千葉県松戸市にある、江戸組紐「中村正」さんへ工房見学に伺いました。

江戸組紐「中村正」4代目・中村航太さんの工房に伺いました
お話を伺った中村航太さんは、明治26年から130年以上続く江戸組紐「中村正」の4代目。
「中村正」は、組紐職人をしていた曾祖父を初代とし、規模を拡大した祖父の代に、祖父・正次郎氏の「正」の字を取り、「中村正(なかむらしょう)」の屋号となりました。 先代から続く工房はリフォームされ、糸染めから制作まで、一貫して同じ空間で作業しやすいよう工夫されています。
中村さんは17歳で組紐を習い始め、大学では理系(機械工学)を専攻。その後、専門学校を経て家業へ入りました。
お父様は主に経営に携わっていましたが、継ぐことを強制されることはなかったそうです。
中村さん自身は、「引き継ぎたい」という気持ちよりも、幼い頃から職人たちの作業場をよく見て育っていたため、ものづくりそのものに興味を惹かれていたと語ります。 実際に手組みを生業としていた職人から直接教えを受けることができたのは、航太さんが最後の世代とのこと。
ご自身を「負けず嫌い」と話す中村さん。習い始めの頃から、まずは自分でできるところまでやってみたい、極力自分なりに解決したいという思いが強かったそうです。
現在は工房「中村正」の作品制作に加え、ご自身も作家として伝統工芸展へ作品を出品するなど、精力的に活動されています。
伝統工芸展作品一覧はこちら
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※伝統工芸展に出品するようになったのは、東京友禅・生駒暉夫さんに出会い、勧められたこともきっかけだったそうです。
「江戸組紐」とは
京組紐との違い
公家や寺社文化を背景に発展した京組紐に対し、江戸組紐は武家文化がルーツ。甲冑などの武具や、町人の羽織紐などに用いられてきました。
大変手間がかかるため、もともとは位の高い人々に限られたものでした。
帯締めとしての組紐は、明治時代以降、お太鼓結びが一般的になるにつれ広まっていきます。
組紐は、長い歴史の中ですでに完成されている世界。
中村さんは、「まずは受け継がれてきたものを忠実に、精度高く組むことが大切」と語ります。 基本を踏まえて、しっかり美しく作ることを前提にしながらも、アレンジ次第ではまだ新鮮に見せられる余地があると感じているそうです。
インスピレーションは尽きません。
組紐を教えてくれた先人たちへの“アンサー”を返したいという思い。織物の絣表現が好きで、それを組紐で表現してみたいという興味。さらに多色使いによって、自分自身が新鮮に感じられるものを作りたい――そんな思いを語ってくださいました。
中村航太さんの組紐
① 糸色の指定
――今の着姿に馴染む色を求めて
かつての組紐は、反対色を用いたはっきりとした色使いが多かったそうですが、近年は洋服感覚の着物コーディネートにも馴染むよう、より自然に溶け込む色を意識しています。
多色使いでありながら、シンプルに見えるグラデーションなどを心掛けているとのこと。


無地染めの糸のほとんどは、ご自身で染色されています。

② 組台
――組み方によって使い分ける道具
組紐制作に使用している組台は主に、丸台、綾竹台、内記台があります。
中村さん曰く、組紐とは「力学そのもの」。
理想とするのは、程よい締まりとしなやかさを兼ね備えた組みです。
組紐の仕上がりに関わってくるのが、それぞれの糸の先に付いた錘。組み方によって適した重さを見極めていきます。新しい作品を作る際は、試行錯誤を重ねながら決めていくそうです。
組みによっては、耳の部分だけを変えることもあります。

様々な種類の錘
組紐制作においては、淡々と同じペースで作業を続けられることが大切。
常に「どこを効率化できるか」「削ぎ落とせる部分はないか」を考えているそうです。
中村さんご自身も、かつては組みながら様々なことを考えてしまっていたそうですが、現在は頭の中を「シングルコア」の状態にし、集中して取り組めるようになったと話してくださいました。
綾竹台(あやたけだい)
綾竹台の最大の特徴は、台の上に並んだ多数の竹片「綾竹」。
糸をこの竹片に掛けながら交差させることで、美しく複雑な平組を作り出します。
中村さんは綾竹台には特に思い入れがあり、日本一と言ってよいほどアイデアと技術を持った職人に学んだといいます。
伝統工芸展出品作品も、全て綾竹台を使ったものです。

