光を染め風を織る「黄八丈」|和織物語

光を染め風を織る「黄八丈」|和織物語

目に鮮やかな黄金に輝く山吹色、見る方向で輝きが違うシックで落ち着いた茶褐色の鳶色、漆黒で独特の艶と気品を放つ黒色。
「黄八丈」はその独特の糸の輝きと艶で、見る人をそして着る人を魅了します。
薄い空気の層で包まれているようなさらっとした肌触りで、しかも丈夫。着始めて2、3年経った頃に染めが糸に馴染み、織が柔らかくなるのでこの良さが一層わかると言われています。これが「孫や曾孫の代までも染めがしっかりしていて色褪せない」「緯糸が切れるくらい着ても生地がしっかりしている」と言われる所以です。
天然素材で染められ人の手でしっかり織り上げる。
東京生まれの黄八丈は1984年に東京都の無形文化財に指定されました。
染め上がった糸は息を飲むほど光沢があり、朝日を浴びて光る朝露のように独特の光を放ちます。多くの手間と月日をかけて染め上げられた糸を高機に掛け手織りで丹念に織っていく。糸に無理な力を加えず糸の良さを最大限に引き出す。今では数少ない貴重な存在になりつつある「黄八丈」は正に織物の宝石と言えます。今月はこの黄八丈にスポットを当て、皆さんご存知の「本場黄八丈」のほか「菊池洋守さん」、「故・山下八百子さん」「山下芙美子さん」の作品など、現在揃えられる黄八丈を集めました。
是非この機会にご覧下さい。

織りにこだわり、納得のいくものだけを作る ~菊池洋守さん~

菊池洋守作 黄八丈
菊池洋守作 黄八丈
八丈織の中でも特に「織そのものにこだわった織物を作る」と言われるのが菊池洋守さんです。
八丈島に伝わる草木を使った伝統的染織技法を身につけ、その後染織家「故・柳悦博氏」に師事して独自の染織技法を生み出しました。草木染めだけでは出せない色を、化学染料を用いて引き出し、さらに奥深く味わいのある色と光沢に作り上げていきます。

それを自ら厳選した絹糸に染め付け、独自の織り方で織り上げる。一見すると単純な綾織りと思われる織物を敢えて色目を抑えて織り上げ、他にはない絹糸の光沢感や質感を作り上げます。菊池さんの織は経糸と緯糸のテンションが正確に保たれているので、指で触れると最初は紬独特のむっくり感、次にしっとり、そしてしゃっきりとした張りへと感じ方が変わっていきます。
「納得の行くものだけを時間をかけて作る」ため、年間の生産量は限られています。無地を無地以上の質感に保って織り上げるその技術は追随を許しません。奇をてらうのではなく、着物に仕立てられた時、着る人を美しくそして着心地良く包むのが菊池さんの作品です。
伝統的なものを更に高い技術と誇りを持って作り上げた織物が「菊池洋守作の八丈織」です。

信じた道だからひたすら歩み、作り続ける ~故・山下八百子さん~

八丈島で代々「黄八丈」を織る山下家に生まれ三代目を継ぎました。伝統的な草木染めを施し大きな杼でしっかりと打込んで作る「黄八丈」は、土の香りを感じさせる素朴な織物でした。その紬織物を現代の街並みに合う洗練された「作品」に高めたのが故・山下八百子さんです。
一九八六年に東京都指定無形文化財技術保持者に認定され、その後「人間国宝」への推挙もありましたが、あくまで職人としての仕事を守り、九十歳で他界されるまで、自らの信じた道をひたすら真っ直ぐ歩みました。
故・山下八百子作 黄八丈
故・山下八百子作 黄八丈

その作品は「黄八丈」という総称では捉えきれない「質感」を感じさせ、ただただ「ひたすら美しく気高く」存在します。この質感や美しさは、伝統的な染織技法を守った上に八百子さん自身の感性と個性が反映されているからです。
「絹糸」がさらに命を持って存在している、そんな不思議な感じすら与えます。確かな織の技術の上に、草木染めの最高の色彩が重ねられ、私達の目に映るその世界は、はっきり何色とは言い切れない奥深い上品な色として存在します。
受け継がれた染織技法と独自の感性、取り組んできた情熱が生み出した極上の織物は、既に希少価値となっています。今回は数点ご紹介いたします。
山下家では現在娘の芙美子さんが母の感性と色彩感覚を引き継ぎ、先代を超えようと技術を磨き続けています。

それぞれの黄八丈

本場黄八丈
黄八丈は歌舞伎で「町娘」の衣装として使われることが多いため、「若い方の着物」という印象をお持ちの方も多いのですが、この織物こそ「年齢を問わず着られる」素敵な紬織物です。
八丈刈安で染められた黄色は深みと渋みがあり、大人の上品な華やかさと個性を演出します。
「鳶色」と言われるシックで落ち着いた茶褐色の鳶八丈は現代の街並みに大変似合い、男女問わずおしゃれ着として重宝します。

赤味も帯びない深みのある漆黒で、染め上がりの光沢はこの織物ならではの気品を放ち魅力的に出来上がります。
この「鳶八丈」と「黒八丈」は、男性にも大変おすすめです。
遠目には無地、しかし近寄ると黄八丈独特の織技術が随所にちりばめられ深みのある質感や光沢が紬というより御召に近いと言われ、活用範囲が広いと好評です。
身に纏う人を更に心地よく引き立てる東京生まれの織物を是非お楽しみください。