こちらは【平成28年度 第63回日本伝統工芸展 入選作品】です。
工芸展出品作品は、作家の思い入れが別格です。高橋寛さん入魂の逸品、独特の世界観を存分にご堪能いただける作品です。
>>日本工芸会ホームページでも入選作品として掲載されています(外部リンク)
東京友禅作家 高橋寛さんの訪問着作品です。
高橋寛さんの技法は「手作業による筒糊」。
生地の上に無数にあらわれた点描は、「蒔糊(まきのり:乾燥した糊を砕いて蒔く)」による防染ではなく、「筒糊からひとつひとつ手作業で糊を置いていく」という気の遠くなるような手法によるものです。
友禅作品全体でみても、点描のみで表現された作品は希少です。
点の密度の微妙な変化によって模様の面に立体感や奥行きがもたらされ、糊の線描と点描と地染め(引き染)の関係のみで表現される豊かな意匠性は唯一無二。
寒色系の色使いと幾何学的な文様がもたらすモダンさは、自然界とは無縁の幾何学的な要素のみでつくられているかに思われますが、具象・抽象の概念を越えて、水の流れ、風に揺れる枝などの「自然のダイナミズム」を表現しているといいます。
師・人間国宝 中村勝馬氏の「商業主義にとらわれず、時流との妥協をできるだけ避け、最小限度の生活ができる範囲で自分の道を進む」という硬派な思考を受け継ぎ、お一人でストイックに仕事をされ、独自の世界感を追求し続ける一方、日本工芸会にて、後進の育成にも注力。それゆえに制作数が大変少なくいらっしゃいます。
高橋寛さんの訪問着は、演出次第で格を幅広く楽しめるのが大きな魅力です。
訪問着として袋帯を締めれば、パーティーやオペラ、特別な観劇等の華やぎのシーンへ。
総柄の小紋感覚で織名古屋帯、染名古屋帯を締めれば、食事会やコンサート、観劇、ちょっとしたお集りにも大変使い勝手がよく、上等なワンピースのように着こなせます。 流れるような構図が着姿へ注がれる視線をすらりと美しく導き、スタイルよく見せてくれるのも特長です。
大胆に感じられますが、纏うと全体がすっきりとなじみ、バランスがとても綺麗に整い、ご身長的にも幅広く着こなしていただける力がありますので、ぜひ羽織って鏡映りをご覧になっていただきたい作品です。
全方位美しい構成は息をのみます。後ろ姿の美しさも素晴らしいです。
訪問着でありながら小紋感覚にも楽しめることは、フォーマルの機会よりも日常の着用が多い現代のきものシーンにとても重宝いただけます。
まさにリアルクローズの「大人の上質な社交着」。
歌舞伎座などの和空間から、現代建築のモダン空間、どちらにも映える着物です。
高橋寛さんについてはぜひ【和織物語】もご覧ください。
>>【和織物語】「糊の点描と線描~高橋寬の友禅の粋~」(2017年公開)
著者:外舘和子(多摩美術大学教授)
発行:銀座もとじ
>>【作家産地】「高橋寛」作家詳細はこちら