型絵染作家・岩井香楠子さん|泉二の一口対談

第26回:型絵染作家 岩井 香楠子さん

<岩井 香楠子さん プロフィール>

横浜在住の型絵染作家。日本工芸会正会員。 父親が彫刻家、母親が「漆塗り」を得意とする芸術一家に生まれる。 幼少期から日本画を小倉遊亀女史に習う。 横浜国立大学生物学科卒業後、東京芸術大学美術学部日本画専攻に進み卒業。結婚し渡米。3年後に不慮の事故でご主人を亡くし帰国。着物の道に入る。着物コーディネイターとして修行をしつつ東京クラフトデザイン研究所に入学し染織を学ぶ。

岩井香楠子さん
岩井香楠子さん

その後人間国宝、鎌倉芳太郎氏に師事、「紅型」を学ぶ。修行の後、鎌倉氏より「日本画を学び絵が描けるのだから紅型に固執せず「型絵染」をするように」と勧められ現在の道に進む。「着た人を”美しく“”可愛らしく“する」事をモットーとした作品作りに励んでいる。2007年和光にて個展を開催。銀座もとじでは3回目の展示会となる。

3回目のチャレンジはオンリーワンへ

泉二:

2002年秋と2005年2月に岩井先生の作品展をして来ましたが、毎回好評で本当にありがたいと思っています。今回は3年半ぶりの3回目、8月末の晩夏です。残暑が厳しい折に大変だとは思いますが、お客様が楽しみに待っていらっしゃいますので、よろしくお願いします。

岩井:

毎回お心に掛けていただき本当にありがとうございます。銀座もとじさんでの展示会は私にとって重要な位置を占めているものですので、毎回、真摯に向き合っています。それにしても今年はものすごいチャレンジの春夏になりました(笑)。銀座もとじさんの展示会用作品作りと伝統工芸展の出品作品作り、そして「絶対に無理! 」と申し上げていたのに白生地が送られてきてついついその魅力に引き寄せられて引き受けてしまった「プラチナボーイでの作品作り」と大きな山を3つも抱えてしまいまして。途中でやり切れなくなりそうで、引き受けた自分の強欲さに自己嫌悪になり、もう死にそうな状況で過ごしていました。身体にだけは気をつけて絶対に良い物を作ろうと遮二無二頑張った数ヶ月でした。

岩井香楠子さん(左)と店主 泉二(右)
岩井香楠子さん(左)と店主 泉二(右)

泉二:

ありがとうございます。ご無理をさせて申し訳ありませんでした。店のペースとしては前回の展示会から3年が経過して、そろそろ開催させてもらいたいなあと思う時期だったのですが、先生は昨年春に和光で個展をされた後なので今年はちょっと無理かなとは思っていたのです。

が、販売担当の社員達から「お客様も待っているし私たちも待っています。是非岩井先生の作品展を企画してください。お願いしてください。」と言う要望がどんどん出て来てしまって(微笑)。ご無理は承知でお願いした次第です。

岩井:

必要としていただけることは作家として本当に有難いことなので頑張りたいと思いました。それに2005年2月に和染で2週間近くさせていただいた「春爛慢! 2005」展の成功が和光展を呼び寄せたのですから、泉二社長には感謝、感謝です。今回は3回目なので新作も含めて30点の帯と数点の着物を作りました。あとは今までの作品の写真や今回の作品を参考として頂きながら、前回も少しさせていただいて好評を得た「オンリーワンのお誂え」を承りたいなと思っています。

泉二:

今までもお客様のご要望に合わせて個別にご相談し作っていただいたり、2005年2月にもお誂えを受けていただいたりしましたが、今回は「オンリーワン」を前面に出しての展示会になりますね。

岩井:

はい。泉二社長に我儘を聞いて頂いて本当に嬉しいです。『今なら表現できる』『この時期を逃したら次は無い』と思っているんですよ。私の体力と気力とやる気と色々な経験から出せるようになった様々な色の世界を駆使して頑張りたいです。 泉二社長が店舗経営で「同じことをしていたら飽きられる」「新しいことにチャレンジすることが大切」と仰っていらっしゃいますよね。これは、私達作家にも言えることだなって思うんですよ。まして私みたいに「実用を兼ねた着物を作りたい」「使って頂く着物を作りたい」と思っている作家は2005年2月と同じことをしていたら進歩がないですから(笑)。3年もの歳月が経っているので、それなりの私の成長もお見せしないとね。

