帽子デザイナー・清水晶子さん ぎゃらりートーク開催レポート(第一回)

2011年5月1日(日)~22日(日)まで、銀座もとじにて開催した『銀座もとじの浴衣と夏コモノ』展。
5月15日(日)には、帽子デザイナー 清水晶子さんをお迎えして、ぎゃらりートーク開催させていただきました
帽子デザイナー 清水晶子さん ぎゃらりートーク

清水晶子さんとの出会いは2008年冬。1年間は何度も店舗に足を運んでいただき、 きもの姿、銀座もとじのきもの、銀座もとじのお客様に似合う帽子の雰囲気を思案いただきました。 そして2009年の秋冬のソフト帽より、銀座もとじオリジナル帽子を制作いただいております。 今回は、帽子デザイナーになったきっかけやフランスにおける名門・名店での修行時代、 そしてご自身のブランド「SHIMIZUAKIKO」の日本人にあった帽子作りへのこだわりをお伺いしました。

帽子デザイナーになったきっかけ、そしてフランスへ

清水晶子さんの作品
兵庫県西宮出身。「どちらかというと固い家で育った」という清水さん。 幼いころからずっと帽子デザイナーにあこがれていた、というわけではなかったようです。

美大などではなく、総合大学の英語学科を卒業後、出版社へ。 でもすぐに“何か違う”と感じられたそう。“何かものが作りたい”と想い、転職。 フラワーデザインの仕事へ移り、そこで色彩の勉強をされました。 でも“何か違う”。「20代前半はなんだか迷い道でした。 でもずっと心にあったのは“ものづくりがしたい”という想い。 実は母が少しだけ帽子作りをしていたんです。幼い頃、学校から帰るとそんな母をよく見ていました。 でも母と同じものはね。。。

私は元来あまのじゃく。みんなが右行くと左は行きたくなるタイプなので、 できれば違う何かを見つけたかった。でも“帽子作り”には興味はありました。」

“何かものづくりがしたい”その想いは清水さんを大胆な行動へ移らせます。 27歳、突然フランスへ。 「何を作りたいのか、それを見つけるために。思い切ってフランスへ渡りました。 両親には最初は半年行くとうそをついて。それを1年延ばし、結局4年滞在しました。 」なんと清水さん、全くフランス語も話せなかったそう。「行けばどうにかなると思った。 若かったからあんまり深く考えてなかった。」 1か月だけ家を決めて、“自分探し”の生活がスタート。 1年間はヨーロッパの国々を巡りながら、各地の帽子店を訪ねたそうです。
「特にフランスや帽子にこだわっていたわけでなく、国々を巡る中でもし他にフィーリングが 合うものがあれば移ろうと思っていた」という清水さん。 でも旅先で必ず質問していたのは『帽子はどこで学びましたか?』という言葉。 「わからないヨーロッパ言語の中で、これだけは真っ先に覚えました。

そして驚いたのが、みんな同じことを言うんです。職人たちがみんな揃って、『アリスに習ったらいい』って言うんですよ。」 『アリス』とは一体何者か?調べてみると、フランスにある帽子学校の先生であることがわかりました。 しかもそこは、フランスで唯一、外国人を受け入れてくれる帽子学校でした。 「外国人を受け入れてくれるところに、目当ての先生がいた。その事実は本当に幸運でした。」 清水さんはフランスへ戻り、その帽子学校へ入学しました。
清水晶子さん ぎゃらりートークの様子

フランスにおける名門・名店での修行、そしてオペラ座

清水晶子さんの作品
帽子の専門学校 Mod’Art International de Parisに入学。オートクチュール帽のデザインと制作技術を学びます。 その後、帽子アトリエ「マリーメルシェ」にて3年間研修。カジュアル帽子から正装用帽子まで幅広いデザインを手掛けます。 そんな中、大きなチャンスが巡ってきます。さまざまなご縁や偶然が重なり、 パリ国立オペラ座内のアトリエで研修する機会を得たのです。 ほとんどがフランス人、研修は通常2カ月のみという、帽子職人を目指すものにとってはあこがれの場所。 しかしなんと清水さんは日本人として約1年間も研修を受けることができたのです。

