2011年1月20日(木)〜23日(日)まで、銀座もとじにて開催した『東京友禅・生駒暉夫の世界』展。
1月23日(日)には 生駒暉夫さんを迎え、今回の企画展に込めた思いについて「ぎゃらりートーク」をしていただきました。
「DMに“経験と実力共に成熟期を迎えている”と書いてあってちょっと恥ずかしかったのですが、でも今まさにそう自覚をして頑張っている時期なんです。 自分でもいい感じに“脂がのってきた”気がしています。」 と照れくさそうにお話を始められた生駒さん。
年2回の日本伝統工芸展でも幾度も入選を重ね、 現在はさらに東京友禅の作り手の中での自分の立場を想い後継者育成にも力を注がれている“実力派”の東京友禅作家です。
18歳で上京。「ものを作ることが好きだった」生駒さんは「絵に関連した仕事をしたい」と思いました。 そこで出会ったのが“呉服会社”。12年間、生駒さんはその会社で呉服のデザインの仕事に従事しました。 「それがよかったのでしょうね。“呉服会社でデザインを描く”というのは“先生に弟子として師事する” というのとはちょっと違う。日常はひたすらデザイン制作なのですが、販売会の時には会場にも立つので 実際に着手の姿やお話を聞くことができた。また勤め先が茶道の家元とも繋がりが深く、 家元の前で好みを聞いて描くことも多かった。
“自分の作品”というよりも“着物は纏って美しく、場に添う装いでこそ”という視点が持てたんですね。 侘び寂びや日本人の感性、お客様の声を学べたことが今の糧となっています。」
今でも長野へ題材の取材に行くという生駒さんは「いろんなアイデアの引き出しをプロとして持つことが大切」と言います。 描かれるモチーフは、東京友禅らしい粋な竹模様から四季折々の花草はもちろんのこと、 動物たちの姿も多く見られます。 タンポポの中で跳ねるうさぎや、銀世界を駆け回る小さなきつねたち。その画面からはぽっと心が温かくなる優しい物語が伝わります。 その中でも、いつも皆さんを驚かせる題材としてご紹介されるのが生駒さんの“昆虫シリーズ”です。 「ちょっと、おもしろいでしょ?」と楽しそうにご紹介くださる生駒さん。 クワガタ、カブトムシ、カマキリ、バッタ、コオロギ。。。さまざまな昆虫たちが、ゴルフをする姿、想像できますか? でもそれがとても可愛いんです。
今回の企画展に向けて、生駒さんには銀座もとじがプロデュースしている、 世界で初めてのオスだけの蚕『プラチナボーイ』の絹布でオリジナル作品を依頼したのですが、帯の一つはこの“昆虫シリーズ”から。 生駒さんが想い付いたのは昆虫がお酒を飲んでいるところ。題して『虫BAR』。 「東京でお洒落なバーに連れて行ってもらった時にマスターがちょっとふくよかで、カブトムシみたいだった。
それでこのカウンターに昆虫たちが座ったら楽しいかなと思って。でも店内の色とか、昆虫と同化しない相性のいい色選びをと、 結構いろいろ考えて作ったんですよ。」生駒さんのアイデアの引き出しはドラえもんのポケットみたいです。
プラチナボーイはどうでしたか? 「プラチナボーイは染料の含みがいいので、色の深みや発色が本当にきれいに出る。 友禅の糸目もくっきりと出て、上がりがとても良かった。やっぱり糸の揃いがいいから均一に染まりやすいのでしょうね。 ぼかしのグラデーションの吸いつきは本当に上手くできました。」
現在、生駒さんの工房にはお弟子さんが3人。息子さんと女性が2人、すべて20代の若手です。 友禅は通常分業ですが、生駒さんは工房内で一貫作業を行っているため、お弟子さんたちもすべての工程を学ぶことが出来ています。
「私もたくさんの先輩や先生たちから学びました。でもその先達たちは亡くなっていたりして礼を言うことができない方もいます。
その感謝の想い表すには、後輩たちに技術を伝え環境を与えていくこと。それが私の使命だと思って、今、後継者育成に力を入れています。」
「ものづくりは勝負」という生駒さん。真剣なものづくりへの眼差しからあふれる人と自然への優しさ、微笑み誘うユニークな感性、 そしてこれからの東京友禅を担うことへの熱い想いが伝わる本当に素敵なトークでした。 生駒さんの引き出しから今度はどんなアイデアが飛び出してくるのか、とても楽しみです。