小紋師・藍田正雄さん(第一回)|泉二の一口対談

第31回:小紋師 藍田正雄さん

藍田正雄さん

泉二:

お久しぶりです。この度はこの展示会に向けて本当に寝食も惜しんで作っていただきありがとうございます。藍田先生ご自身もご体調の良くない中、奥様の体調の事もありで、本当にお時間のない中ご無理を申しあげました。

藍田:いえいえ、こちらこそ私の都合で泉二さんの気をもませてしまって本当に申し訳なかったです。泉二さんには本当にお世話になっているので、出来る限りの事はしたいと思っていたのです。

泉二:

本当にありがとうございます。展示会の日程を延ばすことも考えていたのですが、先生から「大丈夫。頑張るから」と言っていただいてそのまま進めてしまいました。

藍田正雄さん
藍田正雄さん

藍田:

お正月明けにプラチナボーイの反物を預かってから弟子の愛郎と二人で必死になって作りました。「平成の巻見本帳」だけが出来上がるかどうか最後まで心配だったんですよ。でも目処がついて良かった。

裄の部分を1尺1寸に

泉二:

今回作っていただいた反物の中に、ものすごいものを見つけて社員一同で「おお! ! 」とため息をついてしまいました。裄の部分だけ型紙がずらしてあって、あれすごいですね。

藍田正雄作 江戸小紋 毛万二つ割
藍田正雄作 江戸小紋 毛万二つ割

藍田:

ありがとうございます。今回の挑戦の一つでしたね。泉二さんの所に江戸小紋を出すと必ずと言っていいほど男性のお客様のご注文を頂くでしょう。それが自分の中で新たな挑戦になって行ったんですね。今までだったら型紙を見て「女性物」しか考えなかったのが、泉二さんとお付き合いするようになって「これで男物があったら良いな」なんて考えるのがだんだん習慣になって来て。

けれど男物は作りたくても、一尺以上の横幅のある伊勢型紙が無くてね。そうなるともうお手上げ。
以前から「男物に良いな」と思っていた縞柄の型紙があったんですよ。でもこの型紙では一尺一寸の幅は作れない。でも、泉二さんのお店にいらっしゃるお洒落な男性に是非着てみて欲しいと思いましてね。それならダメ元でやってみようとチャレンジしました。

泉二:

すごいチャレンジですよね。一ミリでも型置きを間違えたら1反すべてがおじゃんですものね。以前、藍田先生に、江戸小紋の職人は「型付3年、糊4年、ヘラ9年でまだ足りない」と言われるんだと聞いて、本当に厳しい世界だなあと思っていました。
今回の出来上がった反物を見て、通常の1反を染める仕事でも大変な中、すべて型を置いた後に、今度は横に型置きでしょ。よく挑戦してくださったと思います。

藍田:

ありがとうございます。そう言っていただくとやったかいがあります。仰る通り、私達は、伊勢型紙を1反約13メートルの間に繰り返し縦に動かしては行きますが、横に動かすという習慣はないんですね。当然職人だけが分かる型紙にある目印も縦置き用なので使えない。全部型置きした後、もう一度神経を更に集中して、型紙を横に「5分」ずらす。
一分の狂いも許されないので本当に無風状態で、息も止めて、真剣勝負で置きました。型紙を置いてやっとふっと息が吐ける感じでしたよ(笑)。

藍田正雄さん
藍田正雄さん

泉二:

そうでしょうね。見事! としか言いようがないです。お客様もこれを見て感動すると思います。先生の情熱が作り上げた反物ですよね。

藍田:

そう言ってもらえると嬉しいです。是非、着て欲しいですね。

伊勢型紙を残す為に

泉二:

前回の展示会の折には先生が10年間務めていらっしゃった伊勢型紙の保存会から型彫師の方にお越しいただいて実演もしていただきましたが、本当に緻密な作業ですぐに作れるものではないですよね。

伊勢型紙
伊勢型紙

藍田:

そうなんですよ。型彫師達も高齢化になって来て次の世代がいないんですよね。これは江戸小紋の危機的状況だと思っています。型紙は5枚セットで作りますが一番上と一番下は彫が鋭角になり過ぎたり、浅すぎたりして使えないんですよ。だから実際は3枚。貴重ですね。

泉二:

先生のところには沢山の型紙がありますね。見せていただいただけでも数え切れない。でも先生と愛郎さんは「以前のあの柄が」と私達が言っただけでさっと出してくる。すごいですね。

藍田:

型紙は江戸小紋師の命ですから。型紙の中には糸入れした糸も切れてもう使えないものもあるんですけれど、見本として大切に保管しています。将来、愛郎達がそれを元に伊勢に行って新しく型紙を作る時の参考になりますから。

