ご注文・お問い合わせはこちら(11:00〜19:00) 03-5524-3222
銀座もとじ
EN

読みもの

  • 「北から南 日本の自然布展」シンポジウムを開催しました

「北から南 日本の自然布展」シンポジウムを開催しました

2015年6月20日(土)〜26日(金)、銀座もとじにて『北から南 日本の自然布展』を開催。初日となる6月20日(土)には産地の方々が一堂に会し、自然布の現状と未来を考えるシンポジウムが行われました。

産地の方々

しな布・・・・関川しな織協同組合 五十嵐正さん(山形県)、さんぽく生業の里企業組合 國井千寿子さん(新潟県) 大麻布・・・・大麻博物館 高安淳一さん(栃木県) 手紡木綿布・・・・十絲の会 大熊眞智子さん(茨城県)、小峰和子さん(埼玉県)、永井泉さん(長野県) 葛布・・・・川出幸吉商店 川出英通さん(静岡県)、大井川葛布 村井龍彦さん(静岡県) 芭蕉布・・・・喜如嘉芭蕉布事業協同組合 平良美恵子さん(沖縄県) 宮古上布・・・・宮古織物事業協同組合 池村初美さん、下里まさみさん(ともに沖縄県) ※他にアットゥシ織(北海道)と丹後の藤布(京都府)が出展しています。 植物からつくられる自然布。豊かな自然に恵まれた日本は世界でも稀に見る自然布大国であり、木綿、麻、葛布、しな布、大麻布、藤布、アットゥシといった個性あふれる魅力的な布々が織られています。今回の展示会では日本で作られるほぼ全種類の自然布が集まりました。 シンポジウムでは文字通り“北から南”の順にお座りいただき、原料となる植物や布の特性、未来へ向けた取り組みなどについてお話しいただきました。
司会進行は、古代織産地連絡会の事務局長をつとめる大井川葛布の村井龍彦さん。20年前に山形県の関川で「古代織サミット」を開催以来、日本各地の産地と連携し、自然布を後世に残すための活動を続けていらっしゃいます。
アットゥシ織の八寸帯 ざっくりとした素材感が魅力
アットゥシ織の八寸帯
ざっくりとした素材感が魅力

葛布 村井龍彦さん

「古代織サミットから20年の節目に、銀座でこのような機会を持つことができ大変うれしく思います。世界的に見ても、植物繊維の布の種類がこれほど多い国はありません。日本列島に多種類の自然布が存在すること自体、なんらかの使命があるのではないかと考え活動しています」 6月は、ほとんどの産地が収穫期を迎え多忙な時期。その作業の手を止め、遠くは沖縄・宮古島から銀座へかけつけてくださいました。自然布が今後も存続していくために、より多くの方に知っていただくことの必要性を集まったみなさんが感じていらっしゃいます。

収穫時期と収穫できるまでの生育期間

北からということで、産地紹介のトップバッターは羽越地方の「しな布」。20年前の古代織サミット開催地でもある山形県鶴岡市関川の五十嵐正さん、新潟県の國井千寿子さんからお話しいただきました。

しな布 五十嵐正さん

「収穫は6月。おととい、しなの木から皮を剥ぐ作業をしたところです。しな布に使うのは樹齢15年から20年の木で、直径15〜20cmくらいの木の繊維が柔らかく丈夫で質が良いとされています。これからの季節は可愛い花が咲いて、とてもいい香りがするんですよ」

しな布 國井千寿子さん

「木から繊維が採れるようになるまで15年以上かかりますから、枯渇しないように、昔は一年のうちで木を伐るのは2日間だけと決まっていました。田植えが終わった頃に日を決めて6月くらいに収穫する、農閑期の仕事だったんです」 また「アットゥシ織」の原料となるオヒョウの木も繊維が採れるまでに30年以上かかり、「いま自分が植えた木は自分が布にすることはないかもしれない」と産地の方は話されるそうです。
しな布の八寸帯 天然の色で格子を織り出した作品
しな布の八寸帯
天然の色で格子を織り出した作品
芭蕉布の八寸帯 糸の艶と軽やかさが魅力
芭蕉布の八寸帯
糸の艶と軽やかさが魅力

芭蕉布 平良美恵子さん

「芭蕉は植えてから3年目の秋から冬にかけて収穫します。1年目のものと2年目のものが混在しているので、稲のように一斉に刈るわけにいきません。一本一本見分けられるようになるには、10年の経験が必要ですね。花が咲くと“薹(とう)が立つ”と言いまして繊維の質が落ちるので、その前に採るのが理想的です」 年に一度の収穫期があるのが、葛、大麻、綿。

葛布 川出英通さん

「4月に芽が出て、6月から8月にかけて収穫します。指の太さで長さ3〜5mくらいのものが光沢があって丈夫です」

大麻布 高安淳一さん

「栃木では7月中旬から8月半ばまで。福島は8月後半から9月に収穫します」

手紡木綿布 小峰和子さん

「木綿は樹皮や茎ではなく実なので、収穫は秋から初冬にかけて。産地にもよりますが、10月から遅ければ正月すぎまで収穫期が続くこともあります」 一方、生育が早く、年に数回収穫できるのが「宮古上布」の原料となる苧麻(ちょま)です。

