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刺繍作家 森康次さんのぎゃらりートークを開催しました

2012年4月19日(木)〜22日(日)まで、銀座もとじにて『森康次 日本刺繍展』を開催させていただきました。 森康次さんの個展は、2年ぶり、2回目となります。
森康次 日本刺繍展 ぎゃらりートーク
4月21日(土)には、森康次さんをお迎えして、ぎゃらりートークを開催させていただきました。 「お話を頂いて、本当に嬉しく思いました。私なりに、一生懸命させていただきました。」
森康次 日本刺繍展
ほっと心が癒される。森さんの声やお話の仕方は本当にやわらかでほのぼの。いつもにこにこ、相手への気遣いも素晴らしく、気持ちをほぐしてくれる。思わず笑みが浮かんできます。でも、その奥にはしっかりと深く強い、まっすぐな想いがある。自身の道への探究心が作品の日々進化されている様子にしっかりと現れています。「私自身は、自家営業の後継者です。そんなわけで15歳からですので、刺繍を生業として50年を超えました。
50年以上も絹糸を使った、和装への刺繍と生活を共にしていますが、「日本刺繍はこんなものではない」と思っています。文様表現としてもっともっと可能性を秘めていると考えています。私自身の刺繍も、『まだ開発途中」だと思っています。そんなことを考えると、私自身「まだ何もしていないじゃないか」そう思っているのです。」 笑顔の奥に見え隠れする、ものづくりへの真剣な想い。
第1回目の打ち合わせから1年半、今回の個展に向けて森さんは60点のスケッチを描いてくださいました。その中から、ご相談の上選ばせていただき、付け下げ5点、帯7点、男性の羽織10点、そして大変珍しく”銀座もとじ限定の作品”「羽衣」という夏の紗羽織に刺繍をした贅沢の極みとも呼べる作品を男女計10点制作いただきました。目指されたテーマは“「銀座もとじ」でしか見られないもの”“華やかで、明るいこと”。
森康次 日本刺繍展
初回の前回、会期中4日間すべての時間、森さんは店舗にご在廊くださった時に、お客様と直接お話しされ、向き合い感じ得たことが今回のものづくりの大きなヒントとなったそう。 この1年間、森さんが覚悟を決めて向き合って出来上がった渾身の作品です。

今回のテーマ1:“華やかで、明るいこと”

森康次 日本刺繍展
「私は染めでも、織りでもない、刺繍をしています。刺繍は平らな絹布に凹凸となってほどこされる。でも刺繍は凹凸を強調することで存在感を高めるのではなく、あくまでも“半立体”が美しい。すべてを埋め尽くすのではなく、人の視覚を利用して美しく立体的に浮かぶように構築するのが大切と考えています。」 それを実現するために、今回森さんは、初めての試みとして繍技の種類と生地の染めに進化をほどこしました。
≪繍技をいつもより多様に使い分けた≫ これまで主に使用している繍技は、刺しぬい、菅刺しぬい、まつい刺しぬい、まついぬい。これに加えて、今まであまり使用してこなかった、菅ぬい、組ぬい、とじ付けぬい、芥子ぬい、をこの度は用いたそう。この繍技はボリュームや力強さは出ますが、どうしても生々しくなり、刺繍の“野暮ったさ、くどさ”に繋がると考えられていたそう。でも今回は、どうしてもこの力強さが必要だったとおっしゃいます。そこで、その“生々しさ、くどさ”を解決するために、刺繍糸そのものを極力細くして、“ぼかし縫い”を取り入られたそう。細い糸作りは、一本の糸を分割して、撚って、必要に応じてその都度作るという大変な手間のかかるものでしたが、絶妙な美しさのバランスを完成させるため、計算し尽くした表現を選ばれました。
≪地色にぼかし染をほどこした≫ 今までは一色で染め上げた「無地染め」の絹布の上に刺繍をほどこすことが多かった森さん。でも今回は、無線友禅によって柄の背景に色をほどこしたり、生地に白場を残した上に、刺繍をほどこしました。これにより、刺繍糸の濃度を上げなくても、透明感の中にしっかりと色柄が立つ表現が可能になりました。また、前述の繍技を増やしたとしても“くどさ”を感じない、明るさと爽やかさを実現しました。
森康次 日本刺繍展
「私の刺繍は、友禅染のきものにほどこしてある“あしらいの刺繍”という“従”の刺繍ではなく、刺繍そのものでしっかりとした完成のイメージを創り上げるもの。今までぼかし染めは背景にほどこしてきませんでしたが、今回、創り上げたいイメージを追求していく中で“必然”として染めの表現が発生しました。染は自分ではできず、京都の信頼している工房へお願いしています。自分の想いを的確に伝えることはなかなか難しいのですが、可能性は大きくふくらみました。今後のテーマとしてさらに追及していきたいと考えている課題です。」

今回のテーマ2: “「銀座もとじ」でしか見られないもの”

森康次 日本刺繍展
前回の個展での大変注目を浴びた作品が“羽衣”という生地を使用した夏の羽織です。しなやかに透ける、大変デリケートな紗の羽織地に、さらにデリケートな刺繍をほどこした、贅沢な夏の逸品です。これは「銀座もとじ」でしか見られない、森さんの貴重な作品群。生地も量産されているものではないので、男女ともに現定数でご紹介させていただきました。これには皆さま、感嘆のため息をこぼされていました。その素材の扱いの難しさは一目瞭然。その繊細な絹布へ、繍技も多様に、そして何よりも完成された絵羽付けの意匠美のほどこしは神業と呼べるほど。
思わず呼吸がゆったりとしてくるような、じっくりと深い感動を感じていただける作品です。 「ものづくりをしながら、それに集中しながら、時として次のアイデアがふと浮かぶ時があります。その時が一番幸せな時です。」 会期中4日間すべての時間、店舗にご在廊くださった森康次さん。お客様と直接お話しされ、向き合い、多くの大きなヒントを感じられたそう。個展を終えたら少しゆっくりしようと思われていたそうですが、さらにむくむくと創作力が沸き、ものづくりがしたくて落ち着かない、と万遍の笑顔で仰っていました。 誰もを笑顔にさせるほがらかな笑顔、その奥に深く存在する真剣なまなざし。進化し続ける森康次さんの刺繍。森康次さんのお人柄そのもののような刺繍の作品、ぜひ心から大切にまといたい、そう心より感じる着物です。 (文:伊崎智子)

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