弟子と共に歩み次世代を作る

藍田:

今回、昨年私の工房から独立した弟子の菊池宏美が作った反物も一反置かせていただきます。彼女も張り切って作っていました。こうやって発表するチャンスがある事は作り手にとってとっても嬉しいですし、有り難い事です。

泉二:

ぎゃらりー泉はそういう作り手に光を当てることを目的として作った場所ですから是非是非使って欲しいです。菊池さんが「銀座もとじ」が自分のスタートラインと言ってくれているそうでそれも嬉しいですよ。

藍田正雄作 江戸小紋「極鮫」
藍田正雄作 江戸小紋「極鮫」

藍田:

ありがとうございます。菊池が独立するとき、彼女の親御さんがとっても応援していてね。彼女は小さい工房からスタートしようと思っていたようですが、仕事道具一式揃って場所も広くとった工房が出来上がって、彼女が「本当に私は恵まれている」と感激していました。そして最初に作った反物を銀座もとじさんで扱ってもらえる。本当に感謝していました。

泉二:

独立したお弟子さんが一からスタートして行くのを見るのは嬉しいですね。うちも跡取りがやっとよちよち歩き出したので、次の世代を育てることに私自身も必死です。小売店は作り手と買ってくださるお客様がいらして初めて成り立つ場所ですから。

藍田:

そうですよね。江戸小紋も伊勢型紙を作る職人がいて初めて作れるし、纏ってくれるお客様がいらしてまた次が作れる。若いころ私は自分の作った反物の行き先が決まらなくて、家にどんどん積まれて行くという本当に悲しい経験をしましたから。

泉二:

私も自分一人で始めた商売でしたから、今日まで色々とありました。 だからこそ次の世代は大切に育てたいですね。

弟子の愛郎さんと
弟子の愛郎さんと

藍田:

はい。私もそう思っています。私の弟子の菊池と愛郎は良い意味でお互いがライバルなんですね。そして同じ気持ちで物づくりをする大切な同志でもある。二人が相談したり、また相手の作るもので刺激を受けて新たに頑張ったりで本当に切磋琢磨していますよ。

泉二:

良いですね。私の息子も自分と同世代のスタッフが増えて来たので 良い意味で刺激を受けてくれればと思っています。

藍田:

今回の展示会企画を頂いた当初は「藍田正雄と師弟展をしてはどうか」と言っていただいて、それもいいなと思っていました。愛郎も渾身の一反を作る事を考えていたのですが、実は工房内で長年アシスタントに徹してくれていた愛郎の母親、田中正子さんが年始明け早々に転倒して骨折してしまいましてね。入院しちゃったので全く仕事が出来なくなって。そんなこんなで愛郎も私の仕事のアシストに徹する事で歳月が過ぎてしまい、結局、愛郎が一人で作り上げるものに取り掛かれなくてね。

泉二:

そうだったんですか。それは大変でしたね。でも愛郎さんと菊池さんにはまだまだチャンスはありますし、私達も次回を楽しみにしていますので。

銀座もとじで平成の巻見本帳をつくる

泉二:

今回ぎりぎりまで粘って作ってくださったプラチナボーイでの巻見本帳、素晴らしいですね。

藍田:

ありがとうございます。どうしても今作っておきたかったんですね。昭和までは江戸小紋の巻見本帳があったんですが、それも今では博物館とかに保存されている端切れしかない。それじゃ手に取る事が出来ないし、手に取ったとしても顔映りとか着た感じが全く想像できないでしょ。

藍田正雄作 江戸小紋 木賊縞ぼかし
藍田正雄作 江戸小紋 木賊縞ぼかし

だから私はどうしても皆さんが手にとって身に付けてみて着た姿を想像できる2尺の長さの巻見本帳が作りたかったんです。それもお世話になっている泉二さんの所でね。それが今回出来上がった「平成の巻見本帳」なんですね。
泉二さんがプロデュースしている貴重なプラチナボーイの白生地を1月半ばに一反頂いたので、本当に思う存分良いなと思う型を選んで一生懸命染め上げました。皆さんが是非手にとって見ていただけたら嬉しいです。

泉二:

素晴らしいですよ。これから同じ見本帳を先生と私どもとで持っているわけですから、この見本帳から新しい江戸小紋を別注で作って行きたいですね。
新たな江戸小紋との出会いが生まれます。ありがとうございました。
今回の展示会も是非成功させたいですね。頑張りますから宜しくお願いします。

[対談日:2011/03 筆:荒井博子]