刺繍の人間国宝 福田喜重氏の訪問着作品のご紹介です。
福田喜重氏がよく仰る言葉「日本は水蒸気文化の国」。湿気があるからこそ霞や靄で情景がはんなりし、朝焼けや夕焼けが楽しめる日本。その気候を活用し、絶妙な温度で(季節によっては熱を加えて)ゆっくりと暈かしを作り上げる。福田喜重氏独特の「染足の長い暈し」は、目にするだけで心が水分をそっと含むようです。
こちらの作品にもその美し暈しが実現されています。
作品名:「葡萄唐草」
光をおびると絹本来のしなやかな光沢が輝く焦茶からベージュへ変化する極上のグラデーション。境目の全くわからない、水蒸気を感じるような美しいぼかしの流れに添うようにして、葡萄唐草を斜めの市松状にあしらった創作性豊かなデザイン。
葡萄唐草が持つ異国情緒がモダンに映り、華やかで現代感覚に優れた女性美を印象付けます。
ひとつひとつの葉にほどこされた金銀彩の立体性も見事です
茶系と金の摺り箔が重なり合うと、豪華な華やぎがあふれ、リッチな品格が漂う仕上がりに。
葡萄の紫色もまた大人のエレガンスを高めます。
正倉院文様の伝統的なモチーフに、都会的なセンスを加えた一品は、洋装も集う現代の社交シーンに最適です。
極上の刺繍技術が確かな名品であることをしっかりと伝えた上で、さらに選ばれる方の個性を存分に伝える逸品でございます。
祝賀会、園遊会などへ、大人の女性の最上級のフォーマルとして自信を持っておすすめいたします。
一枚の布に宿された、自然の移りゆく森羅万象と日本人の美意識。
喜重氏の審美眼と至高の繍技による、どこから眺めても美しい現代に映えるきもの。
崇高の美意識をぜひご堪能くださいませ。
福田喜重氏について
「刺繍」の分野で初めて人間国宝に認定された、福田喜重氏。その技術と感性は現代の染織業界の中で絶大な存在感を放ちます。
1932年京都生まれ。幼少の頃から京都随一の刺繍の名匠・福田喜三郎氏の仕事を見て育った喜重氏。時代は昭和15年、奢侈禁止令により刺繍など贅沢作品を作るのはまかりならん、と多くの開業者が廃業を余儀なくされ、喜三郎氏も一時休業に追い込まれたこともありました。
喜重氏もさまざまな迷いの中、父であり師匠でもある喜三郎氏の「家業を守ることもできへん」その一言に、30歳を前に初めて家業を守るということを真正面から見つめ、己自身と相向き合うようになったといいます。
それからはひたすら「布一枚隔てた己の指先から指先へと全神経を集中する日々」。
そうして1997年、その刺繍技術、着物としての美しさ、後継者育成、様々な角度から認められ「刺繍」の分野で初めて人間国宝に認定されました。
『伝統は“守る“のではなく“生かす”もの』と喜重氏は語ります。「刺繍は技術をほどこせば豪華で立派なものができる。でも時代はそれを求めてはいない。実際に着る人のことを考え、着た時に一番その人の魅力を引き出せる色、柄、素材はどういったものか。それを感じてものづくりをしなければ現代に生きる着物づくりはできない。『余白の美』が大切なんです。」
また喜重氏にお話を伺って感じるのは、並々ならぬ色彩への美意識です。「技術だけでなく作品そのものに、現代的なリズム感や清涼感が出なければならない。」過去何十年にも及ぶ研究で、40万色以上の見本を蓄積しているという喜重氏。色表現にかける熱意により、その息をのむ美しさが生み出されます。
「帯は理性、きものは情緒」。纏う人によって豊かな曲線が生まれ、体温と重なり合い、きものに生命力が漲り、豊かな姿情が生み出される。福田喜重氏が奏でる日本の情緒、崇高の美意識をご覧ください。
福田喜重氏につきましてはこちらもご覧ください
【和織物語】「刺繍が誘う華やぎの空間 – 人間国宝・福田喜重の世界 」著:外舘和子
「ぎゃらりートークレポートと工房の様子」はこちら