※こちらは2011年に公開した記事です。
自分に似合う、顔色を際立たせてくれる色をご存知ですか? ふわりと羽織ると顔映りが良く、体になじみ、優しい気持ちになる紬。 山岸幸一さんの作る着物や帯は、その人本来のもつ力や美しさを内側から引き出してくれる、不思議な力があります。山岸さんは、山形・米沢の赤崩に工房を構える草木染織作家です。自ら蚕や染料となる植物を育て、真綿から糸を紡ぎ、紅花をはじめ50種類もの草木で色を染め、手機にかける。 自然豊かな山間の工房での創作活動ですが、ほとんどを一人で手がけているため、一日中休む暇も無く作業している様子に驚かされます。「自然に甘えて流されてしまってはだめだ。自然のリズムに自分の感覚を合わせながら、世の中の動きを見据え、対比するからこそ、ものづくりができる」と言います。
生繭から真綿を掛け、一日も休むことなく紡がれる糸。糸巻き機を使い、ふわりと押さえるように紡ぐことで光り輝く繊細な糸が生まれます。その糸をさまざまな植物で染め、数年寝かせた後、機に掛け、織っていきます。「空気が入っている糸だから、こうして筬(おさ)でしっかり打ち込んでも、反物になったときに軽く、着物や帯にしたときに、人の体に沿うような自在さがある」という言葉通り、真綿の風合いをそのまま生かした糸の輝きは、淡い光の中でも際立つ存在感となります。
反物が着物になって、まとった人との『気』が合い、本当にその人らしく、内側から美しく輝いた時、山岸さんの作品は完成します。 このたびは、『寒染(かんぞめ)』と名づけられた紅花染め、日本で初めて黄繭(おうけん)の色素で染められた紬糸を使った『春来夢(しゅんらいむ)』の着尺や帯の他、強撚糸を使って織られる単衣向きの『うすはた』を、初めてご紹介いたします。