「この人の養蚕はピカイチなんですよ!」生天目さんが太鼓判を押す石川さんは、 なんと農水祭天皇杯(農林水産祭の最高の栄誉)を受賞したこともある超エリート養蚕農家なのです。
石川さんの養蚕農家のすぐ横には、JAの稚蚕飼育所があります。ここでこの管轄地域の全稚蚕を飼育しているのですが、その数なんと360万頭!プラチナボーイの稚蚕も孵化するとまずここで 1〜2令まで育てられます。この稚蚕の飼育をしているのが生天目さんです。 温度29〜30度、湿度85〜90%が保たれた無菌室。
「キザミ」といわれる桑を刻んだものを食べて、4令になるまでに、体重は孵化したときと比べると なんと1万倍にまで増えているのだそう。 ここに9日間ほどいて、2回脱皮(3眠、4眠)すると、やっといわゆる“蚕”らしい白い幼虫になります。
5令となった蚕はいよいよ糸を吐く場所へ。 蚕座(さんざ)という、25m×2mほどの箱の中に、およそ3万頭の蚕が入り、糸吐きに備えて桑の葉をもりもり食べます。 桑は1日1回ですが、一番多い時には4回あたえないとなくなってしまうくらい、すごい勢いで食べるそうです。
蔟の中心にポールが通してあって、上にたまって重くなると くるりと回転する仕組みになっています。 落ち着く時期はみな少しずつ違うので、くるくる回ることで、みな自分は上にいるのだと感じながら住処を 決めるようになるのです。
この回転蔟がある上蔟室(じょうぞくしつ)の適温は23〜24度、室温は60〜70%に保つのが良いとされています。 温度が16〜18度になってしまうと、蚕は糸を吐くのを一時的にでも止めてしまい、それから温度を上げれば また糸を吐き始めるので繭にはなるのですが、その後の糸取りの時に糸が切れてしまったりするとのこと。
石川さんの養蚕農家は本当に広い。一面に広がる桑畑だけでも3〜4町歩(3万〜4万平方メートル)。 この規模を奥様とたった二人でまかなっています。
このゆったりとした敷地内だからこそ、良い環境を作り出すことができ、 風も通る、清潔な飼育所ができるのです。
5令の時、蚕座が置いてある場所は乾燥が大事。地面に 石灰を敷いて乾燥と蚕の病気予防をしているのですが、石灰を使ってまでするのは石川さんだけだそう。 また上蔟室はさらに一番大切な工程。
どの農家のものがどの作り手に渡り、どのような作品となったかまで、すべて履歴を残し、 すべての人の名前がわかります。 はじめて、石川さんは自分の手がかかわったきものを見ることができるのです。
「必ず持ってきますからね。」泉二は約束しました。 石川さんも生天目さんも泉二も、そして作り手たちの想いをお客様に伝える私たちスタッフも、 さらに実際お召しになるお客様まで、ひとつのバトンでつながっています。 でも、第一走者は蚕たち。あの小さな体から美しい糸を作り出してくれる。 そのバトンをしっかりとつなげていきたい。