2025年6月から7月にかけて、銀座で唯一の公立小学校・泰明小学校で、今年も「銀座の柳染 課外授業」を行いました。 全3回で行われるこの授業は、1998年に銀座の街へ地域貢献したいという想いから始まり、今年で28年目を迎えました。 授業を通じて、銀座に生きる「柳」という植物の命を知り、そこから色をいただき、自分の手で染める──。 自然と向き合い、ものづくりの楽しさや伝統文化に触れる体験は、未来の街を担う子どもたちの感性を育むひとときとなっています。
銀座の柳染め課外授業 (1)「柳の剪定」
泰明小学校には、かつて銀座の街路樹だった「銀座の柳」の命を引き継ぐ2本の柳の木が植えられています。
校門前には明治時代の柳の接ぎ木から生まれた「2世柳」、校庭にはその枝から分けた「3世柳」。
震災や戦争、都市開発によって一度は姿を消しかけた銀座の柳ですが、「守りたい」と願う人々の手で再び植え継がれてきました。
そんな柳を活かした「柳染め」は、自然の命を身近に感じ、地域の記憶と文化を次世代につなげる取り組みとして、多くの方に支えられ続けています。
剪定体験と自然の香りに包まれて
初回となる授業では、校門前の柳、校庭に茂る柳の剪定を行いました。
曇り空のもと、少し湿気は感じられたものの、暑すぎず作業にはちょうど良い気候。
子どもたちは剪定ばさみを手に、枝葉を丁寧に切り落とし、煮出しやすいよう細かく刻んでいきます。
中には「2回目も並んで剪定していい?」と意欲的に聞いてくれる子や、足を怪我しながらも脚立にのって剪定に挑戦する子の姿も。
黙々と箒で葉を集め続けてくれる子、太めの枝を楽しそうにカットする男の子たち。
細かな裁断作業では、女の子たちが集中してしっかりと作業を進めてくれました。
煮出す用の鍋の中はみるみるいっぱいになり、校庭に落ちた葉っぱも一枚残らず拾い集めるその姿に、スタッフ一同心打たれました。
乾燥していた葉を丁寧に細かく刻んでくれたおかげで、染液は深く濃く、よく煮出すことができました。
作業中も休み時間も、染料作りの様子を見にきてくれたり、味見(!?)をしようとする子もいたりと、子どもたちの好奇心とエネルギーに私たちの方が元気をもらう時間となりました。
銀座の柳染め課外授業 (2)「銀座と柳の歴史」
第2回目では、泰明小学校の体育館を会場に、“学びの時間”が開かれました。
この日は、銀座もとじ 店主の泉二啓太が先生役を務め、銀座というまちと柳の木との関係についてお話をしました。
銀座のまちに根づく柳の歴史
授業では、明治時代から現代に至るまでの銀座の景観や暮らしと、柳がどのように関わってきたのかを、たくさんの写真と資料を使いながらご紹介しました。
かつて銀座の街路樹の多くが柳だったこと、その美しい街並みが人々に愛され流行歌にも歌われたこと。
そして関東大震災や戦争、都市整備によって一度は姿を消しかけながらも、「銀座の柳を守りたい」という人々の思いによって再び植え継がれてきたこと。
一枚一枚の写真に込められた時間と風景を、子どもたちは静かに、真剣な眼差しで見つめてくれました。
子どもたちのまっすぐな反応と好奇心
授業中には、泉二からの問いかけに元気よく答えてくれる子や、思わず「へぇー」「知らなかった!」と声を漏らす子も。
銀座という土地への関心や、歴史へのまっすぐな反応が随所に見られ、私たちの方が学ばせていただくような場面も多くありました。
時折笑い声も交えつつ、最後まで集中して話を聞いてくれる姿勢に、心から感動しました。
染色授業に向けて、広がる想像と楽しみ
授業の後半では、次回の「染色体験」に向けての説明も行いました。
昨年度の5年生が染めた反物を紹介しながら、柳の葉を煮出してつくった染料でどのように布を染めていくのか、その工程を丁寧に説明しました。
