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染色作家・仁平幸春~東京都板橋区の工房を訪ねて~

2017年8月18日より、銀座・泰明小学校の「柳染め課外授業」でも長年お世話になっている仁平幸春さんの作品展が始まります。それに先立ち、昨年お引越しされたばかりの新工房を訪ねて、制作工程や今催事の作品の見所などを伺ってまいりました。

仁平幸春さんの新工房に初潜入!

ロウケツ染 仁平幸春さんの工房「Foglia(フォリア)」は、東京都板橋区の川越街道にほど近いマンションの一室にあります。白を基調としたすっきりとした室内にデスクとパソコンが並び、見上げれば部屋を横断して制作中の帯が数反。和紙を通して柔らかな自然光が入り、染料やロウケツ染のロウ一滴の跡もないクリーンな空間で、美しい作品の数々は作られています。
キッチンには染料や媒染剤、筆と並んで銀製のロケットのような大きな物体が存在感を放っています。これは染色後に色を定着させる「蒸し」の工程で使用する反物専用の蒸し器。個人の染色作家でも蒸し工程は外注する方がほとんどだそうですが、仕上がりへのこだわりから仁平さんは工房内で「蒸し」、またその後、生地に付着した余分な染料や糊などを落とすための「水元」作業も行っています。 「限られた空間を機能的に使いこなす知恵は、料理人時代に身につきました」 デザインから染め上がりまでのすべての工程(最後に反物を整える「湯のし」とロウを取る(脱ロウ)ための揮発洗い以外)に仁平さんの目が行き届いています。
色を定着させるための蒸し器 色を定着させるための蒸し器
奥は昨年に工房内独立された甲斐凡子さん。「親方」と机を並べて。 奥は昨年に工房内独立された甲斐凡子さん。「親方」と机を並べて。

料理人から染色家へ。ものづくりの視点は同じ

都立工芸高校のデザイン科を卒業後、小さな頃から好きだった料理の道へ進みイタリアンレストランで料理人として働く中で、「日本」を表現したいという思いが強くなり26歳で染色の世界へ。全くの異業界への思い切った転身と思ってしまいますが、ご本人にとってはとても自然な流れだったようです。素材からインスピレーションを得て自由に発想し、磨きあげた手技で形にする。扱う材料の特性以外に料理と染色は何も変わらないと仰います。
九寸名古屋帯 左:「青い月」 右:「草花タイルと格子柄」 九寸名古屋帯 左:「青い月」 右:「草花タイルと格子柄」
「違いがあるとすれば、染の作品はお気に召していただけなかった時に『お好みに合わなかったのかな』と考えることもできますが、料理は旨いかまずいか、それだけです。より厳しい世界かもしれませんね」

素材感、質感を求めて技法が生まれる

仁平さんと言えば、繊細な糸目友禅から陰影豊かなロウケツ染、大胆な染め分けまで手法もデザインも多岐にわたり、一人の中に何人の作家がいるのだろうと思わせる発想の豊かさに驚かされます。 常に新しい表現を模索される仁平さんの発想の源は「素材」。染色によって白生地のときよりもいっそう生地感、素材感が際立つような仕上がりを目指しているそうです。 例えば、染めのない生地場が生きる染め分けのデザインは、植物布などのざっくりとした素材の魅力をより引き立てます。また、ロウムラ染め(生地全体に薄くロウを塗ってから色を重ね、意図的に染めムラをつくりながら仕上げる手法)により、紬素材の生地の陰影が映え着姿をより美しくします。 ロウムラ染めの説明の様子 今回はプラチナボーイの変わり塩瀬の帯も3点制作いただいています。プラチナボーイの白生地からどんなインスピレーションを得たのか少し伺ってみると「生地が底光りするので発色が重厚になる」とのこと。また、良い生地は手をかけた分だけ結果に出るので、作り手の気分も乗り、より良い作品が生まれやすいと語ってくださいました。

その国の文化を理解して「和柄化」する

今回の催事では、大人の愛らしさが表現された更紗柄や花モチーフの作品をはじめ、ファンの間では「仁平のレース」として知られるヨーロッパのアンティークレース柄、新たにイスラム建築のタイル装飾をモチーフとした帯作品も登場。どの作品も魔法のベールがかかったかのように仁平さんの独特の世界観が貫かれています。その秘密の一つは仁平さんならではの「和柄化」にあるとのこと。
レース柄の作品(左)と糸目糊を置いた白生地(右) レース柄の作品(左)と糸目糊を置いた白生地(右)
異国のモチーフをそのまま採用しても、和装としては合わせたときに馴染まず浮いてしまう。ここでも大切になってくるのが「素材」感。例えばレース柄なら、そのままトレースしても「異国の違和感を楽しむ」というところで終わってしまいますが、形や柄と柄の間などを和のバランスに再構成して「和柄化」したものであれば、いろいろな着物に調和し、新しい和柄の展開ということになる、といいます。
例えば更紗柄も、インドの文化風土が作るリズムを日本的なリズムへとデザインの波長を整える必要があり、そのためにモチーフの中の微妙な隙間やラインの太細など、繊細な調整を行っているのです。
異国のモチーフを楽しむ
「個性的だけれども合わせやすい」 「ずっと眠っていた着物が仁平さんの帯でお洒落に蘇った」 お客様からそう仰っていただくことがとても嬉しいと仰る仁平さん。 一瞬で惹き込まれる存在感と、使うほどに手放せなくなる汎用性。相反するような魅力を併せ持つデザインは、感性と理論の両方が相まって生み出されています。

図案で8割決まる。トルソーで着姿を確認

トルソーで着姿を確認 フロアの中央で異彩を放つのが腕付きのトルソーです。衣桁ではなく、お召しになった時に最良のバランスで柄が出るように、帯や着物の柄を決めるときには、身頃、袖、八掛に至るまで必ずトルソーに図案を巻きつけ、人から見られる距離感で確認しながら修正していきます。 図案は家の設計図のようなもので、絵画と違い描き直しのできない文様染では最も重要。 作品の良し悪しは図案で8割が決まるといっても過言ではなく、正確に、かつ布への加工時にひらめいたことを取り入れられるように細かすぎないように作成するのがポイントとのこと。図案がしっかりできていれば、より制作時にひらめいたことを取り込めると仰います。

手染めでしか表現できないことを

着物人口が減り、生地プリント技術が進化を遂げていく中で、仁平さんは常に「手染めでしか表現できないこと」を追求し続けています。プリントの安価な着物によって着物を着る方が一人でも増えたら、それはそれで喜ばしいこと。手仕事の作り手としては、機械では表現できない奥深さを常に目指し、ひとりのお客様の心を満たす装いを求めて向上していかなければならない。ここでもキーワードとして出てくるのが「素材」です。 「日本ほど、素材を大切にしている国はないんです。着物を愛する、素材感を大切にする日本人に満足していただける作品を作る。それが手染めの価値ではないでしょうか」 日本には移り行く四季があるからこそ、素材の豊かさを愉しむ心が育まれ、その人々の心に応えるために染色家・仁平幸春さんは全霊を注いでいらっしゃいます。
栃尾紬 九寸名古屋帯 「染分け(銀座の柳染め)」 栃尾紬 九寸名古屋帯 「染分け(銀座の柳染め)」
進化し続ける仁平幸春さんの「今」が詰まった、「仁平幸春展」。 男のきものオリジナルコレクションでも人気を博している仁平さんの角帯ですが、今回も特別に2本お作りいただいています。古典から現代、大胆なものから繊細なものまで、奥深く幅広い仁平ワールドを余すところなくご紹介します。ぜひご期待くださいませ。

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