能楽師・片山伸吾さん|泉二の一口対談

第23回:能楽師 片山伸吾(かたやましんご)さん

片山伸吾さん
片山伸吾さん

<片山 伸吾 プロフィール>

観世流能楽師準職分。室町時代に能楽を大成した観阿弥・世阿弥の伝統を受け継ぎ、能楽五流派のうちで最大規模を誇る「観世流」に属している。父は観世流能楽師・片山慶次郎、伯父は人間国宝の九世九郎右衛門。父は観世流能楽師・片山慶次郎、伯父は人間国宝の九世九郎右衛門。映画「宗家の三姉妹」や舞台「源平の嵐」への出演、歌舞伎の市川右近との共演といった異なるジャンルとのコラボレーションや、海外での公演などにも意識的に挑戦している。

場と環境

泉二:

今日はお忙しい中、ありがとうございます。この度は、仕事の関係者からのご縁でこのような会(※銀座もとじ1月19日開催「能へのいざない」)を開かせて頂くことができ、本当に感謝しております。

片山:

こちらこそ、ありがとうございます。一人でも多くの方に、舞台に立つ立場から「能」を紹介する機会をくださり、私自身この会をとても楽しみにしております。

泉二:

いやいや、恐縮です。

泉二:

片山さんは、能楽師の中でも師匠筋のお家柄にお生まれになられ、そのような環境の中で育ったことを意識されたことはありますか。

銀座もとじ ぎゃらりー泉にて
銀座もとじ ぎゃらりー泉にて

また思春期の多感な時期、将来能楽師として歩んでいくことに迷いなどはなかったのでしょうか。

片山:

まわりが仰るほど特別な意識はないというのが本当のところです。ある意味、職業に対する自分の意識以上のところに、継承するということがあると思っていました。どんな仕事でも大変なことは一緒。「能楽師」というものも一つのジャンルに過ぎないと思っています。ただ生まれようと思っても生まれられない環境に自分が存在することの責任はあります。「餅は餅屋」であることの長所を引き延ばすことが、最も自分が力を出せる、あるいは出しやすいのではと思い、この道を選択しました。

泉二:

片山さんは、お若いのに頭がさがります。私は若い時にがむしゃらに突っ走ってきましたが、この歳になり己を知りこれからは己の分を極めつくしたいと思っています。辿ってきた道のりがあり、それを振り返りかつ自覚をしながら一歩一歩、歩んで行きたいと考えます。

主観と客観

店主泉二

泉二:

私は初めて能を観たとき緊張で全身に力が入り、終演後とても疲れた苦い経験があります。その時に、能の世界観は世俗とかけ離れた印象を感じたのですが。

片山:

現実と敢えて「距離」を置くことによって、人は自分を客観的に見つめ直すことができます。世界観が離れているというよりは、その距離をもって「考える」という時間を持たせる、「能」とはそんなジャンルだと思います。

泉二:

「距離」ですか。そう捉えると現在とつながっているものなんですね。
最近になり、私は能を拝見すると演者の向こうに広がる静寂の中で自分自身の心と対話しているような気分になるのですが。

片山:

「能」は芝居の中でも最も空間を重要視するジャンル。それは演者同士や、演者対観客など、様々なやりとりを醸し出します。当然観客自身の中にも空間が存在し、対話をしている気がすると思われるのだと思います。

泉二:

見えないものとのふれ合いなんですね。

伝統と創造

泉二:

将来、片山さんは能をくらしの中でどのようなかたちで根付かせていきたいとお考えですか。

片山:

日本人が忘れている繊細な美意識は、やはり「和」のジャンルから学ぶことが多いものです。きっかけはどうであれ、我々日本人は、一時期のブームに終わらず、絶えずもっと「日本」を意識しなければ いけないと思います。

片山伸吾さん
片山伸吾さん

それが「能」であれ「歌舞伎」であれ、はたまた「茶道」や「華道」など、自分の肌にあったものから学んで欲しいと思います。それも一つではなく、二つ以上のものに傾倒することによって、「日本」の心は、何十倍にも理解出来るようになると思います。「能」がその中の一ジャンルとして存在出来れば嬉しいです。

泉二:

二つ以上のものですか。そうすれば現代では知りうることのできないつながりを発見できる喜びにもなりますね。
片山さんは海外での公演なども積極的に取り組んでいらっしゃいますが、今後どのような活動をお考えか差し支えなければお聞かせ頂きたいのですが。

片山:

ベルギーのブリュッセルにグランプラスという石畳の広場があるのですが、四方にギルドハウスがあって、ヨーロッパで最も美しい広場と言われています。7年ほど前にベルギーを訪れた際、たまたま「オメガング」という中世ヨーロッパの変遷を表現する時代祭がグランプラスであり、知人の計らいで市庁舎のバルコニーという特等席から見る機会を得ました。その美しさがとても印象に残っていて、いずれこの「グランプラス」で舞ってみたいと思っています。夢ですがいつか実現させたいですね。

泉二:

美しさからエネルギーをもらって創る喜びにかわるのですね。風が吹いて、舞う姿がどこまでも広がってゆく光景が目に浮かびます。自然と人間のふれ合いを是非、実現されてください。

心得

泉二:

世阿弥語録には私たちの現実社会の中でも大いに役立つ教えが数々ありますが、片山さんが普段の生活のなかで心がけておられることを教えて頂けないでしょうか。

片山:

ありきたりかもしれませんが、「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」という言葉はやはり多くの教えを凝縮したメッセージだと思います。人を感動させるには、意外性だけを繰り返すのでは意外性にならないのです。場面場面に応じた人の心理を追及する事が、結局は人をもてなすことにつながると信じています。

泉二:

人をもてなすということ、そのお心には感服いたします。私もお客様をもてなす時に生まれる感謝の心を常に大切にしていきたいと思っています。
まだまだお話が尽きませんが、この続きは1月19日の「能へのいざない」でお伺いしたいと思います。今回は能楽師の片山さんから能の観方をご教示頂けるわけですから私もお客様と一緒に勉強させて頂きます。どうぞよろしくお願い致します。

片山:

こちらこそよろしくお願い致します。お客様に能を観てみたいと思っていただけるように心豊かな会にしたいと思います。

—対談編集後記—
私はこの度の片山氏との対談で画家が自然を観て模写するように片山さんの精神を模写することを学びました。

[対談日:2007/01/08 筆:續久仁子]