Vol.12 きものの格とお召の話~男性の礼装~|男のきものWEB講座

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きものの格とお召の話

日本のきものには、洋服のような厳密なドレスコードに相当するものは存在しませんが、格の序列は存在します。ただし現在では、礼装と礼装以外とに大きく分けて考えればよいでしょう。

礼装を求められるフォーマルな場での服装は、一般に、どんな国でも日常着とは別の服装とするのが習わしであると言えますから、日本の着物においてもその点だけはきちん理解して着こなしましょう。そうした意味で、一般論としての”きものの格”についてのお話を少しだけひも解いてみたいと思います。

男性のきものは女性の着物ほど種類は多くなく、格式の序列も既婚か未婚かで違うものとなったりもしません。ただ、女性と共通する点は、染めの着物の方が織りの着物よりも格が上とされる点です。最も格が高いのは、第一礼装と呼ばれる黒紋付羽織袴で、これは染めの着物です。続く、準礼装としての装いも色紋付と呼ばれる染めの着物となっています。裃などにも用いられている江戸小紋などの着物も礼装として着用されますが、これも染めの着物です。このため、紬の着物類は高価であっても礼装には向かないということになります(実際には着用するケースもありますが、ここでは一般論として理解して下さい)。

ただし、男物にはひとつだけ例外があります。

同じ先染めの織りの着物でも、「お召し」という種類のものは他の種類の紬類よりも格が上とされ、色紋付と同等の準礼装として着用できます。これは、かつての11代将軍である徳川家斉(1773~1841)が大のお気に入りとして好んで召したことから、将軍がお召しになられたということで「お召し」とまでの名が付き、現在でもこの謂れに習って格付けの上位に入っているということなのです。世の中にはそういうこともあるということで、これも私たちの国の文化だと考えましょう。

一方、紬の着物というのは江戸時代、絹織物の着用を許されていなかった庶民にも許可された着物で、これはもともと商品とならない繭も捨てずに大切に扱った結果、生糸をひく代わりに真綿に変形させ、その真綿から糸を手で紡ぎ出してなんとか織り出された苦労の末の産物でもありました。そうした紬の着物は、主に労働着や普段着としての着用であったため、慣習的にも格としては普段着との位置づけが現在でも名残として残っているのです。

お召しについてはほんとうに例外的な話ではありますが、格式というフォーマル度の判断がどのような理由でなされてきたかについて言えば、かなり乱暴な言い方にはなりますが、一言で言えば”見た目”の問題だといえます。一般には、織りの着物の方がしっかりした生地で丈夫であるため普段着向きということと、染めの着物の方がしなやかな感じであり、なおかつ手書きの技法も含めて自由で優雅な彩色表現が可能であるからという具合に説明されますが、要するに見た目のイメージによってフォーマル度を判断しているのだともいえます。ただし、着物の場合にはそこにもう一つ、次のような非常に物理的な理由が存在しています。

それは、紋の存在と、紋の種類にも格式の序列があるということとの関連です。和装では礼装の条件として紋を入れるという習慣がありますが、最も格式が高い紋は「染め抜き日向紋」といい、これは後で染める手法で作る着物でなければ基本的に染め抜き紋にはできないことから、必然的に染めの着物が格式の上位になったと考えられます。紋の種類についての詳細はここでは省略しますが、後染めの着物は脱色して色を抜くことも可能なのですが、先染めの糸で織られた織りの着物ではこの脱色が困難であり、紋を付けるとしたら刺繍するタイプの縫い紋に限定されてしまうのです。こうした事情が背景にあり、着物の格式が今日まで受け継がれているわけです。それでもお召しだけは特別な事情から浮上した類まれなる男子和装のフォーマルウェアであるといえるでしょう。