Vol.40 着物を着るという行為~和服と日本人~|男のきものWEB講座

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着物を着るという行為

着物は構造的には未完成の衣服です。人の体に合わせて立体的に裁断して作られる洋服と違い、着物は直線裁断で作られる平面的なデザインの衣服で、着る人の体に合わせて「着付ける」という行為を経て、初めて完成された衣服となります。

言いかえると、「着物を着るという行為」は、着物という衣服のデザインの一部であるとも表現できます。この点が、仕立て上がった時点でデザインを含め、完成した形状の洋服と大きく異なるところで、これはコーディネートとは別の話です。

このため、「着付ける」という行為が非常に重要な役割を持つことになります。着物は、着るごとに自由にその完成時のデザインを変えることさえ可能な、非常に柔軟性のある衣服なのです。着慣れないうちは、直線裁断の布を、曲線のある身体に纏う方法がわからず苦労もしますが、着慣れて来ると、同じ着物を「自在に着こなす面白さ」を味わえるようになります。

男物の着物の場合は、女性ほど着装の手順が多くなく、慣れると簡単なものです。また、ちょっとしたコツさえ覚えれば、一日着ていてもそれほど着崩れることもありません。とにかく、着物も習うより慣れろです。

よく、着崩れしない着方はないかと問われますが、正直なところそれはありません。むしろ、着崩れする余地のある衣服だからこそ、着ていて楽だと云えるのです。洋服と違い、開口部が多く、帯を締める部分以外は身体に密着しないため、非常に開放的な着心地が楽しめます。

帯が苦しいという人もありますが、それは締める位置が誤っているからで、臍下の腰骨の上にきちんと締めると、実に心地よいものです。帯を締めることで適度に内臓を圧迫することは健康にも良く、コルセット的な効果もあるため腰痛持ちの人にも着物はお勧めです。

このように、着物というのは、物理的なデザインの形状が、ほぼどれも同じであるにも関わらず、着方ひとつで苦しくもなり、心地よくもなり、粋にも野暮にも見える衣服なのです。

着物が直線的なデザインなのは、日本の織物は平織り繊維なので、曲線裁断には向いていないことがその主な理由ですが、結果的に着物はその構造上、簡単に重ね着が可能なため、容易に寒暖の調節が可能な合理的な衣服でもあるのです。

実際に、重ねた布と布の間に自然にできる空気の層が、体温で暖められることで保温効果を持ち、冬は暖かく過ごせます。一方で、自由に風を通す生地でできた夏の着物は、風や空気の出入りを洋服よりも効率的に調節できるため、涼しく過ごすことができるのです。着物が日本の風土に適した衣服だと言われる所以は、そうした点にあります。 さらに着物は洋服と違い、足袋を履く以外は立ち姿勢のままで身に着けていきます。足袋を履く動作や帯を締める動作だけでもある程度の運動量となり、洋服を着る時とは違う筋肉を使うことも関係するためか、着物を着ることは結果的に健康にも良いと考えられているのです。食生活だけでなく衣生活も見直して「着物の生活」を始めれば、きっと健康維持にも役立つことでしょう。