「人間国宝の染と織」展にて外舘和子さんのぎゃらりートークを開催しました

「人間国宝の染と織」展にて外舘和子さんのぎゃらりートークを開催しました
写真左から:店主 泉二、工芸評論家/工芸史家の外舘和子さん

2015年8月27日(木)〜30日(日)まで、銀座もとじにて『技の継承から創造へ 人間国宝の染と織 展』を開催。8月29日(土)には工芸評論家/工芸史家の外舘和子さんをお迎えし、人間国宝に認定された作家の方々の創意と個性、展示作品の見所や魅力について解説いただきました。

重要無形文化財保持者、通称「人間国宝」。このたびの企画展では、1954年にこの認定制度が誕生してから染織の分野で認定された40数名のうち、17名の作家の作品が一堂に会しました。 なかなか目にすることのできない物故者の逸品も展示され、店内はさながら美術館の様相。 その貴重で希少な作品を間近で目にし、手で触れ、纏うことのできる奇跡を感じながら、美しさを叶える高い技術や独創性、染織の歴史の中での価値などを伺いました。

森口華弘 ― 蒔糊による巧みな空間表現 <友禅>

「森口華弘さんといえば、蒔糊の第一人者。京都に蒔糊の作家が多いのは森口華弘さんの影響でしょう。 こちらは、森口さんが得意とした愛らしい梅のモチーフを、空間を贅沢に活かして表現した作品です。 梅の枝と枝の間を蒔糊で埋めていくわけですが、よく見ると密度が違う。きもの全体の中でのバランスを見ながら密度を変え、濃淡をつけているのです。

梅の枝ぶりと配置、さらに蒔糊の絶妙なさじ加減により梅の枝が手前に浮かび上がって見えます。 梅という具象を“絵模様”、絵と模様の中間的な表現でまとめているのは、まさに染織作家の才能。具象的な友禅が苦戦しているといわれる時代ですが、 色数が抑えられていて粋な印象もあり、現役の友禅作家の手本となる作家ですね。」
森口華弘作 訪問着
森口華弘作 訪問着

福田喜重 ― 刺繍の美を引きだす地色の美しさ <刺繍>

福田喜重作 訪問着
福田喜重作 訪問着
「日本人にとって刺繍というのは神聖なものであり、飛鳥時代から礼拝の対象となるものでした。 その刺繍の長い歴史の最前線にいらっしゃるのが福田喜重さんともいえます。 刺繍は、その部分だけにクローズアップして見てももちろん美しいけれども、 福田喜重さんは、きものという全体フレームの中でいかに活かすかにこだわっていらっしゃる。 そして色が素晴らしい。 思い通りの色を染め出すために、自然光の入る工房で、自ら染色されています。 世界的に見ても、日本の染織作家ほど“色”を大事にしている作り手はいません。」

鈴田滋人 ― 一人の作業が世界観を完遂させる <木版摺更紗>

「四角い版を模様の一単位として何万回にもわたり、ひと版ひと版、腰を入れて押していく繊細な作業の積み重ねで作られています。 海外にも木のブロックを用いた染め技法はありますが、日本の木版摺りは繊細で軽やか。 こちらは、鈴田さんらしい明るい色調、構成、リズムが、見事に表現されています。

朗らかで明るい、素直なお心を持っていらっしゃる方なのではないかと思わせる作風ですね。 鈴田さんは、すべてご自身で版を押される。理由を伺うと『もし誰かに頼んで押し間違えたら許せないから』と。 かつて、日本の染織の現場は分業が基本でしたが、大正以降、ひとりの作家が手掛ける工程が増えました。 それによって、制作途中で自分の判断を盛り込むことができ、一人の作家のイメージ、世界観をダイレクトに作品に反映できるようになったわけです。」
鈴田滋人 訪問着
鈴田滋人 訪問着

