喜如嘉の芭蕉布 平良美恵子さんのぎゃらりートークを開催しました

写真左から:平良美恵子さん、店主 泉二
写真左から:平良美恵子さん、店主 泉二

2015年5月14日(木)〜17日(日)まで、銀座もとじにて『喜如嘉の芭蕉布展』を開催。

5月16日(土)と17日(日)には喜如嘉の芭蕉布の技術保持者(人間国宝)・平良敏子さんの義娘である平良美恵子さん、16日(土)には『和織物語』にて取材・執筆をしていただいた工芸ライターの田中敦子さんもお招きし、畑や工房の写真なども交えながら、芭蕉布の歴史や制作工程などについてお話しいただきました。
喜如嘉の芭蕉布 平良美恵子さんのぎゃらりートーク

「今時こんな美しい布はめつたにないのです。いつ見てもこの布ばかりは本物です。その美しさの由来を訪ねると理の當然であつて、どうしても美しくならざるを得ない事情にあるのだとさへ云へるのです」

『和織物語』と同様に、民藝運動の祖・柳宗悦が著した「芭蕉布物語」の一節の朗読で始まった、16日のぎゃらりートーク。

ありがたき當然の美 −−−− 稀有な美しさをたたえる布は、土地の自然と日々の営みの中から生み出されているということにあらためて感じ入る、充実した時間となりました。

昔は「家族」、今は「喜如嘉周辺のみんな」で作るのが、喜如嘉の芭蕉布。

喜如嘉の芭蕉布 帯作品
喜如嘉の芭蕉布 帯作品
重要無形文化財の指定を受けている「喜如嘉の芭蕉布」。単に「芭蕉布」ではなく「喜如嘉の」とつくのには理由があります。かつては各地で芭蕉布が織られていた時代があり、製法も柄も様々。敏子さんや美恵子さんたちが復興し継承しているのは、数ある中の「喜如嘉の」やり方であるという点を、この日も前置きとして話されました。伝統への敬意と、お召しになる方への誠実さを感じずにはいられません。

また、喜如嘉の芭蕉布の伝統は、喜如嘉周辺の人々によって守られているのであり、敏子さんや美恵子さんだけで成し得るものではないということも、いつも強調される点です。

「昔は、家族で作っていたの。おじいちゃんから孫まで総出で。だから、みんなで作るっていうのも、伝統の踏襲なんです」

喜如嘉には、モノづくりの原風景がある。

芭蕉布は「きものを着始めたときからの憧れだった」と語る田中さん。上布など他の夏素材とは違う芭蕉布ならではの魅力を伺うと、「糸そのものの色」「ツヤとハリ」さらには「健やかさ」という答えが返ってきました。

雑誌で見た喜如嘉の景色に一目惚れし、初めての沖縄旅行で向かった先は、どこの観光地でもなく、喜如嘉の芭蕉畑だったとか。モノづくりの原風景。風景とともにモノがある。喜如嘉の芭蕉布は、田中さんにとって「物作り王国・沖縄」の象徴的な存在であり、何度赴いても「聖地」であり続けると言います。

畑には0歳から3歳の芭蕉が混在
畑には0歳から3歳の芭蕉が混在

アオダイショウが出ることも。だから、診療所が休みの日は畑に出ない。

話のテーマは、原料となる「糸芭蕉を育てる苦労について」へ。スクリーンには青々とした芭蕉畑が映し出されます。広さ758坪の広大な畑に、0歳から3歳までの原木が混在。稲のように収穫期があるわけではなく、放っておくと5メートルにもなってしまう芭蕉を、常に手入れしなければならないそう。畑の周りには防潮堤のようなものが巡らされ、台風や高潮の心配が絶えない沖縄の自然の厳しさも垣間見えます。

「ミツバチ、スズメバチ、アオダイショウが出ることもあるわね。だから、畑に出るのは水曜日は避けるの。診療所が休みだからね」

美恵子さんは、サラリと言って笑います。

糸芭蕉の繊維は艶やか!
糸芭蕉の繊維は艶やか!
広大な畑といえども、土壌の質などが異なるため極上の繊維が採れるのはその中の一部。収穫した芭蕉から繊維を採り、糸にし、機にかける中で、人の手が触れるたびにごく自然に、糸をより分け、より分け、より分け、を繰り返し、強くしなやかな糸だけが芭蕉布に織り上がっていくとのこと。1kgの繊維が、きものになる頃にはわずか600gに。時間も手間もかかるけれど、繊維の見極めは布の丈夫さや着心地にも直結するため、妥協はできない。熟練の技術をもってしても、上質な糸を揃え、一枚のきもの分「12メートル50」のムラのない布を織り上げるのは至難の技なのだそう。

無数の小さな「コツ」を日々伝えていく。その積み重ねが「伝統」

喜如嘉の芭蕉布は1974年に国の重要無形文化財の認定を受け、2000年にはその伝承と後進指導が評価され、平良敏子さんも重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。

田中さんが初めて工房を訪ねたのは、その後のこと。「『人間国宝』という言葉により偶像化されていた」という敏子さんに会い、作業風景を目にし、その「何気なさ」「日常であること」に驚いたと言います。

喜如嘉の芭蕉布 着尺作品
喜如嘉の芭蕉布 着尺作品

芭蕉を育てるところから、一枚の布を織り上げるまでの、想像さえ難しい果てしない作業工程。その一つひとつの技術は、「ここはこうした方がいいのよ」といった、さりげないやりとりによって受け継がれているとのこと。

「次の人に、さりげない工夫を教えて、さりげなく続くのが伝統なんです」

伝統も「進化」し続けている。サンプル帳も10年ごとにリニューアル

工房には、染色の工夫などを書き記したサンプル帳があり、その内容は約10年のサイクルで見直しているそうです。

大切なサンプル帳
大切なサンプル帳
「流行は考慮するけれども、流されない。例えば『茶色』は流行っていないからと染めるのをやめたら、技術が途絶えてしまうでしょ。そういう時は『色味』を変えるの」

過去の文献を紐解き再現するのと同時に、現代の装いに合った工夫も怠らない。伝統を守るための進化。懐かしさと新しさが同居する魅力の理由が、少しわかったような気がします。

「着る漢方」「着る薬」とも表現される喜如嘉の芭蕉布。農薬を使わずに育て、福木などの植物染料のみで染色し、すべて手作業で織り上げる、真に健やかな布。

一反一反表情が違い、丁寧に績まれた小さな節には、手作りのぬくもりを感じます。その中には、御年94歳の敏子さんが結んだ節もあるかもしれません。

「きっと、敏子さんが元気に働ける環境を、周りの方々がつくっているのですね?」

以前スタッフが尋ねたとき、美恵子さんは即座にこう言われたそうです。

「いいえ、本人の強い意志でやっていることです」

喜如嘉の芭蕉布の美しさを司どっているのは、喜如嘉の自然、伝統の技術、そして何より作り手の強い思いなのでしょう。