稲生一平さん|泉二の一口対談

第1回:稲生一平さん

稲生一平さんは、銀座もとじ「和織」「男のきもの」そして新店舗デザインの総合プロデューサーです。

稲生一平さん

泉二:

うわ! すごい。(写真を見ながら)

稲生:

すごいでしょう。
ちょっと恥ずかしかったんですけど、大きさがわからないから、自分で板の真ん中にあぐらをかいてみた。

泉二:

これが新店舗のシンボルテーブル、いったいどの位の大きさですか?

稲生:

長さは4メートル、大きめのシングルベッドを縦にふたつ並べた大きさをイメージしてください。国産の素材で、これだけの大きさの一枚板は探してもなかなか無い。しかも、とても美しい板目です。

泉二:

ところで、この石は?

稲生:

秘密!!!

稲生一平さん

新店舗に夢を託して

泉二:

稲生さんには、今回の新店舗で3店舗目の総合プロデュースをお願いすることになりまして。いつも稲生さんは、店舗はメディアだと言われる。
私自身、店のしつらえが、メディアになり得ることを「和織」を通して身をもって実感しました。これは稲生さんのお蔭なんです。私の思いを、稲生さんが空間というカタチにして表現してくださる。今回の新店舗でも、いろいろと心を砕いて頂いておりまして、本当にありがとうございます。

稲生:

こちらこそ。チャレンジする機会を与えて頂いて光栄です。泉二さんのハードルは高いから。(笑)しかし、店舗がメディアになる、という意味では、「男のきもの」の発信力は凄かったですね。たった7坪から発信された提案が、これだけの反響を呼び起こすとは。週末の店内なんて、人が入りきらない状態じゃないですか。きもの業界の常識を覆した感がありますよね。

泉二:

いやいや、本当にありがたいことです。却ってお客様にご迷惑をおかけすることになってしまって。自分でも驚いているんです。嬉しい悲鳴というか。この「男のきもの」の予想以上の反響が、新店舗の展開へのきっかけともなったわけなんですが。
今度の店は、私にとって、銀座もとじにとって、とても重要な店舗になると思っているんです。私は奄美から銀座にでてきて四半世紀、毎日が闘いだったし、いろいろな節目があった。いいスタッフといいお客様に支えられて伸びてきたんです。そして今再び、飛躍したい、そうした意味でこの店は次の時代の銀座もとじの礎になる店だと思っているんです。

稲生:

責任重大ですね。

泉二:

くれぐれも、よろしくお願いします。
ところで、今度の店にどんな物語を埋め込んでいただけるのでしょうか?

幻の名店「男のきもの」

稲生:

まだ、最終的なディテールは悩み、闘っている最中ですが、今回も私の持論である「店舗はメディアだ」という点は変わらない。
「男のきもの」で、泉二さんは店舗はメディアだというのを、ものの見事に実践されたし、初めての男のきもの専門店の登場にメディアも注目し、協力してくれた。

泉二:

おっしゃるとおりです。売り場で言えばたった7坪の店ですが、メディアの方々や、お客様の口コミで予想を越える好評を賜ったわけです。

稲生:

でも作ってまだ一年半

泉二:

その通りで、もったいないんですが……
「男のきもの」は幻の名店になる。〔笑い〕

稲生:

話を新店舗にもどすと、今回のコンセプトは「納屋とIT」。
簡単にお話すると、納屋といっても、決して納屋を作るわけではなくて、私の発想のきっかけみたいなもんです。
自然とか、やすらぎ、くつろぎとか、日本の世界に誇る工芸品である美しいきものの背景とか、そんな事を考えて空間をデザインしています。
例によって、使う素材にも許される範囲でこだわっている。ただ、納屋だけではこれからの店舗としては無理がある。やはり最先端のテクノロジーでの武装をし、効果も効率も考えていかなければならないというのがITの部分です。

泉二:

素晴らしお店を作っていただけそうで、今から楽しみです。
和織以来、稲生さんの素材へのこだわりは執念のようにも見えるのですが、今回の新しい試みはなんでしょう?

稲生:

誘導尋問がはじまった!
日本の古来の床に「たたき」という床があります。玄関や土間の床を土をたたいて固める事からたたきと言われ、人造石ともいわれます。
日本に古くからあった伝統的な左官技術です。もちろん木で貼った床でもない、石の床でもない。建物の中でありながら外のような床。
これをやらせていただきます。とても暖かく迎えてくれる床になると思います。
その他沢山、乞うご期待というところです。

ぎゃらりーというすごいアイディア

稲生:

今回の構想の中で泉二さんのギャラリー構想はすごい。

泉二:

私が単身、奄美から上京して商売を細々と始めた時には、殆ど誰も相手にしてくれなかった。もちろん泉二といってもだれも知らない、資金もない、だから店も持てない。それでも一件一件反物を持って訪ねて歩いたものです。
そんな自分の経験から、可能性のある人に機会を与える事ができないかと考えたんです。素晴らし才能があっても、やる気があっても発表する機会がない、場所がない。そんな人々にこの空間を提供したい。この空間で思いきり表現してもらいたいと思っているんです。

稲生:

和織でも有能な若者に機会を与えるという実験的な試みはいくつか、おやりになっていた。泉二さんのすごい所は、突然思いついたかのように見えるが、決してそうではない。男のきものも長年の実験を経ているし、このギャラリーもしかり。
私は今回のギャラリー構想は心から絶賛したい。次の時代を背負っていく人たちにチャンスを提供するというのはとてもすばらしい。
もうひとつは、小売店の形態としても新しい提案になるだろうと思います。

新店舗とIT

稲生:

新しい提案という事で思い出しました。新店舗とITの事を少しだけ、お話しておきましょう。
お店はお話しましたように、心安らぐ空間を意図していますが、必要な部分は最先端のテクノロジーを取り入れるべきだと思っています。
ショーウンドウのスクリーンで様々な映像をプレゼンテーションします。インターネットに直結することも可能です。
店内でも、イベントやセッションのためのスクリーンを用意していますし、お客様に随時ホームページを閲覧していただけるような環境も作ります。織物の組織を簡単に見ていただける、デジタルおもちゃも用意します。

泉二:

すごいですね。私たちが使いこなせるかどうかが心配ですよ。いつも稲生さんが言われるハードウエアとソフトウエア。稲生さんが作ってくださる素晴らし舞台で我々がどこまで演ずる事ができるかどうかが大きな課題です。
私としては、どこまでも提案し続ける店でありたい、銀座もとじでありたい。最初に申し上げましたように、今度のお店はいわば次世代もとじの礎になる店だと思っています。お客様へ、作り手へ、そして業界へと常に建設的な提案をし続ける店でありたい。

稲生:

責任重大ですが、なんとか皆さんに喜んでいただけるお店を作りたいと奮闘しています。

泉二:

どうぞ、よろしくお願いします。
今日はお忙しい時間をありがとうございました。

[対談日:2004/02/4 筆:瀧]