宮古上布 池村初美さん

「40日周期で育つので年に4〜5回、台風がなければ6〜7回。実は、私の畑は今刈り取りの時期で、一年で一番ツヤのあるいい繊維が採れる時なんです。東京に来たのでそれは逃してしまいますが、みなさんとお会いできたことが私の大きな力になります。帰ったらまたがんばります」 また京都・丹後の藤の木は年に一度、梅雨の雨で樹皮が水分を含んでいる今が採取の最盛期とのことです。
宮古上布の着尺 トンボの羽を思わせる薄さ
宮古上布の着尺
トンボの羽を思わせる薄さ

温暖化、イノシシ、カタツムリ。環境変化と天敵について

x天然の植物繊維の持つありのままの美しさを引き出すために、ほとんどの産地が化学肥料を使用せず、厳しい自然と向き合いながら栽培しています。

芭蕉布 平良美恵子さん

「温暖化のせいか、薹が立ちやすいですね。成長が早いと繊維が粗くなりますし、畑を頻繁に見回らないといけない。天敵はイノシシ。遭遇することも年に数度あります。肥料は今も試行錯誤中で、毎年いろいろと試しています。昔の農務帳には“人糞”が一番いいと書いてあるんですが、それは難しいですから」

宮古上布 池村初美さん

「苧麻は、カタツムリが小さな新芽を食べてしまいます。あとは台風、風がこわいですね。雨の量と日照時間で成長度合いが変わるので、雨が少なければスプリンクラー、肥料には山羊の糞。化学肥料は繊維がバサバサになるので使いません」

大麻布 高安淳一さん

「大麻の敵は、乾燥と鳥害。最近は雨が少なく発育が悪い気がします。栄養が少ないと弱く育ち、逆に与えすぎても繊維がボソボソになり糸が採れないんです」

木綿布 大熊眞智子さん

「洋綿は化学肥料を使うようですが、和綿は肥料も農薬も使わずに育てます。動物に食べられたらまた種を蒔く、の繰り返しです」

葛布 村井龍彦さん

「葛はたくましい植物で、厳しい環境下でもよく繁殖します。葛布を作るときに川の水で洗うのですが、水質が落ちてきたので、きれいな水を求めてどんどん上流に移動しています。水道水は光沢がなくなるのでダメですね」
藤布の角帯 平織りながら表情豊か
藤布の角帯
平織りながら表情豊か

糸を作れる人がいない!後継者の育成が課題

すべて手作業によって作られている自然布。最大の課題は、やはり後継者の育成だそうです。糸績みをしている方が70代を超えた今も現役で働き、若い担い手がいないため技術が伝承していかないとのこと。

大麻布 高安淳一さん

「今は糸を作れる人が全国で10人もいません。先日、海外の方を含む121人の有志が績んだ糸で一本の帯を作りました。これからの糸作りのあり方のひとつではないかと思っています」

芭蕉布 平良美恵子さん

「“結まわり(ゆいまーる)”といって、昔はそうやって糸作りをしていたんです。貧しかった時代、祝事や弔事があると地域の人が集まり糸を績んで一枚の布を織り、金銭ではなく人力を差し上げることで思いを伝えていました」

日本が誇る自然布で、装いを豊かに、美しく

最後に、それぞれの布の魅力をアピールしていただきました。

しな布 五十嵐正さん

「木を伐る時のチェーンソー以外はすべて手作業。身につけていただいたときに美しいように、心を込めて作っています」

しな布 國井千寿子さん

「八寸帯を見てください。縁の部分がきれいになるようこだわって作っています」

木綿布 小峰和子さん

「木綿は繊維が短く糸紡ぎが難しいのですが、その分1本の繊維の中に空気をはらんでいるので吸湿・保温性に優れています」

芭蕉布 平良美恵子さん

「軽くて涼しい。江戸時代には武士の袴から、身分を問わず愛用されていました。着ていくと柔らかく風合いが変化していくのも魅力です」

宮古上布 池村初美さん

「糸績み、意匠、藍染め、絣括り、織りなど、それぞれの作業を分業で行っています。ひとつの技術を極めるだけでもたくさんの時間を要するので。一枚の中にその技術が詰まっています」

葛布 村井龍彦さん

「美しい光沢とハリ感があり、葛袴などかつては宮中で着用されていました。軽くて通気性がよく、帯にしたときに疲れません」 土、水、太陽、人の力から作られる自然布。布に込められたパワーと優しさを生活に取り入れていただきたいと、産地の方々は願っています。
葛布の帯 糸が艶やか。染めは紫鉱にて
葛布の帯
糸が艶やか。染めは紫鉱にて
手紡木綿布の着尺 ふっくらとした優しい風合い
手紡木綿布の着尺
ふっくらとした優しい風合い

科布の紹介ページはこちら

丹波布の紹介ページはこちら

芭蕉布の紹介ページはこちら

芭蕉布の紹介ページはこちら

商品を探す Search
Products