四段綾竹モザイク

綾竹濃淡

綾竹縦分
内記台(ないきだい)
内記台とは、江戸時代後期に考案されたカラクリのような木製歯車を持つ組台。
大変珍しい組台で、現在、内記台を使う職人は非常に少なくなっています。
工房には、引退した職人から譲り受けた内記台が何台もあり、修理を重ねながら大切に使われています。

吾妻2色ドット

角朝流れ縞柄
内記台を使って実演をしてくださいました。



右手のレバーのようなもので台を動かし組み上げながら、左手の棒を少しずつ回していきます。
そのまま組むとまっすぐな縞になるところ、回すことでカーブ状の美しい流水柄が組み上がります。

三分紐
同じ長さを組む場合でも、三分紐は通常の帯締めの倍ほどの手数がかかります。
そのため、手組みで三分紐を制作する職人は非常に少ないとのこと。

男ものについて
かつては紺、グレー、茶といった定番色が中心だったそうですが、近年は鮮やかな色や柄物も意欲的に取り組まれています。
羽織紐には「直付け」と「Sカン付け」の2パターンがあります。
「直付け」の場合は「大ツボ」を使い、都度紐を結んで着用します。
「Sカン付け」は、「小ツボ」に「Sカン」と呼ばれる金具(※別売り)を付けることで、羽織紐は結んだ状態のまま着脱ができるようになっています。
「大ツボ」にそのままSカンを付けるとバランスが悪くなってしまうため、Sカンを使う場合は「小ツボ」を選んだり、直付けの結び方を覚えるのがおすすめです。

画像左が「小ツボ」、右が「大ツボ」


着姿が美しく見えるものを目指す
今でこそ店内実演などを通じ、お客様と接する機会も多い中村さんですが、かつては主に問屋相手の仕事だったため、実際に使うお客様の顔を見る機会はほとんどありませんでした。
実演へ赴き、実際に着物を着る方々と接する中で、コーディネートの大切さや面白さに気付かされたといいます。
現在では、単体の作品としてだけではなく、「コーディネートが素敵になること」が目的になったと語る中村さん。
そのため、表現としては引き算をしていく方向になっているそうです。

着姿に馴染んで引き立てる、自然な白の色味

もともと、「職人は報われにくい」という思いがあったそう。
続けていくためには、職人がきちんと育つ環境が必要であり、そのためにはまず知ってもらうことが大切だと考えています。
より良いもの、欲しいと思ってもらえるもの、人の役に立つものを作りたい――。
そうした思いから一念発起し、伝統工芸展への出品を始め、多くの人の目に触れる機会を作るようになりました。さらに、千葉県の伝統工芸士としても認定されています。
それまでは、組紐を作っていても「誰かの役に立っている」という実感がなかったそうです。
「人の手に渡って喜んでもらえたときが嬉しい」
「作った作品はすべて、誰かの手に渡って身に着けてほしい」
しっかりと着物や帯に合うものを作ること。
自分の得意分野でできることを、きちんと残していきたい。
今は、帯締めや羽織紐こそ作っていきたいと語ってくださいました。
在廊時には、綾竹台での実演もご覧いただけます。
巧みで美しい確かな手技、そして手組みならではの質感を、ぜひ間近で感じていただけましたら幸いです。
夏を彩るコモノ展|5月・6月催事

麻や紙布などの自然素材、天然石や陶器の帯留、木竹工による繊細なバッグなど、涼やかな色彩や風合いをコモノにも取り入れて、夏の装いをさらに楽しみませんか。
会期:2026年5月1日(金)〜6月30日(火)
場所:銀座もとじ 和織・和染、男のきもの、オンラインショップ
〈お問い合わせ〉
銀座もとじ 和織・和染(女性のきもの) 03-3538-7878
銀座もとじ 男のきもの 03-5524-7472
(電話受付時間 11:00~19:00)
作家在廊
中村航太氏
5月16日(土)11時~18時
5月17日(日)11時~18時
名古屋帯
袋帯
紬・綿・自然布
小紋・江戸小紋
訪問着・付下げ・色無地ほか
浴衣・半巾帯
羽織・コート
肌着
小物
履物
書籍
長襦袢
小物
帯
お召
小紋・江戸小紋
紬・綿・自然布
袴
長襦袢
浴衣
羽織・コート
額裏
肌着
履物
紋付
書籍