北村武資 ― 色の「役割」を考え抜いた格調 <羅/経錦>

北村武資作 袋帯
北村武資作 袋帯
「染織の分野で2つの項目で認定を受けているのは、2人だけです。 “羅”はもじり織の一種ですが、かつての技法の再現に留まらないアレンジを加え、現代に甦らせています。 “経錦”で注目いただきたいのは、その色彩感覚の素晴らしさ。 どんな色でもその色の役割を最大限に発揮させるのです。 例えば、黄色系とグリーン系を使うとしたら、どのトーンの黄と緑が互いに一番映えるか。 どの程度の金が添えられれば、この色が品よく、あるいはかっこよく映るかを、緻密に計算し尽くしていらっしゃる。

天性のものもあると思いますが、15歳から西陣で積んだ経験が 隙のない、破たんのない、非の打ちどころのない世界を作っているのでしょう。 “どうせ締めるならこういう帯を締めたい”と思わせる、格調高い、人間国宝らしい作品を作られています。 その上、勉強熱心で謙虚な方なのです。以前、お会いする前には私の本も読んでくださっていました」

山田貢 ― 黒地に白く抜ける糊置きの美しさ <友禅>

「実は山田貢さんの黒留袖の現物を見るのは初めてです。 糊防染の手描きならではの柔らかいライン、白く抜ける部分と黒地との対比が生きていますね。どう糊を置いて白く抜くかが友禅作家の個性であり、醍醐味でしょう。 実は、反物に落款を記し、作家として友禅を作っていくという考え方を初めて強力に示したのが、師匠にあたる中村勝馬さんと山田貢さんです。 昔は、反物に作家の落款を入れるという発想は受け入れられませんでした。お客様の名前や家紋を入れるという考えはありましたが、 作者の名前を入れるなどとんでもない、と。 落款は、きものの出来栄えに関して責任を負うという表明、自分の世界を伝えていくんだという意志の表れですね。」

会場には、山田貢さんのお嬢様で染織作家の萩原いづみさんの姿も。
「私も久しぶりにこの作品に出会いました。きれいに残っていて驚きました。  色合い、柄とも、とても父らしい作品だと思います」
さらに、中村勝馬さん、山田貢さんに師事されていた染織作家・高橋寛さんも来場されていました。
「山田先生には糊の置き方から教わり良くしていただきました。 今日はとても感動しています」
山田貢作 黒留袖
山田貢作 黒留袖

二塚長生 ― 糊で魅せるダイナミックな自然の動き <友禅>

二塚長生作 訪問着
二塚長生作 訪問着
「二塚さんは、友禅の分野では比較的新しく認定された作家です。 美術館にあるべきものが、きわめて親しみやすい場所にあることに驚いています。 こちらは“雲”というタイトルの作品で、海原を感じさせるような、雲が大気を包み込みながら移動している様を、 きものという枠を最大限に活かしてダイナミックに表現しています。 二塚さんの工房のある日本海の気分が伝わってくる作品ですね。 ワントーンの作風で、糊をどう置くかで勝負したもの。 かすかに地域性を反映させながら、友禅の面白さを思い切って表現しています。」

玉那覇有公 ― 鮮やかな沖縄の色彩と型の切れ味 <紅型>

「沖縄の豊かな風土から、豊かな染織が生まれています。 からっとした気候や日差しの強さが、鮮やかな色を着たくさせる、鮮やかな色を使いたくさせるのかもしれません。 こちらの作品は、型の切れ味、型の連続性を活かし、強い色をうまく文様化して、沖縄らしい、玉那覇さんらしい柄を染めだしています。」
玉那覇有公 九寸帯
玉那覇有公 九寸帯

喜多川俵二 ― 大陸的な文様を日本の格調に昇華 <有職織物>

喜多川俵二作 九寸帯
喜多川俵二作 九寸帯
「有職の文様自体は平安時代の公家文化から続いているものですが、もともとは大陸から伝わった、はっきりとした大胆な柄でした。 そのエキゾチックで強烈なインパクトのある柄を、色の配色を和らげ、日本人になじみやすく変化させて表現しているのが、喜多川さんの作品です。 しかし、紋様本来の強さや豪華さは締めたときのポイントとなり、格調高い印象をもたらしてくれるのが魅力ですね。」