工房を取り仕切るのは、オペラ座にて15年間専属でバレエの帽子制作をしていた帽子業界の第一人者コリーヌ。 その元で、清水さんは最高の技術とデザインを学ばれました。 オペラ座での研修中に、清水さんは「フランス職業適性証」(国家資格)を取得。 そして2005年、世界で3大帽子コンクールのひとつと言われる仏ファッション誌「マダム・フィガロ」主催の帽子コンクールにて、 日本人初となる“第2位”を受賞。同年、コンクールオクターフォイユ主催の帽子コンクールでは“第1位”を受賞。 「オペラ座における研修の成果の結晶だった」という清水さん。

2006年には、今度はフランスの老舗帽子アトリエ「ミシェル」にて研修をスタート。 「ミシェル」はあの有名ブランド「シャネル」専属の工房として、他にも「ルイ・ヴィトン」「エルメス」「バレンシアガ」も制作している、 高い技術と世界のモードを率いるファッション性が学べるあこがれの工房。

でも「シャネル」チームは全員フランス人。外国人はなかなか研修できない場所でした。 そんな中、オペラ座で縁をもった職人が縁を繋いでくれ、清水さんは“異例の” 「シャネル」チームでの研修機会を得ることに。 「ここでの研修は大変身になりました。デザインとすべてにおけるスピード感、プライド。そして徹底的な手縫いへのこだわり。 現在私がすべて手縫いにこだわっているのも、この「シャネル」の帽子作りへの想いに共感したことが大きな存在です。」
清水晶子さんの作品

2006年、帰国、自己ブランド「SHIMIZUAKIKO」を立ち上げました。

自己ブランド「SHIMIZUAKIKO」の帽子作り

清水晶子さんの作品
制作はすべて清水さん一人。とことん手縫い。目の届かないところで生産はしない。 素材もフランス時代に出会った信頼できる店へ依頼して、輸入するというものづくり。

そしてフォルム。清水さんが目指す帽子は“美の王道”。 流行性や個性が強いものではなく、本来の帽子の形が一番身につける方の姿を美しく見せてくれるもの。 清水さんの帽子は作家の個性を見せつけるものではなく、スタンダードなスタイルにそっと、 しかし入念に計算し尽くした隠れたこだわりを込めたものです。

銀座もとじでも当初より制作を依頼し、大人気の“中折れ帽子”はまさにその秘密が隠されたもの。 「帽子のつばは、左右非対称で作っています。

帽子は本来少し斜めにかぶるもので、普通は帽子そのものは左右対称に作り、 身につける方ご自身で斜めに角度を付けて被ってもらうのですが、 これがなかなか、格好いい斜めの角度の被り方というのは難しくありますよね。 そこで私は最初から極わずかにだけ、左右でつばの長さや角度を微妙に変えて“左右非対称”に手を加えています。 すると、あえて斜めにかぶらなくても、かぶりこなしているような雰囲気になるんです。」

木型
会場には大切な“木型”を持ってきてくださいました。 帽子作りは、この木型に生地を乗せて、指の腹でなぞりながら少しずつ木型のフォルムに素材を添わせて作り上げていきます。 「木型は宝!これがフォルムの命です。フランス在住のイタリア人夫婦に制作を依頼したもので、 今、世界の上質な木型はすべてこのご夫婦が制作しています。細かい点を始めに伝えるのですが、 絶妙に仕上げてくれるんです。フォルムが全く違います。」

また、頭を入れる円系の輪の部分にもこだわりが。西洋人向けは楕円形なのに対して東洋人向けはまんまるの円形が基本。

清水さんはその中間くらい、楕円形の少し手前くらいの形を採用しています。 「外側の形を見ると、西洋人向けの横長フォルムの方がきれいに見える。でも 日本人の頭形は東洋人なので丸みが強い。そこで楕円系よりも少し丸くして被りやすくして、 でも外から見ると西洋風の横長フォルムになるように仕上げています。」

清水晶子さんの作品
もちろん洋装用の帽子も作られる清水さん。和装用のものは“微妙な色合い”を選んでいるそう。 特に2011年春夏用にご紹介している“ブンタール素材”は“とても微妙ないい色が出る”ので、 おすすめなのだそうです。 「ブンタールは大変目の細かい素材。作るのが大変なので、現在ではほとんど作られていない、 とても貴重な素材です。でも本当に、他にはない深くいい色がでます。帽子の夏素材としてはトップですね。」

フランスの名門・名店でトップクラスの帽子デザイナーから学んだ、確かな技術とセンス、 そして帽子作りへの視点、プライド。清水晶子さんが作り上げる“きものに合う”絶妙なフォルムの帽子をぜひお楽しみください。