すでに自分のデザインを決めている子も多く、「どうやったらこの形になるかな?」と染め方を相談してくれる子、
「私はこれにしたよ!」と嬉しそうにデザイン案を教えてくれる子もいて、その表情はきらきらと輝いていました。
すっかり打ち解けて記念撮影をするなど、授業が終わった後もとても楽しそうにしてくれました。
銀座の柳染め課外授業 (3)「柳染め」
7月初旬、泰明小学校にて「銀座の柳染 課外授業」第3回目、いよいよ最終回となる「染めの授業」が行われました。
染めの指導をしてくださったのは、染色家の山崎広樹さん。
“草木染(くさきぞめ)”という言葉を日本で初めて提唱した山崎家の四代目であり、銀座もとじ「男のきものシーズナルコレクション」などでの作品制作をはじめ、草木染の魅力を広く伝える活動を精力的に続けられています。
染色授業のスタートは、離島とのオンライン交流から
まずは体育館に集まり、染色の手順をおさらいしたあと、今年も奄美大島の大勝(おおがち)小学校とのオンライン交流会が行われました。
泰明小学校と同じく「柳染め」を学ぶ大勝小の子どもたちに向けて、銀座から元気いっぱいに質問を投げかけます。
「大勝小学校には、どんな特徴がありますか?」
「学校に相撲の土俵があります!」
「すごい!!」と体育館に響く歓声。
好きな給食や遊び、通学の風景──
銀座と奄美、遠く離れた場所に暮らす同年代の子どもたちが、お互いの違いを面白がり、共通点にうなずきながら、自然と笑顔が広がっていきました。
いよいよ染めの実践へ
交流会を終えると、いよいよ染色体験の時間です。
クラスをふた手に分け、「ハンカチ染め」と「反物染め」の二つの工程に取り組みました。
今回使用する柳の染液は、媒染の方法によってさまざまな色に変化します。
チタン媒染では赤みがかった黄色、アルミ媒染ではやさしい黄色、そして奄美大島の泥を使った“泥媒染”では深みのあるグレーに染まります。
子どもたちは事前に、ビー玉や輪ゴム、割り箸などを使って防染(模様をつけるための縛り)を施したハンカチを3枚ずつ用意してきました。
1枚は自分用に、1枚は大切な人へ、そしてもう1枚は、大勝小学校のお友だちに贈るためのもの。
「きれいに染まれ!」と願いを込めながら、染液にそっと浸すその手にも力がこもります。 出来上がったハンカチは、プロ顔負けの凝った絞り模様ばかり。夏風に揺れる様子はどこか涼しげで、見ているこちらも心洗われるようでした。
反物に描かれる、銀座の柳の記憶
一方、反物染めでは、銀座もとじから寄贈した白生地2反が使われました。
あらかじめ山崎さんによって柳の染料で下染めされた生地に、子どもたちが筆を使って媒染液をのせ、思い思いの模様や絵を描いていきます。
筆先から染み出す色が、ゆっくりと布の上で変化していく様子に、子どもたちは興味津々。
のびのびとした線、工夫された模様、一つひとつに、その子らしい個性があらわれていました。
心に残る“色”の記憶として
気温は30℃を超える夏日でしたが、体調を崩すこともなく、無事にすべての工程を終えることができました。
これにて、令和7年度の「銀座の柳染 課外授業」は完結となります。
柳という植物の命を受け取り、自分の手で染めてみるという体験。
ものづくりの喜びや、街と自然がつながる感覚──それらが、泰明小学校5年生の心に、初夏の思い出としてあたたかく刻まれていたら、私たちにとってこれ以上うれしいことはありません。
<お問い合わせ>
銀座もとじ和織・和染(女性のきもの)03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472