店主 泉二弘明のおすすめの逸品 重要無形文化財 越後上布 角帯 「アイボリーと茶の細縞柄」
今月の「店主 泉二弘明のおすすめの逸品」では、なかなかご紹介できる機会のない、大変希少な越後上布の『角帯』をご紹介いたします。これからの季節、夏の上質なきものを揃えて、夏きものの楽しみに備えたい頃でございますね。
1995年、国の重要無形文化財に指定された「越後上布」
「雪晒し」の風景
1955年に「越後上布」「小千谷縮」が共に重要無形文化財に指定されました。また、2009年にはユネスコの無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも登録され、世界的にもその技術や価値を認められた最高級品の上布が、「越後上布」です。その歴史は古く、1200年前から織られている日本最古の織物とされています。長年の間に、人々の知恵によって高められてきた技術は、その技術を後世に守り伝えるために、現在「国の重要無形文化財」の指定要件として、下記の条件、工程を経ていることが求められています。
5つの指定要件の一つ目に、「(1)すべて手うみした苧麻糸であること」とあります。福島県昭和村で作られる「苧麻(ちょま)」という麻糸の原料を用いて、その繊維を爪と指先で細かく切り裂いてつなぎ、細く均一な糸をつくるという伝統的な作業は「苧績(おうみ)」と呼ばれます。その伝統の技法を守って作られた糸を用いることが指定要件のひとつとなっております。
また、「(5)地白のものは雪晒しすること」とある「雪晒し」は、越後上布ならではの特徴的な要件です。白地の越後上布は3~4月の雪解けの頃、天気のいい時に、一面の雪野原に反物を広げます。紫外線が雪に当たるとオゾンが発生し、生地が見事に漂白されると言われています。
爪で細く裂いて、均一な糸にしていく「苧績み(おうみ)」は熟練の技によるもの
極細の苧麻糸を用いた上質な越後上布の角帯
その糸の細さは一目瞭然。長さを揃えて刈った苧麻の皮を裂いて作る糸は、その年の気候と職人の技術が問われます。また、越後上布の特徴は苧麻の栽培が一毛作であることにもあります。土の栄養が1回に凝縮されるため、他の上布とは別格とされる、やわらかくしなやかな糸が作り出せるのです。 通常、<帯>用の糸に比べて<着物>用には、より細く績まれた糸が用いられます。今回ご紹介の逸品は、着物用の細い糸を用いて、さらにそれを数本束ねて角帯用の糸にして織り上げております。実際に手に取っていただけますと自然布ならではの風合いのしなやかさ、極細に績まれた苧麻糸ならではの上質さを実感いただけるかと存じます。 現在では、苧麻糸を績む人もわずかとなり、織り手も少なくなっている現状があり、越後上布はいずれ「幻の布」となると言われています。その中で、角帯として織り上げられる作品は本当にごくごくわずかで大変な希少です。憧れの自然布の角帯の逸品、ぜひこの機会に実際にお手にとってご覧いただけたらと願っております。
苧麻の繊維で作った糸の原料となる「青苧(あおそ)」(左)と手績みした糸を入れる「苧桶(おぼけ)」(右)