第2回:檀ふみ さん (女優)
檀ふみさんとは8年ほど前、雑誌の掲載の着物を当店でお選びいただいたことがご縁でお付き合い頂けることになりました。昨年、私の著書『男の着物人生、始めませんか』の出版記念パーティのときには、お忙しい中、花束を持って駆けつけて下さり、パーティが終わるまでお付き合いくださいました。
泉二:
その節はお忙しい中ありがとうございました。憧れの檀さんから花束を頂戴し、また最後までお付き合い頂いて本当に嬉しかったです。感謝致しております。檀:
いえいえ、そんなことありません。こちらこそ色々とお世話になりまして。毎年東映のカレンダーの撮影時には協力頂いて、いつも私好みの着物をズバリ選んでくださるので感謝しています。私も泉二さんとのお付き合いが始まったのがきっかけで徐々に着物の世界の楽しさを学んでまいりました。泉二:
檀さんとは、2年前に私の故郷の奄美大島へご一緒させて頂いて、大島紬を着て頂きまして。大変嬉しかったです。檀さんが『龍郷柄』を綺麗に着こなしてくださったお蔭で改めて『龍郷柄』の良さが見直されて産地が活気づいたんですよ。檀:
えー! そうなんですか! ? それは嬉しいですね。実は、私、『檀流きものみち』と言う本を出しているのですが、雑誌に連載していたものをまとめようとしたとき、大島紬の原稿が無い事に気が付いたんです。着物の事を本にするのに西の横綱と言われる大島紬のページがないのは片手落ちだなと思って、急遽、奄美大島へ取材に行くことにしました。でもね、実は現地に行くまでは、大島紬の柄はちょっと古臭いかな、なんて自分で勝手に思い込んでいた所があったんですよ。泉二:
そうなんですか! いやあ~、いつも綺麗にお着物を着こなしていらっしゃるから大島紬はもう何度もお召しかと思いました。檀:
それがあんまり。一枚だけ持っているのもニセ大島ですし・・・。でもその時何枚か袖を通してみて、大島紬はスーツ感覚で着られると実感しました。軽いし、着崩れし難いし、皺にもなり難い、とっても着心地のいい着物だったんですよね。あれ以来大島紬とはなんだかご縁ができたみたい。 実は大きな思い出が二つあるんです。ひとつは母の思い出ですね。『きものみち』にも書きましたが、母が父から貰った大きなプレゼントが大島紬だったんですよ。浮気のお詫びを兼ねてかな・・なんて私は本に書きましたけど。母にとってはとっても大切な着物なんですね。母は私よりずっと着物が似合うんです。だから「もっと着たら? 」って勧めるんですけどなかなか着ませんね。似合うのに勿体無いと思うんですが。 そしてもうひとつの思い出が叔母なんです。私の本が出来上がった頃は、既に癌で余命いくばくかという状況だったんですね。でも私が送った本を病床で大事に読んでくれていて。その叔母が叔父(叔母の夫)にプレゼントとしてもらったのも大島紬だったんです。手の込んだ柄ゆきで今だとちょっと柄が多すぎるかなって思うんですが、叔母にとってはもったいないくらい大切なものだったんです。私たちの感覚だと「着物は着て活用しないと。身につければいいじゃない」って思うんですが、昔の人はそれが出来なかったんでしょうね。叔母もその一人で、似よりの柄の手軽な大島紬を自分で買って仕立ててそればかり着ていて、結局、叔父がプレゼントした大島紬は一回も袖を通さずに亡くなっちゃったんです。叔父は90歳、叔母は86歳だったんですけど、叔母は、夫である叔父に「お父さん、愛してます」と言って息を引き取ったんですって。ちょっと素敵な話でしょう。でね、叔父が号泣しましてね。「ふみちゃんに形見でこの大島紬を貰って欲しい」って。その言葉に甘えて頂いたんですけど。私には小さすぎるし、今だとちょっと柄に抵抗感があるんですよ。でも叔母の思い出の品なのでなんとか上手に着てみたいと思っています。泉二:
いいお話ですね。思い出が込められている、それが着物の素晴らしいところですね。是非その大島紬を私どもの悉皆にお持ち下さい。檀さんの寸法に合わせて仕立て直すことも承りますし、出来る限り今のファッション感覚に合う工夫を施してみたいと思います。檀:
え! ! そんな事もしていただけるの?泉二:
はい。大島紬なら私の得意分野ですから色々と試みて見ますよ。私が悉皆店を作ったのは、そういう思い出の着物をいつまでも大切に使って欲しいという願いからですから大いに活用して頂きたいですね。檀:
ありがとうございます。そうですね、洋服以上に着物には思いが込められているんですね。 それにしても泉二さんはいつも先の先を見越してお店の展開をなさっていますよね。悉皆店も顧客ニーズに大いに応えていると思うし。なんと言っても売り場と分けてアフターケアだけのお店を作ったのが消費者の立場としては嬉しいです。泉二:
私は奄美大島から1人で出てきてここまでやってきた人間なので、いつも「お客様が何を求めているのか」っていう事に敏感になっていないとやって来れなかったんですよ。檀:
それそれ! ! びっくりしたのが、去年の12月に泉二さんのお店の和織に立ち寄ったとき、たまたま2日後が母の誕生日だったので「間に合うかな、母へのプレゼントを買わなくちゃ」と言ってお別れしたんですよね。そうしたら泉二さんはその一言を聞き逃さない。母の誕生日に大きな花束とバースディーカードが届いて、母が大変感激していました。本当にその節はありがとうございました。泉二:
いえいえ、とんでもない。私は奄美大島にご一緒したときに檀さんがお忙しい時間を割いて私の実家に立ち寄って母と一緒に写真を撮ってくださいましたよね。母が大感激しましてね。「やっとお前も一人前になったのか。大女優さんとお仕事が出来るようになったのか。」と泣いて電話してきたんですよ。この事は私にとって唯一の親孝行だったんですね。だからいつか檀さんにお返しがしたいとずーっと思っていたんです。檀:
そんな、お返しなんて。泉二さんはやっぱり感覚が鋭いというか敏感ですよね。お客様の会話から、いつも相手の気持ちを推し量っているのが凄いと思うんです。それがこの不景気と言われる時代に、着物業界に新風を吹き込みながら前進し続けている源なんでしょうね。泉二:
いやいや、お恥ずかしい限りです。檀:
また新しいお店を展開されるんですよね。「男のきもの」店が手狭になっと伺いましたが。泉二:
お蔭様で、マスコミの方々に応援していただいて、お客様に徐々に支持していただけるようになりました。もっともっと男の人に着物を着て欲しいと思っているんですよ。檀:
分かります! 男性の着物姿って本当にカッコいいですよ。私も好きですね。泉二さんのお店では、若い販売員の方が、綺麗にカッコよく着物を着ているので、それを見るだけでもいいなって思いますよ。泉二:
ありがとうございます。檀:
新しいお店には、『ぎゃらりー泉』をつくられるそうですね。作り手にスポットを当てて応援したり、和文化の発信基地にするとか。そういえば昨年の12月には大島紬の展示会でお客様に「着てみたい大島紬」に投票して頂いて、その作り手さん達を表彰したんですって?泉二:
はい、まずは故郷の奄美大島からと思っています。作り手を大事にしなければどんな良いものでもいつかは無くなってしまうかもしれません。また作り手も顧客ニーズが分からなければ良いものが作れない。双方のパイプの役目を果たすのが小売店だと思うんですよ。それを少しずつ実現しています。檀:
思ったら即実行。だから泉二さんのお店はいつも新鮮でいられるんですね。泉二:
いやいや、お恥ずかしいです。檀:
これからのファッションは自分で選択していく時代だと思います。その一つの選択肢として着物がある。もっともっと着物を着る人が増えて欲しいですね。奇をてらって着崩すのではなく、きちんとスーツ感覚で着られる着物が増えれば、着物を着たいという人も増えるんじゃないかしら。そういう意味では泉二さんの路線は素晴らしいと思います。泉二:
ありがとうございます。今、檀さんにお褒め頂いた事を忘れずにこれからも頑張って行きたいと思います。新店舗のコンセプトは『新しい着物屋さん』なんですよ! また、お時間がございましたら、是非お立ち寄りくださいね。檀:
こちらこそ、ありがとうございました。新しい店舗がオープンしたら、是非伺わせて頂きます。『新しい着物屋さん』楽しみです。泉二:
今日はお忙しい中、ありがとうございました。