泉二:

先生は益々勢いのある作家に成られていますね。こちらも社員一丸となって頑張らないといけませんね。

岩井:

(笑)。お客様お一人おひとりの「勝負着物」「勝負帯」って言ったら変な表現かも知れませんが「ここ一番! ! 」に身に着けられるものを作りたいですね。「お客様が着たいと思う時期の着物や帯を、着る場所に合わせて、その方に一番似合う状態に仕上げたい」って言うのが今回の私のテーマです。着物と帯のトータルでの製作も承ります。

泉二:

まさに洋服で例えるならドレスとサッシュベルトみたいな感じですね。先生が作られる着物や帯はトータルコーディネイトで作った物であっても、別々にしてお手持ちのお着物、帯にも合わせられるというのが強みですよね。

オンリーワンに掛ける思いは

泉二:

型絵染と一言で言いますが、先生の作品は同じ型を使っても同じ色合いに出来たことはないですよね。それぞれ1点1点が「1点物」に成っていると思うのですが。

岩井:

仰るとおりです。型があっても色挿しはすべて人間がするのでその時の状況で同じ物には絶対になりません。100点作れば100通りの挿し方があると言って過言ではないのです。それが手作りの味でもありますよね。

岩井香楠子さん
岩井香楠子さん

それに私はまるっきりコピーの様に作るのは鮮度が落ちるから嫌いですね。

岩井:

そうですね。コピーの様に作るのなら、今は便利なパソコンもありますし、プリントで良いのです。人の手を使って作るものにはそこに命が欲しいですね。生きている証というのでしょうか。先生の作品は「生きている」から「鮮度」もいい。「身に付けると元気になる」と言うお客様が多いですね。

岩井:

ありがとうございます。そう言って頂けるのはとっても嬉しいです。

岩井:

ところで、先生はお客様とお話しされて下絵を描いていくことがお好きというか得意ですよね。

岩井:

ええ、そうですね。得意とは言いきれませんがお客様とお話しするのは好きですね。その人の好みとか特徴とか好きな色とか色々聞いているとイメージが湧いてくるのです。気に入って頂ける物を考えに考え抜いて作るのは大変ですけれど、お客様の喜ぶ顔を想像すると楽しくて、楽しくて。引き受けて良かったって心底思うんです。こういう時に作家の醍醐味を感じますね。

岩井:

前回の展示会の折はお客様とのお話や誂えのご相談を受けてくださってとうとうお昼ご飯が抜きになってしまった時もありましたよね。

岩井:

はい。気付いたら夕方になっていて、もとじさんのスタッフの方が心配して用意してくださったおにぎりを控室の隅で頂いてなんていう日もありました。でもあの時は販売員の殆どの方がそんな感じだったので「辛い」とか「大変」とかは思いませんでした。夜にはへとへとに成っていましたが、一日がとっても充実していました。泉二さんの社員さんはみんな頑張り屋さんですよね。あの時心底感心しました。

泉二:

ありがとうございます。みな着物が好きでお客様が好きで入社して来ていますから頑張ってくれるんですよ。それにみんな岩井先生の作品が好きだからより力が入りますよね。

岩井:

ありがとうございます。

着物のお誂えは2度の相談を

泉二:

今までお着物のお誂え時は2度の相談日を設けてくださってましたが、今回も同じように考えていらっしゃいますか?

