2007年11月11日(日)。銀座・資生堂パーラー10階にて、もとじ倶楽部「銀座もとじ イタリアフェア」が開催されました。
イタリアでの新しいものづくりの旅をお楽しみいただく今回のもとじ倶楽部。 外国でのものづくりは銀座もとじとしても初の試みです。今年9月、店主自らイタリアに赴き、 老舗の職人たちと語り合い、そのイタリアの職人たちも初めてとなる、日本の和小物を創作してまいりました。
日本もイタリアも“職人の文化”を大切にしている国です。 素晴らしい職人技のコラボレーションにより、大変お洒落な小物たちが生まれました。
会場にはイタリアから今回制作してくださった職人3名が来て下さいました。 そして、イタリアでのものづくりの機会を与えてくださった細尾様に通訳をしていただき、 お話をすすめていきました。
まず、「プリンセスボンコンパーニ」のデザイナー、ラウラ・ムッシさんからお話を伺います。 1188年より続く、フィレンツェの貴族「アンティノーリ家」が設立したカシミア製品の老舗工房。 その当代「アンティノーリ夫人」が、デザイナーである「ラウラ・ムッシ女史」と出会い、 今秋より新しいカシミアブランドとしてスタートさせたのが「プリンセス ボンコンパーニ」です。 「ボンコンパーニ」は、アンティノーリ夫人の実家であるローマの名門貴族「ボンコンパーニ家」の名称です。 大変由緒があり、過去に3名のローマ法王を輩出している貴族です。
今回制作いただいたのは、モンゴル産の最高級カシミアを使用したチューブマフラーです。
筒状になっている大きなマフラーで、ラウラさんはその楽しみ方を4つご提案くださいました。 ひとつは上からすっぽりかぶりラフにとどめておくスタイル、次に輪をとじた状態で首に巻き先端をはめあわせるスタイル、 さらには輪の状態をねじって頭からかぶるスタイル(寒いときは頭をすっぽり包んでしまうことも)、そして新しい 感覚としては背負い込むようにするお洒落なものまで、自由なスタイルで楽しんでほしいと仰っていました。
高級手袋工房の「マドヴァ」からお越しくださったのは、アンドレア・ドンニーニさんと シルビア・ドンニーニさん(いとこ同士です)。 創業1919年。フィレンツェの旧市街、ベッキオ橋の畔にある、手作りの手袋一筋にこだわってきた工房「マドヴァ」。 ドンニーニ家の家族が、自らデザインし、厳選された革を手の動きに添うように革の伸縮の目にあわせて裁断して、 各デザイン・サイズごとに指の一本一本のバランスにまで心を砕いた膨大な種類の型に打ち抜き、 一点一点縫製する、手作りの手袋です。
オリジナルカラーで制作した山羊革の手袋は、最高級のイエメン産の革を使用。 和服の際にも手元が寒くないようにセミロング丈を選び、洋服の際には、 折り返して手元で色を楽しめる仕上がりとなっています。 革手袋の難しさは、素材の見極めなのだそうです。革は一方方向に伸びる性質がありますが、 手袋は横には伸びても縦には伸びてはいけないもの。
その性質をしっかりと把握して、 ひとつひとつ手で作り上げていくのです。その縫製をするミシンも戦前のものをずっと使用しています。 この古いミシンで美しい仕上がりをなすことが難しく、アンドレアさんも断念したほどとのこと。
それでもマドヴァは、創業者(現代は3代目)の手技、品質の高いものを作るという家訓を大切に、 決して大量生産はしない、古くからある良質な機材を使って心をこめてものづくりに取り組んでいます。
イタリアの職人たちの明るい会話に、会場には笑いがこぼれました。 そして話は、今回残念ながらお越しいただけなかった職人たちの作品に移ります。
銀細工の「トリーニ工房」では、男性ものの銀の羽織紐を制作いたしました。 1369年から続く、現存する 金・銀・宝飾品工房として、世界で一番歴史のある工房です。 武具、甲冑をつくる職人だったトリーニ家は、その後 金・銀・宝飾をつくる工房と移り変わりました。
