憧れの久米島紬「染色編」~島の自然の恵みを布に宿して~

久米島紬の魅力の一つとして挙げられるのが、島の自然から採取した植物等による色彩豊かな染色です。2004年に国の重要無形文化財に指定された要件にも、「天然染料を使用すること」とあります。今回は、久米島紬に受け継がれている染織文化を、染色の技法からまとめてみました。

久米島は湧水が潤沢にあり、その島名に「米」が使われているように稲作が昔から行われ、自給自足ができるほどに豊かな自然に恵まれた島でした。染色に使われる植物なども種類がたくさんあり、色とりどりに織り出され久米島紬を彩っています。

まずは、久米島紬で使われている染料をご紹介します。

久米島紬で主に使われる染料 

※カッコ内は和名

グール(オキナワサルトリイバラ)

泥染めの久米島紬ならではの魅力的な赤茶色の絣足は、この「グール」という染料によるものです。泥染めする際の最初の染めで使われ、泥による鉄媒染によって黒茶褐色に変化します。単色の場合は、最後にみょうばん媒染をすることで黄味がかった褐色になります。
地下茎をチップ状にし釜で煮出して染液を作り、絣糸の場合は完全に乾かした後に熱い染液で染めることで赤茶色のきれいな絣足が生まれます。
松林や山地の日当たりのよい場所で見られるつる性の低木で、根は地中に何個も連なって芋状になっているので集めずらく、根を掘り出すときに、すべて掘り取らず一部を地中に残しておくと5~6年後また採取できるそうです。

ティカチ(オキナワシャリンバイ)

久米島紬らしい泥染めの深い漆黒色を染め出すのに欠かせないもう一つの植物が、この「ティカチ」。 大島紬の泥染めにも用いられます(奄美大島ではシャリンバイと呼ばれます)。
主に泥染めと泥染めの間の染めで使われ、絣糸の場合は完全に乾燥しないうちに染めることで絣足がにじむことなく染め上がります。

海岸からやや内陸部にかけて見られる常緑の亜高木で、樹皮等にタンニンを多く含み茶褐色系の染料が採れます。斧で煎じやすい大きさに切り、釜で煮出して染液を作ります。

ユウナ(オオハマボウ)

都会的な淡いグレー色、品良い銀鼠色を染め出すのに用いられるのが、この「ユウナ」です。国内では、小笠原及び屋久島、種子島以南の海岸に多く見られる常緑の亜高木で、染料を抽出するため一度焼いて木炭化し、豆汁と混ぜて水に溶かして使用します。
琉球王朝時代にも染められていた記録の残る古い歴史を持つ染色材ですが、現在取り組んでいる産地は久米島だけとなっているそうです。

豆汁に糸を20分浸け置きした後、砕いて粉状にしたユウナの炭を布で濾しながら入れ染液を作ります。常温でまんべんなく糸を染めムラが出ないようにし「染め→乾燥」の工程を繰り返し行います。植物を使って染める染料の中では唯一、常温の状態で染色します。

クルサ(ホルトノキ)

青みがかったクールな印象の黒色を染める際に用いられるのが、この「クルサ」です。低地から山地にかけての林内に多く見られる常緑の高木で5m~10mほどの高さになり、樹皮はタンニンを含みます。

また、葉の部分を煮詰めて染液を作り「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返すと玉子色になります。最後に泥による鉄媒染を行うことで玉子色から淡い煤竹色に変化します。

クルボー(ナカハラクロキ)

山地に生える常緑の亜高木。樹皮から染料が採れ、久米島紬ではヤマモモの樹皮と同時に煎じて黄色から黄褐色の染料を採りだします。

久米島紬で黄色を染めるときはほとんどヤマモモとクルボーを使い、 草木染で多用されるフクギはめったに使わないそうです。

ヤマモモの幹の皮とクルボーの幹の皮を2:1の割合で両方同時に煎じて染液を作ります。(割合を変えることで色合いに変化を出します)「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返すと黄色から黄褐色になります。

ヤマムム(ヤマモモ)

本州以南に広く分布する、山地の日当たりの良いところに生える常緑高木。久米島紬では、ナカハラクロキの樹皮と一緒に煎じて独特な渋みのある黄色の染料を採りだします。
染色方法はクルボーと同様です。

シージャー(イタジイ)

低地から山地にかけて広く生育する常緑高木で、樹皮から茶褐色や黒色の染料を採りだすことができます。

幹の皮を煎じて染液を作り、「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返ります。単色の場合は、最後にみょうばん媒染をして赤味がかった黄色に。泥染めの場合は泥染めによる鉄媒染で緑味の黄褐色となります。

ウージ(さとうきび)

