11月22日(金)より24日(日)まで江戸小紋師・菊池宏美さんの3年ぶり2回目となる個展が開催されます。
師である故・藍田正雄さんのもとで10余年学ばれ、背中を押され独立されたのが2011年2月。翌月、東日本大震災が発生。
その数日後、震災後の混乱の中で、菊池宏美さんが独立後初めて染めた反物を弊店でお求めくださったお客様がいました。
「菊池さん、反物のご縁をいただきましたよ!」
一秒でも早くと一報を伝えると、菊池宏美さんは電話の向こうで声を詰まらせて泣いていらっしゃいました。
一反を求めてくださったお客様の存在が、希望の光となり道を照らしてくれたあの日から8年。菊地宏美さんは、偉大な師・藍田正雄さんの「平成の江戸小紋をつくれ」という言葉を胸に、師から受け継いだ心技を全うしながら、新しい表現世界を切り開かれています。
催事前の最後の追い込みをされているお忙しい中、群馬県伊勢崎市にある工房「よし菊」を見学させていただきました。
23(土)のぎゃらりートークでは、伊勢型紙や型置き(糊置き)見本など貴重な資料をご覧いただく予定です。ぜひお楽しみに!
菊池宏美さんの創作性を通して蘇る伊勢型紙
「これ、すごく可愛いでしょう?」と嬉しそうに見せてくださったのは、モチーフ化された葉模様が一面に彫り出された伊勢型紙。写真下は、菊池さんが伊勢で一番最初に手にされた「中形」の型紙で、それを少し小さめに新たに彫り起こしたのが写真上の型紙とのこと。面白い型紙、インスピレーションを刺激される型紙を求めて、菊池さんはたびたび伊勢を訪問されるそうです。古い型紙をそのまま用いることもありますが、着想したデザインに合わせて型紙制作を依頼することも多いそう。伊勢型紙の職人さんたちとの長年の信頼関係が、創作活動の基盤となっています。
菊池さんならではの独創的な帯作品は、精緻な「小紋」の型と、少し大きめの「中形」の型との組み合わせにより生まれます。まるで古の名曲にアレンジを加えリミックスさせるかのように、伊勢型紙の魅力を今の時代に蘇らせ、新しい型染めの世界を築かれていらっしゃいます。
額裏作りは新しい挑戦の連続
今回の催事で特に注目していただきたいのが男性の「額裏」です。定型の反物巾ではない大きな生地に、まっさらなキャンバスに自由に描くように、菊池宏美さんの想像力をいかんなく発揮して創作いただきました。
額裏用に伊勢型紙を新規で彫り起こす必要もありますし、帯や着尺の時とは作業の勝手が全く変わってきます。「長板」と呼ばれるモミの一枚板の上で「型置き(防染の糊置き)」「染め(染色の糊置き)」の作業を行う時も、額裏地は長板の幅に納まらないため、板の上で何度も生地をずらしながら行い、無地場を染めるにあたっては生地を張り出す道具を新たに調達されたそうです。
全5柄、完成した額裏はどれも洒脱で粋で格好よく、菊池宏美さんが新しい作品への挑戦を心から楽しまれていたのだと伝わってくる会心の作品に仕上がっています。
最も時間がかかるのは染めた後の「地直し」
例えば万筋やお召十、角通しといった定番の江戸小紋柄も、菊池宏美さんが染めたものは「何かが違う」と思っていました。透明感、やわらかな空気感、奥行き、たおやかさ・・・。その秘密は「地直し」にあるようです。
江戸小紋は、反物の上に型を載せて防染糊を置き、乾燥したらその上から染料を含んだ糊を重ねて染め、色を定着させるために蒸し、染め上がります。ここまでの工程でももちろん職人の高い技術を要しますが、仕上がりの完成度を高めるにはその後の「地直し」が肝要とのことです。
染め上がった13メートルの反物と向き合い、薄化粧を施すように染料の水分を極力絞った刷毛で優しく表面を撫でていきます。 そうすることで、染め色の雑音が消え「静けさ」が生まれ、品格を漂わせる表情が作られていきます。コツコツと地道な作業は、納得するまで10日間以上続けることもあるそうです。微細な柄が規則的に繰り返されているだけのはずなのに、なぜ菊池宏美さんの江戸小紋はこうも人の心を打つのか、その理由が少しわかったように思いました。
お着物をお好きな方なら一度はどこかで「江戸小紋」を手に取られたことがあると思いますが、菊池宏美さんの江戸小紋はひと味違います。ぜひ直接、作品をご覧いただけたらと願っています。
先行入荷の中にはすでに売約となっているものもございますが、会期中はできるだけ多くの作品を展示させていただく予定ですので、ぜひ足をお運びいただけましたら幸いです。
◆菊池宏美さんは22日(金)〜24日(日)の間ご在廊くださいますので、別誂えのご相談もお気軽にどうぞ。
◆菊池宏美さんの作品に合わせて、伊藤裕子さんの帯締めや、小川郁子さんの江戸切子の帯留も特別にご用意しました。小物合わせもぜひお楽しみください。
【11月催事】江戸小紋師 菊池宏美展 ~繋がる思い、心、纏う人~
会 期 : 2019年11月22日(金)〜24日(日)
場 所 : 銀座もとじ 和染 、男のきもの
独立後、5年経た3年前の初個展で作家は、「藍田正雄先生には江戸小紋師として生きていくための心構えを教えていただいた」そう語られた。
今回はプラチナボーイの着尺、九寸帯、額裏に加え、結城紬、牛首紬にも挑んでいただいた。
師から受け継いだ精神、決死の覚悟が作品の底から響いてくる。静けさの中に品格を兼ね備えた「今」という時代に求められる江戸小紋。ぜひご覧ください。
ぎゃらりートーク
菊池宏美氏と文化学園大学の吉村紅花先生をお迎えし、お話を伺います。
日 程 : 11月23日(土)【開催終了】
時 間 : 10:00〜11:00
場 所 : 銀座もとじ 和染
会 費 : 無料
定 員 : 40名様(要予約・先着順)
お申し込み : 03-3535-3888
作家による作品解説
日 程 :11月23日(土)、24日(日)【開催終了】
時 間 :15:00〜(各15分間)
場 所 :銀座もとじ 和染
お申し込み : 03-3535-3888
作家在廊
11月22日(金) 13:00〜19:00
11月23日(土) 11:00〜19:00
11月24日(日) 11:00〜17:00
~江戸小紋の装いに~ 組紐師 = 伊藤裕子作 帯〆 冠組(ゆるぎ)
江戸切子 = 小川郁子作 帯留 をご紹介いたします。
※10月26日(土)より、一部商品は先行販売いたします。