ルネッサンス時代のすぐれた金銀細工職人の手技を現代に受け継ぎ、トリーニ工房でした作れない作品を発表し続けています。 工房の最上階には美術館があり、トリーニの作品が所蔵されています。現在トリーニでは、 個人収集家から過去の作品を買い戻して美術館をつくり続けているのだそうです。今回いただいた羽織紐は、「拍車」と「四葉のクローバーの半分」を合わせたトリーニの紋章や、シルクロードが栄えた時に中国から渡り、フィレンツェで独自の紋様として使われ続けてきた亀甲紋様など、3種類の意匠を用いています。
「イル・ブセット工房」では、革の小物入れを制作いたしました。 フィレンツェの職人「ジュゼッペ・ファナ-ラ氏」が、一人で制作活動をしている工房です。 一目見たときには、漆を塗られた木工のように感じるかもしれません。
。 艶やかな表面、手にすると硬くしっかりとした手触りは、これが革製品であることに驚かれるはずです。 木型にはめて3日間寝かして、生地のつなぎ目は天然糊でつなぎ合わせます。 縫製は全くありません。また艶やかな光沢は、水を含ませたスポンジで普通の石鹸を何度かこすり、 そのスポンジで皮の表面に石鹸水をしみこませ、その後にバーナー熱で温めたコテあてを 何度が繰り返すことによって生まれます。表面はすべて均一で滑らかで、本当に美しく光が走ります。
「アプロジオ・エコ工房」からはビーズバックのご紹介です。 パリのファッショントレンド発信源として、最も注目したいものが集まると言われているセレクトショップ 「コレット」も認めたブランドです。デザイナー・オルネラ アプロジオさんが手がけるハンドメイドの バックは、熟練した職人技によりビーズの輝きが最大限に生かされた仕上がりです。 今回は40色ものビーズの中からお好みの1色をお選びいただき、オーダーメイドで制作いたします。
「アンティコ・セティフィーチオ・フィオレンティーノ」では美しいリボンで鼻緒を制作しました。 西暦1200年代から続く、イタリアで一番歴史の古い絹織物工房です。 ルネサンス時の衣裳の復元をしている唯一の工房でもあります。 今回はその歴史ある素晴らしい工房のリボンを用いて、新しい感覚の鼻緒が出来上がりました。
作品の紹介を終えた後、質問のコーナーは、会場のお客様にイタリア語が堪能な方がいらっしゃったりと、 大変和やかな楽しいものとなりました。 マドヴァの手袋を愛用されている男性の方からの「イタリアの色に対するこだわりは? 」という質問には、マドヴァの職人たちが嬉しそうにお答えくださいました。
マドヴァには12色の基本があるそうです。そして毎年、女性用として30~35色の新色をセレクトするのですが、 男性用は10~12色ほどと少ないそう。それは男女で素材が違うため、いろいろな制約があるからだそう。 男女の好みの差というだけではない、使い勝手にあった素材にあう色選びというこだわりが新鮮に感じました。
また、色の話題ではプリンセス・ボンコンパーニのマフラーの紫色にもこだわりがあるとのこと。 アンティノーリ家はワインの生産で有名な貴族でもあります。この紫は、葡萄を収穫して最初に絞りだされた色=モストの色なのだそうです。この話から、次回はぜひアンティノーリ家の手に入りにくい限定ワインでもとじ倶楽部を 開きましょう、という大変楽しい企画も持ち上がりました。
和やかな会を終えた後、ひとつ上の11階へ移動していただき、資生堂パーラーのランチをお楽しみいただきました。 天井の高いキラキラと光の入る会場で、緑の椅子と赤いレースのカーテンが爽やかな空間です。ブッフェスタイルでお選びいただき、ゆっくりとお席でお召し上がりいただきました。
その後店舗では、アンドレアさんによる手袋の目きき(手を見ただけでその方のサイズがわかります)など、作り手の方たちと話し、オーダーメイドする楽しみをご満喫いただきました。新しいアイデアやご要望が次から次へと生まれ、職人たちも具体的な案が浮かんできた様子です。
ラウラさんは、カシミアのマントのサンプルを12月上旬に届けてくださるとお約束してくださいました。 またアンドレアさんとは、男性の手袋や、裏地に着物地を使った手袋などを考え中です。 大変ご好評いただいたイタリアフェア。
わずか3日間だけの開催でしたが皆様のご期待のもと、今後も新しい作品づくりに取り組んでまいりたいと思います。ぜひご期待ください。