久米島の主要農産物「サトウキビ」は、 明るい緑系を染め出す染料でもあります。イネ科の多年草で高さは2m~4mほどにになり、茎に節があるのが特徴。

葉を煎じて染液を作り、「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返すことで、緑が暗くなったような褐色を染め出します。最後に銅媒染を行うと、緑味のある暗褐色から鮮やかな緑色に変化します。

フクヂ(フクギ)

海岸近くの屋敷の防風・防潮林として広く利用されている植物。樹皮から黄色を染め出すことができますが、 久米島紬では、さらに藍を染め重ねて緑色を染める際に用いることが多いそうです。

幹の皮を煎じて染料を作り、「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返し、最後にみょうばん媒染を行うことで黄色に染まります。

サンニン(ゲットウ)

日当たりの良い原野に多く見られる多年生草本で、茎は束になって直立し2m~3mほどの高さに成長します。茎葉を利用し淡褐色の染料が採りだせます。

根から茎の部分を輪切りにして煮出し染液を作り、「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返し、最後にみょうばん媒染を行うことでピンクがかった褐色になります。

ソテツ(ソテツ)

九州の南端、南西諸島に分布。海岸近くの岩場に生育し、葉を煎じて淡い白茶系の染料が採りだせます。

葉を煎じて染料を作り「染め→脱水→日向干し」を1日6回ほど繰り返し、最後にみょうばん媒染を行うとアイボリー系の色になります。

大地染め

久米島は鉱物の宝庫でもあり、染料として用いられる代表的なものとしては、赤土やクチャがあります。赤土が採れるのは久米島では1カ所で、首里城の城壁にも使われているそうです。クチャは古代の海泥が地盤の隆起で地表に現れたもので、非常に粒子が細かく化粧品にも使われています。
大地染めは、土の塊を1週間水につけ不純物を浮かせて取った後、攪拌して濾して使います。常温で染めて最後にみょうばん媒染します。

久米島紬の泥染め

日本で泥染めを行う産地は3つあります。久米島のほかには、奄美大島(本場大島紬)と八丈島(黄八丈)です。同じ泥染めでも産地によってその方法は違ってきます。
例えば分業制の大島紬では、締機で織った絣筵(かすりむしろ)を染めの職人が直接泥田に入って揉みこんで染めていきます。それに対して一人で全行程を行う久米島紬では、織り手が各自泥を持ち帰って染めます。
昔は、泥や染料集めは男性の仕事でした。今は、地元の漁師・宮平秀雄さんが、泥田から泥をすくってレジャーボートに溜めておき、その泥を10キロほどに袋に分け織り手が安全に持ち帰れるようにしてくださっているそうです。

阿嘉にあるウザ池
織り手一人ひとり専用の泥保管バケツ

織り手は持ち帰った泥を保管し、染めるときは桶に泥を出して、糸の束をその中に浸けて振りながら染めていきます。

久米島紬の泥染めの工程

久米島紬の泥染めには2つの方法があります。一つは茶色が感じられる赤味の黒を出す、グール+ティカチ+泥染めです。もう一つが紫を感じる青味の黒に染まる、ホルトノキ+泥染めです。染める回数の目安としては、前者がグール50回+ティカチ50回+泥染め、後者がホルトノキ30回+泥染め3回を行うことで、深みのある黒を出すことができます。

グールの根
ティカチをチップ状にしたもの
クルサで染めた綛

久米島紬の泥染めは11月から12月が最適なシーズンです。湿度が低いため乾燥が速く、日差しが和らぐため色の堅牢度も高くなるのだそうです。この時期に1年分の糸をまとめて染めます。

1.まずグールで染めます

1日5回染めるのを、10日間繰り返します。発色をよくするため蒸すこともあります。この時点では赤茶色です。

2.次にティカチで染めます

写真の糸束を染めた時は、1日7回染めるのを14日間繰り返しました。この時点で焦げ茶色になります。

3.最後に泥染めを行います

糸を泥に浸しまんべんなく染み渡らせた後、きれいな場所に糸を干します。その際に丁寧置くのではなく、パッと放り投げておくほうがムラなく泥が行きわたるそうです。
約1時間後、糸の上下の位置を変えてさらに1時間干し、水洗いして泥を落とします。

深い黒褐色、目指す色の濃さになるまで、ティカチ染めと泥媒染を繰り返します。

久米島紬は、泥染め、草木染め、大地染め、と染色方法だけでも多岐に渡ります。久米島紬の証紙には、織り手の名前と使われた染料の名称が記載され、一つ一つの反物に久米島の自然がたくさん詰まっているのがわかります。ぜひ、反物をご覧いただく際にはその一つ一つを見比べて、久米島の美しい自然に思いを馳せていただけたらと思います。