2015年6月4日から開催予定の「縞が奏でる音色 築城則子の小倉織」展。多彩で深淵な世界が込められた、築城則子さんの小倉織(こくらおり)。幻想的な物語を響かせてくれる、築城則子さんの「縞」の世界の秘密を探り、作品の魅力を紐解きます。
築城則子さんの作品には、縞のリズムや配色から響いてくる音色がある。作品に、色から来るイメージが「音色」として宿るように、音楽の持つ、リズムやハーモニーもすべて縞に託していく、という。築城さんの作品には、「暁韻(ぎょういん)」「朧影(おぼろかげ)」「月の舟」「果韻(かいん)」「水映(みずばえ)」などの詩的な響きの美しいタイトルが多いが、「言葉」も同じ用に言葉の持つイメージがあり、ひとつの作品の中で、言葉が「音色」と一体化してくるそうだ。
また築城さんは、仕事の際には、いつも音楽を聞いているそうだ。例えば、機に向かう時には、オペラのアリア、特にマリア・カラスやサザーランド※等女性のアリア。経糸が多いものを織るには、緯糸の打ち込みにかなり力が必要で、ドンドンとすごい機音が響くが、その音とともに気分も高揚するようなオペラを聞きながら、機を織り進める。
また、デザインのイメージを固める頃には、モーツァルトやヘンデルの弦楽器やピアノ曲。静かに流れている感じで、強く主張しないものを聴くことが多いのだそう。ひとつの作品の中に築城さん自身の五感を通じて、感性が研ぎ澄まされ、豊かに満ちたものが、込められ託され、形になっていく。
「どういう縞がしたいのか。それは、色であり、形なのですが、わたし自身というフィルターを通したものが、わたし自身の手を通して表れてきて、それは自分の中でつきつめていかないと形にはならない。」
ものづくりにおいて、幸いにして、迷うということはない、と言い切る築城さん。形にしたいこと、やりたいことは沢山あって、それらがぷかぷかと浮いていて、それを一つずつ掴みとって形にしていくが、なかなか時間が追いついていかない、と語る。そんな築城さんのあふれんばかりの表現欲とエネルギッシュなものづくりの精神についてご自身は、「わたしはなんとも欲深い」と笑う。
しかし、作品づくりにおいて、最後に完成に向かうときは、その欲をできる限り抑制し、そぎ落としていくそうだ。
そして今、築城さんの中に泉のようにあふれてやまない縞へのインスピレーションが、またひとつ掴み取られて、築城さんの向かう機の上で、あらたな音色を響かせている。
6月4日から、銀座もとじで始まる築城則子さんの初個展。ぜひ、小倉織の縞が奏でる、心に響く音色を聴きにいらしていただけたらと願っております。
※マリア・カラス……ギリシャ系アメリカ人のオペラ歌手(1923年-1977年)。ニューヨーク生まれ。1938年アテネ王立歌劇場で『カヴァレリア・ルスティカーナ』(マスカーニ作曲)のサントゥッツァを歌ってデビュー後、数々のセンセーショナルな成功を収め、20世紀最高のソプラノ歌手とも称された。
※ジョーン・サザーランド……オーストラリア・シドニー郊外出身のソプラノ歌手(1926年-2010年)。1947年にオーストラリアでデビュー。後に英国に渡り、1952年、ロイヤルオペラハウスに出演した。