です。 それを繰り返して混じりけのない白を作り出すのです。

カオリン
カオリンは微粒子の粘土鉱物。写真はすでに精製したものを水に溶かした状態。

カオリンとは、長石などが風化してできた天然粘土鉱物。 現在では化粧品や医療品、パルプ業界にも使われているもの。 変色を防ぐ、いわゆる“美白”のための成分です。

白い色を白く染めるとは不思議な気もしますが、絹糸はそのままでは黄ばんでしまうので、白泥で染めるというのは 画期的なことなのです。

白大島の工程の中でこのカオリンが登場するのは織る前の最後の仕上げの時。絣括りをした糸を一晩浸けて、 水洗いをせずに絞り、天日乾燥をさせてから、蒸す。そしてよく洗って水で溶けてしまう余分なものをすべて取り除きます。

“白大島”と一般的な“黒泥の大島”はなにが違うのか? 色はもちろんですが、化学的にも違いがあります。“黒泥の大島”は、泥の中の鉄分が媒染剤となる 車輪梅(しゃりんばい=テーチ木)の液に入れた石灰と結びつくことで布に固着しますが、 “白大島”は、カオリンが石灰成分と同じものを持っているので、そのものが布に固着します。 さらにカオリンは微粒子であることから、布の糸目の奥まで入り込むため、 一本一本の糸がわずかに膨張してふっくらとし、肌さわりはしっとりとしなやかになり、 さらには糸自体が空気を含むため保湿性も生まれるのです。

プラチナボーイの白泥大島紬「ゆたさ」
大島紬の常識を覆す素晴らしい技術。でも、益田さんは自分の作品にあえて「白泥」とは書きません。 「作品の感性、全体のセンス、人が着てみて素敵かどうかが大切だと思っています。 何で染めたとか、技法が難しいとかはそれを表現するためのツールでしかないですからね。」

その代わり、益田さんが貼っているのは「ゆたさ」と書かれたもの。 「ゆたさ」とは故郷・喜界島の言葉で「素晴らしい」の意味なのだそう。 「今は素晴らしければいいわけじゃなくて、その方に似合うかどうかが大切なんだけどね。」 益田さんは長年で作り上げてきた膨大な色データを持っています。 “着る”ということを考えて作ると“色”のわずかな違いが重要になってくる。 “勘”も大切だけれど、自分が想う微妙な色加減を表現するには“正確なさじ加減”が必要になってくる。 わずかな色の違いが顔映りを悪くさせることもあります。「せっかく作るなら人が素敵になるものを作りたいよね。 僕たちは先生ではなく“職人”だから。」

笑顔の奥に潜めた並々ならぬ探究心。「プラチナボーイの糸は毛羽も立たないし、やわらかい。染めもきれい。 白泥にとてもよく合っていて、作っていて嬉くなってきた。貴重な繭だから失敗できない緊張もあったけど、 次はこういうものを作りたいというアイデアはもうあるんですよ。」まだ新しい素材であるプラチナボーイは 益田さんの探究心にさらに火を点けたようです。