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“プラチナボーイ”の製糸を依頼している「碓氷製糸工場」(群馬県安中市)を訪ねました

2012年7月25日、群馬県安中市にある「碓氷(うすい)製糸工場」を見学に訪れました。 銀座もとじでも、雄の繭だけから取れる極上の絹糸「プラチナボーイ」の器械製糸をお願いしている製糸工場です。
碓氷製糸工場見学
碓氷製糸工場のある群馬県安中市は、長野県と隣接しており、静かに佇む山々を遠景に見ながら穏やかな車道を進んでいくと、製糸工場の敷地が小さな谷間に広がっています。 繭から生糸を生産する器械製糸工場は、日本国内では、こちらの碓氷製糸場と山形県の松岡製糸場の2か所のみ。あとは長野県に、小規模の国用製糸といわれる製糸場が宮坂製糸所と松澤製糸所の2か所あるに留まります。全国の養蚕農家で飼育される約6割の繭が、ここ碓氷製糸工場に届きます。
蚕の飼育
蚕の飼育は、大きく分けて年4回、春蚕(はるご:5月掃き立て)、夏蚕(なつご:6月掃き立て)、初秋蚕(しょしゅうさん:7月掃き立て)、晩秋蚕(ばんしゅうさん:8月掃き立て)と季節ごとに行われます。
「掃き立て(はきたて)」とは、ふ化したばかりの黒く長い毛におおわれた生まれたての蚕(蟻蚕 ぎさん/蟻のように小さくて黒い)を蚕座(さんざ)という新しい飼育の場に移して育て始める作業のことです。羽ぼうきで蟻蚕を掃き下ろしたことから「掃き立て」と言われます。 明治時代の始めまでは、年1回、春のみの掃き立てでしたが、乾繭や冷蔵保存といった技術や設備が整い、年4回、または秋にもう一度(晩々秋蚕)飼育する年5回行われるようになりました。 日本中から届く生繭が、どのようにして生糸となりどのような荷姿で出荷されていくのか、その製糸工場での工程を7つに分けてご紹介していきます。

(1)検査

全国各地から届いた袋詰めの生繭は、「荷受け場」に届き、そこで蚕品種ごとに品質管理のためのサンプリングを行い、選除繭(せんじょけん)といって汚れなどの欠点のある繭の割合を調べるなど、品質の確認を行います。 碓氷製糸工場見学

(2)乾繭

その後、「乾繭(かんけん)」といって、繭に熱風を当てて、蛹を殺し、乾燥させる工程へと移ります。繭を金網のコンベアーに載せて、30分かけてゆっくりと乾燥機の中を流れていき、最高125度程度で上の段、その後下の段に落ちて、約60度での乾燥を30分間。それを、5〜6時間かけ、5往復して乾繭が完了します。
碓氷製糸工場見学
繭の中の蛹は、蛾になって繭をやぶって飛び立ちます。破れた繭は汚れて品質が低下するため生糸に適しません。そのために長時間かけてしっかりと乾燥させることで、繭が汚れるのを防ぎ、保管中にカビなどが発生しないようにします。
碓氷製糸工場見学
蛹は、新潟県小千谷の錦鯉のエサ、釣りの練エサ、長野県伊那の蛹の佃煮などの食用として利用されます。 乾繭を終えた繭は、その後、倉庫へと移動し、品種、季節(何年、春、夏、秋など)、生産地域で分けて、保管されます。
乾繭によって、10キロの繭は6割減り、4キロほどになります。そこから生糸になるのは、2キロほどで、2キロの生糸からは、反物が2反できます。(※一反の絹織物のために必要な 生糸量は、約1kg。)

(3)選繭(せんけん)

乾繭を終えた繭を「選繭台」に乗せて、下から光を当てて透かしつつ、汚れた繭をひとつひとつ手で取り除いていく作業を行います。通常の繭よりひとまわり大きめの玉繭(二頭の蚕が一緒にひとつの繭を作ったもの)はよけて、紬用などのために別に集めます。
碓氷製糸工場見学

(4)煮繭(しゃけん)