岩井:

はい。帯は一度のご相談でお客様も出来上がりのイメージが付きますから出来ますけれど、着物は全体に大きいものに成るのでお客様の不安もとても大きいと思うんです。それに下絵だけでは想像し難いですから2回のご相談日を設けていただこうと思っています。2度目は私の方で型絵染の試し染めをご依頼された生地見本に染めつけて行きますから、初めてお誂えに臨む方でも安心していただけると思っています。過去に銀座もとじさんで「着物のお誂え」を承ったお客様からも「最初は不安だったけれど2度目の相談時に色見本が見られて出来上がりがイメージ出来たから全く不安がなくなって出来上がりが楽しみになった」と言う声を聞いたので、安心して楽しみに待っていただけるように2度の相談をしていこうと思います。その分手間と時間はかかりますが、お客様の喜ぶお顔がみたいですし、喜んで頂きたいので労は厭わずに頑張りたいと思います。

着物作りに目覚めたきっかけは?

泉二:

古いお話になりますが、先生が着物に目覚めたきっかけはなんだったんですか?

岩井香楠子さん
岩井香楠子さん

岩井:

海外で生活した3年間の体験からですね。当時海外駐在で出掛けていまして主人が団長みたいな存在だったのです。ですから何処へ行ってもパーティとかございまして。あちらでは夫婦同伴ですからね。一生懸命お洒落しました。

けれど私のように小柄で日本人体型、地味な顔立ちのものにはドレスは似合わないんですよ。どんなにお洒落をしても「メイド」みたいに見られちゃうんです(笑)。鏡に映ったドレス姿の自分を見て愕然としまして(笑)。そんな折に持参していった着物を引っ張り出して着て出掛けたのです。そしたら扱いが全く違った。それこそある日突然「メイド」が「最高級のおもてなしを受けるゲスト」に成っちゃったんです。そこで改めて日本人には着物が似合うと自覚しましたし、着物をファッションとして楽しんで綺麗に着て貰って女性達にとって身近な物にしたいと思ったんです。

泉二:

なるほどね。同じ経験が私にもありますよ。海外に行った時に同じお店に洋服と着物と服装を変えて2日間出掛けたんです。洋服で行った時なんて本当に扱いが邪険でしたよ。お店の隅の目立たない所に案内されてね。それが翌日着物を着て袴を着けて行ったらもう下へも置かない扱いです。一番良い席に案内されてサービスも全く違いました。私も日本人の着物姿に改めて力と魅力を感じましたね。

色々な体験が新しい色を生む

泉二:

ここ数年は先生もプライベート面で色々と大変だったとか。お母様も亡くなられたんですよね。

岩井:

はい。息子が3歳の頃からずっと面倒を見てくれた母なんですけれど、とうとう他界しました。年齢的にはもう別れが来て当たり前の年齢だったんですけれど、存在自体が大きかったので寂しさは一入でしたね。また色々とご縁の深かった方も鬼籍に入られて。

岩井香楠子さん
岩井香楠子さん

辛い歳月でした。でも私は逆境に強いと言うか「追い込まれると燃える」と言うか。そんな人間みたいで乗り越えてきました。

泉二:

和光展の時は随分お痩せに成っていて私どものお客様をご案内した時には「先生、お身体大丈夫かな」って心配していました。けれど作品には勢いがありましたよね。色遣いも今までとまた少し変わっていて迫力がありました。

岩井:

親しい方に言われるんです。「岩井さんは仕事をしていないと岩井さんじゃないね」って。辛いことや苦しいことがあると作家の性でしょうね。一心不乱に物作りをしている自分がいるんです。辛さから逃げるというのではないのですが、物作りが心の支えになって新しい力を与えてくれるんですよ。で必死になって作り上げたものが「新しい色彩の世界」に成っていて。結果今までの自分と違った作品を作り出しているんです。私は、逆境に強いのかもしれません(笑)

泉二:

逆境に強いというより、「向上心が絶えずある」って言うことだと思います。私もいつも「もう駄目だ」と思うことにぶつかると、一方で「よっしゃ、負けてたまるか! やったるで! ! ! 」って言う思いがふつふつと湧き上がるんですよ。そうやってここまで来たんですよ。 今回の展示会も是非とも成功させたいですね。 先生も夏バテに気をつけてよろしくお願いします。

岩井:

こちらこそ、「お誂え」を中心に置かせていただくので気力、体力を充実させて伺います。よろしくお願いします。

[対談日:2008/07/20 筆:荒井博子]