草木染の植物辞典 ~自然の命から染めた色~

草木染の植物図鑑

アカネ[茜草]

アカネ科アカネ属のつる性多年生植物で、日本で最も古くから使われている赤系染料。根が赤いことから「赤根」と呼ばれ、「茜」の字は西の空を染める草から、という説や、西方から渡来したためという説も。日の丸の赤色は、当初はこの染料で染められていました。青みのない、やや黄みを含んだ赤。媒染剤により、浅緋色、茜色、赤橡色等が染まります。


コチニール、カイガラムシ[介殻虫]

メキシコなどの南米地区で採取されるサボテンにつく介殻虫の一種で、動物性の染料です。中南米で古くより染色に使用され、マヤ文明、アステカ文明の発掘品からコチニールで染めたものが見られます。日本には、桃山時代に渡来したといわれています。赤紫色、紫がかった鼠色等が染まります。


コブナグサ、カリヤス[小鮒草、刈安]

イネ科コブナクサ科の一年草で、日本全土、アジア熱帯地方によく見られ、その外観はススキによく似ています。古代から使われている染料の一つで、「小鮒草」は葉の形が鮒に似ていることから、また「刈安」は「刈りやすい草」から名付けられたと言われます。八丈島に古くから伝わる絹織物の黄八丈の黄色染料として使われ、茎葉を刈り取って染料とします。鮮やかな黄色から、狐色、海松色、焦茶色、若草色等が染まります。


タマネギ[玉葱]

ユリ科ネギ属の多年草。地中海沿岸で古くから育てられ、日本では明治初年に北海道の開拓使により栽培されて以来、全国に広まりました。外皮を染料として、赤茶色、柑子色(こうじいろ=明るい黄赤色)、金茶色、海松色(みるいろ=黒色掛った黄緑色、オリーブグリーン色)、焦茶色等が染まります。


ニッケイ[肉桂]

クスノキ科クスノキ属の常緑高木で、染色には主に樹皮を用います。古来より薬用、香味料としても使用され、桂皮(けいひ)は漢方薬としても知られています。名前の由来は、中国では香木を「桂」と呼び、ニッケイの樹皮が厚いことから、肉桂の名になったと言われます。香色、濃香色、黒味香色等が染まります。


ヌルデ、ゴバイシ[白膠木、五倍子]

ウルシ科ヌルデ属の落葉高木。ヌルデの名は、傷ついた幹から出る白い粘液を塗料として使ったことに由来するとされ、聖徳太子がこの木で戦勝を祈願する仏像を作ったことから「勝の木」「勝軍木」と呼ばれることもあります。また、ヌルデの木に寄生する虫の瘤を五倍子と呼び、これを染料として藤鼠色、黒橡色等が染まります。秋、他に先駆けて紅葉し、その葉からは黄金色等が染まります。


ムラサキ、シコン[紫草、紫根]

ムラサキ科ムラサキ属の多年草。天日干しをした根を紫根と呼び、紫根染は、藍染、紅花染と並ぶ日本三大色素のひとつ。古来から貴重な染料として用いられ、聖徳太子が制定した「冠位十二階」でも紫色は最高位とされていました。飛鳥、奈良、平安時代では天皇、公家にしか使用が許されない禁色(きんじき)であり、鎌倉時代に禁止色でなくなると身分の高い武将が鎧に取り入れるように。江戸時代には「江戸紫」「京紫」は高貴な色として庶民の憧れでした。もとは山地や草原に自生しているものですが、現在野生の紫草の根で染めることはほぼ不可能といわれています。


モッコク[木斛]

ツバキ科モッコク属の常緑高木。端正な樹形が美しく、手入れが少なくすむことが好まれ、モチノキ等と並び「庭木の王」と呼ばれる樹木。また江戸五木(江戸時代に江戸で重視された造園木。他にアカマツ、イトヒバ、カヤ、イヌマキ)の一つでもあります。土地によって古くから樹皮や幹材が染料に用いられてきました。赤橡色、藤色煤竹色、紫褐色等が染まります。


ヤシャブシ[矢車附子]

カバノキ科ハンノキ属の落葉高木。日本固有種で、西日本に多く自生し、やせ地でもよく育つことから、砂防用の緑化にも用いられています。「夜叉附子」の字を当てることもあり、夜の色、黒を染める染料として古くから用いられ、歯を黒く染めるお歯黒にも使われていました。松笠のような実、また樹皮や葉も染色材に利用できます。紫黒色、黒茶色等の黒系だけでなく、茶味の黄色、黄茶色等も染まります。


ヤブデマリ[薮手毬]

スイカズラ科ガマズミ属で山谷の谷沿いに自生する落葉低木。5〜6月に白い花を咲かせ、花が終わってすぐにできる赤い実は雑木林の中でもよく目立ち、小鳥のエサになります。日本のほか中国や朝鮮半島にも自生し、花や実の美しさから、近年は庭木として使われる地域もあるようです。緑葉を採取して染色し、赤茶色、洗柿色、赤鳶色、黒鼠色、藤色煤竹色等が染まります。


ヤブマオ[薮苧麻]

イラクサ科カラムシ属。山野に自生する多年草で、藪に生えることからこの名が付けられたと言われます。夏の着物「上布」の糸の原料であるカラムシの仲間であり、かつては同様に茎の繊維から布が織られていました。茎葉を染料として、灰桜色、薄小豆色、薄鳶色、赤橡色、小豆色、鼠色、紫褐色が染まり、山崎青樹氏は『草木 染色植物図鑑Ⅰ』の中で「試し染めした結果、思いがけない色に染まったものの一つ」と綴っています。


ヤマモモ、シブキ[楊梅、渋木]

ヤマモモ科ヤマモモ属の常緑樹。本州中部以南の温暖な地方で育ち、背が高く沖縄では防風樹としても植樹されています。果実は熟すと暗紫色になり食用可。樹皮は古くから染料や薬用に用いられ、染めた布は耐水性が増すことから魚網を染める染料としても使われたことも。樹皮は別名「渋木」と呼ばれ、江戸時代には特によく使用された代表的な染料です。黄色、黄茶色、金茶色、海松色、昆布茶色等が染まります。