佐々木苑子 ― 飄飄とした愛らしさと知性 <紬織>

「ご本人も知的な環境で育たれたせいか、作品にも飄飄とした、文人的な気分が宿っているような気がします。 作り込まずにモチーフの魅力をさらりと伝える、知的な絣表現。 絵絣という非常に難しい技術を駆使しながら、それを強調しないでさらりとやわらかく表現されています。愛らしさと知性の両方を楽しめる作品ともいえるかもしれません。 色は多色使うこともあっても、決して饒舌にならない。毅然とした、客観的な視点を持った作家だと思います。」
佐々木苑子作 九寸帯
佐々木苑子作 九寸帯

細見華岳 ― ストイックな中に光る優美さと華やかさ <綴れ織>

細見華岳作 八寸帯
細見華岳作 八寸帯
「綴れ織というと、重厚で華美なものが多くありますが、細見さんの作品は色を限定し、 ストイックで控えめな中に優美さを表現しています。 綴れ織が持つ文様の優雅さを、大事なところだけに効果的に用いる。 この作品では、ピンクと金が効いていますね。 控えめな華やかさは写真では伝えきれないかもしれませんが、 締めたときにあらためて幸せな気分になれる帯ではないでしょうか。」

森口邦彦 ― 着姿を緻密に計算した大胆さ <友禅>

「お父様の森口華弘さんの具象的な表現とは違い、幾何学的な文様を描いている森口邦彦さん。

一見、幾何学的で抽象絵画のような世界に感じるのですが、実は “この線をここに持ってくることで、着たときにスタイルがこう見える”というような、 緻密な計算がされているのが、森口さんの作品。 きものを広げたときにはダイナミックな図柄でありながら、実は着用した際の着姿を考え抜いてデザインされているのです。 こちらの作品も、身頃の中央を白くあけていますが、きっと森口邦彦さんの計算があった上でのことだと思います。」
森口邦彦作 訪問着
森口邦彦作 訪問着

平良敏子 ― 伝統柄をモダンに再構成 <芭蕉布>

平良敏子作 九寸帯
平良敏子作 九寸帯
「沖縄の暑い中でサラッとしたものを身に着けたいと、芭蕉布が生まれました。 糸芭蕉という葉の大きな植物の幹の部分を剥いで糸にした植物繊維の布です。 柄にはバツや四角など、伝統的な幾何学的な模様が並んでいますが、この記号の配列や色彩は、平良さんが工夫して考えたものです。 それぞれが意味を持つ記号のひとつひとつを、現代の作り手が再構成したことで、モダンな雰囲気の芭蕉布に仕上がっています。」

田島比呂子 ― 鳥の羽根一枚にも表れる個性 <友禅>

「ちょっとした鳥の線、羽根のデフォルメの仕方にも、田島さんらしさが表れています。

図案の段階でしっかりと緻密に構成して、抜かりなく作り上げているのが田島さんの作品。 友禅の作家で鳥を描く方は他にもいらっしゃいますが、どの鳥を見ても一目で作り手がわかるのが、山田貢さんであり、 田島比呂子さんなのです。 田島さんは、明度の高いきれいな色を好みます。 東京友禅の方は寒色系を使われる方が多い中、やわらかな暖色系を用いた現代的なトーンで作品作りをされていた作家ではないでしょうか。」
田島比呂子作 訪問着
田島比呂子作 訪問着

甲田綏郎 ― 立ち上がった時にわかるしなやかさ <精好仙台平>

甲田綏郎作 袴地
甲田綏郎作 袴地
「経糸に練り糸、緯糸には濡らした糸を打ち込んで織り出している精好仙台平。 袴にしたとき丈夫で、かつしなやかさがあります。 一点一点違う縞模様、繊細な縞の配置構成が生み出す、きりりとしたダンディズム。 座って立ち上がったときにすとんと皺が伸びて生地が落ちるのが特長です。 江戸時代、袴が重要だった時代から続く仙台平は、地元を背負って、 しっかり現代に引き継いで展開しています。 男性なら、人生に一度は仙台平の袴をお召しになってはいかがでしょうか。」