京都・福田家は、初代 福田喜三郎が刺繍をはじめ、1927年(昭和2年)に創業。1970年(昭和45年)より工房名を「福田工芸染繍研究所」として、刺繍、染め、箔加工を用いた作品を制作されています。
平成9年に「刺繍」の分野で初めて人間国宝に認定され、 作家活動とともに後継者育成にも力を注がれてこられた福田喜重氏は、2022年12月にご逝去されましたが、現在は「福田工芸染繍研究所」としてその伝統や技術、想いが引き継がれています。
こちらはその「福田工芸染繍研究所」の作品となります。
鏡裏文(きょうりもん)は、裏鏡(うらかがみ) ・古鏡(こきょう)とも呼ばれる風格ある伝統柄。古い鏡の裏側にある模様を、鏡そのものの形を生かして文様化したものをいいます。 正倉院の中には、裏を金・銀・螺鈿で飾った華麗なものが残されています。 鏡と共に紐を添えて図案化したものも多く、礼装用のきものや帯の文様に用いられています。
上品な青藤色から淡い灰藤色へ、美しいぼかしを染め上げた上に、手刺繍と摺り箔によって、風格豊かな鏡裏文が印象的にあしらわれたドラマチックな作品です。裾元には摺り箔が繊細に舞い、華やかに足元を演出します。
福田喜重氏がよく仰っていた言葉「日本は水蒸気文化の国」。湿気があるからこそ霞や靄で情景がはんなりし、朝焼けや夕焼けが楽しめる日本。その気候を活用し、絶妙な温度で(季節によっては熱を加えて)ゆっくりと暈かしを作り上げる。福田喜重氏独特の「染足の長い暈し」は唯一無二の美しさを誇ります。
古典の風格をしっかりと踏まえながらも、洋装の方も集う現代の着物シーンになじむ感性も魅力です。
最上級のフォーマル。一枚の布に宿された、自然の移りゆく森羅万象と日本人の美意識。
喜重氏の意志を受け継いだ工房による審美眼と至高の繍技、どこから眺めても美しい現代に映えるきものをぜひご堪能ください。
※福田喜重氏につきましてはぜひこちらもお読みください
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