碓氷製糸工場見学
繭を生糸にする際には、次に煮繭をします。水に沈むように重曹を入れて約20分間、煮繭機にかけて煮ます。繭を煮て柔らかくすることで、繭糸を層状に固着させている膠(にかわ)状のセリシンというタンパク質を膨潤軟化さて、糸をほぐして取り出しやすくします。
柔らかくなった繭を、小さなホウキのようなものなでながら、表面の糸を引き出していきます。引き出した糸を手繰って一本の糸口を見つけ出しますが、糸口が出てくるまで、200本〜300本の糸が繰り出されます。 碓氷製糸工場見学 糸口が出てくるまでの繭は、生糸として製糸はされず、くず糸として取り除きます。それらをまとめて乾燥させた物が、「生皮芋(きびそ)」(写真右側)または、生皮芋糸となって、生糸とは別の用途に使われます。現在それらは、パウダー状にして食品に入れたり、シルクプロテインとして化粧水に入れたりして利用されています。 糸を取り続けて繭層が極めて薄くなった内側のほうも、最後までは生糸としては使えず、くず糸となります。その繭層の内側のくず糸は、「比須(びす)」(写真左側)と呼ばれます。薄皮繭から蛹をとった部分です。内側のくず糸は、絹の靴下や、シルクニットなどに使われています。 碓氷製糸工場見学 (5)繰糸(そうし)
碓氷製糸工場見学
ここからは、製糸工場における製糸の工程の要となる「繰糸」の工程に入ります。 繭の糸口を見つけ、繭糸を引き出し、目的の太さ(繭ひとつから引き出される糸の太さは、約3デニール。21デニールの糸を製糸する場合、
7〜8つの繭からまとめて引き上げて、1本の糸にする)に応じて、1本の生糸を作り、巻き上げていきます。 ここで、繭から糸にしていく際に、先述の通り、繭はセリシンという膠状のタンパク質によって層状に固着されているため、糸口を見つけるためには、繭を柔らかく煮ほぐした状態のところに、稲穂でできた小さなホウキで繭の表面をなでながら、糸を引き出していき、その糸を手繰って一本の糸口を見つけ出していきます。この際、糸口が出てくるまで、200本〜300本の糸が繰り出され(生皮芋 きびそ)、また繭の内側のほうの糸も太さが極めて細くなるため生糸には適さず(比須 びす)、別の枠に巻き取られます。 碓氷製糸工場見学 糸口を見つけられた繭は、繰糸槽の周りをぐるりと周っていく小箱のようなコンベアーに移り、そこから均一な太さの生糸となって、上部にある小枠に巻き取られ、繰糸されていきますが、この繰糸器では、小箱のコンベアーから小枠に繰糸される際に、主な2つの装置を経て行きます。
ひとつは、繭糸が1本にまとまって上に繰り上がって行く際に糸の太さを感知する「集緒器(しゅうちょき)」という小さな白いボタンのような、真ん中に糸の太さに合わせた穴のあいた装置。大きさは親指大で、陶器やセラミックでできており、0.2〜0.4mmほどの直径の穴が空いており、生糸の太さを調節します。 もうひとつは、糸の太さをチェックし、汚れを取り除く「繊度感知器(せんどかんちき)」(写真下部、赤枠)。製糸に適さない糸は、繊度感知器についた2枚のガラス盤が摩擦力によってそれを感知します。
碓氷製糸工場見学
そして自動的に給繭器(小箱のコンベアー)からあらたな繭の糸が吸い上げられて、もとの糸に巻きつけられて、繰糸が続けられる仕組みとなっています。 この「繊度感知器」は、50年ほど前に開発され、実用化に至った当時、生産性が著しく向上し、機械製糸の急速な普及につながっていきました。現在にいたっても、自動製糸の要となる装置です。 碓氷製糸工場見学

(6)揚返し(あげかえし)

自動操糸機で繰糸された生糸は、上部にある小枠に巻き取られます。小枠に巻き取られた状態の生糸を、別の器械で大枠に巻き直す工程が「揚返し」です。この後、梱包する際に取り扱いやすいように一定の大きさと量の束にしますが、生糸は「綛(かせ)」という単位で扱われており、小枠から大枠に巻き取られたものが、一綛(ひとかせ)として束ねられます。 碓氷製糸工場見学

(7)仕上げ・出荷

大枠からはずし、ほどけないように糸留めして、綛(かせ)という単位で束ねたり、大枠ではなくプラスチック製のボビンに巻き取り(チ−ズ巻※)、出荷に便利なかたちにします。綛の一束を、4列6段の計24綛に束ねたものを「一括(いっかつ)」といいます。”一括払い”などの一括の語源ですね。綛の重さは約208g、24綛をまとめて束にした一括は、約5kgです。
碓氷製糸工場見学
※「チ−ズ巻」という出荷形態は、その後生糸業者が、撚糸や合糸に掛ける際は、揚返しをあらためてせず、チーズ巻のまま器械にかけられるというメリットがある。

絹糸の美しさ

上記のような工程で、製糸場では繭から生糸が作られます。自然の繭から、綛の状態になるまでの器械の仕事は、テンポよく見事ですが、合間合間にはしっかりと人間の目による確認や修正があり、丁寧に製糸されていきます。 綛の状態で段ボール箱に詰められた生糸は、繭が姿形を変えたものであり、器械の工程を経ても、やはり“自然”そのもの。光沢感、色艶は、唾を飲むような美しさであり、この後、精練や撚糸を経て、作家の元へ届けられ、染め、織られて、作品となって、銀座もとじに届きます。「一本の糸から」。わたしたちは、こだわりをもって、上質な本当に良いものだけをお客様のもとへお届けしたいと、常に真摯なものづくりを心がけています。

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